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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第参章 下地構築
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参之伍 検証

「はぁ……」

 呆れと怒りの籠もった溜め息に、私は肌が粟立つのを感じて、慌てて湯船に顔を付けた。

 私が『狐雨』で特訓場に雨を降らしてしまったせいで、びしょびしょになった私たちは、揃って湯船につかっている。

 学校の立地が山奥なので、濡れたままでは風邪を引いてしまう為に、花子さんの厳命によって雪子学校長と揃って湯船に放り込まれた。

 一応、私なりに事態を解決しようと思って、狐火を出して水を蒸発させようとも思ったんだけど、安易な術の使用はするなと、もの凄く怒られてしまったので、大人しく湯船につかっている。

 ちなみに、今一緒に湯船につかっている雪子学校長は、花子さんよりお姉さんくらいの見た目に変化していた。

 理由は私の代わりに後始末をしてくれたからなので、そこも心苦しい。

 簡単に言うと、私が無闇に『狐火』を使おうとしたので、あっという間に巻き戻しの術で、水浸しの前の状態に戻してくれた。

 結局、振り返ってみれば、狐火はともかく、雷で皆をしびれさせて、訓練場を水浸しにして、能力でのフォローも出来ず、片付けにも私は参加出来ていない。

 思い返すだけで、お腹の底から這い上がってきた重たい気持ちが「はぁ」という溜め息となって、私の口から漏れ出た。


「卯木くん」

「は、はい!」

 急に名前を呼ばれて、私は雪子学校長を見た。

「そろそろ自分を責めるのはやめたまえ。君の軽率さは反省すべきだが、初めてのことで仕方の無い部分もあったんだ」

「は、はい」

 手放しでのフォローでは無く、釘を刺すところはきっちりと刺す雪子学校長の言葉で、私は何故かホッとしてしまう。

 そんなことを思っていると、雪子学校長はニヤリと笑って「早速だが実験をしよう」と切り出した。

「花子も観察して欲しい」

「うん、お姉ちゃん」

 雪子学校長にそう答えながら、花子さんが水音を立てながら、私の横に入りゆっくりと腰を下ろす。

 花子さんは私の髪を洗ってくれた後で、自分の髪を洗っていたので出遅れたのだ。

 私の横に座った花子さんが肩まで湯につかったところで、私は視線を雪子学校長に移す。

「あの、実験って、何をするんですか?」

 私の質問に対して、雪子学校長は「まずは、その状態で狐耳と尻尾を消してみてくれるかな?」という指示を出してきた。

 一瞬、人間の姿に慣れと言うことかと思ったが、それなら人間に変化するようにと言うだろう。

 ならば、雪子学校長の求めているのは、この状態で狐の耳と尻尾を見えなくすることだなと考えて、私は早速意識を集中させた。

 お湯の熱気があるにも拘わらず、耳と尻尾に熱が籠もるのがわかる。

 能力で感じる熱は、肌で感じる実際の気温や水温とはまた違ったモノなのかも知れないと思いながら、耳と尻尾を消すことに更に集中すると、私の中で『終わった』という感覚が生まれた。

 集中を解いた私は次の指示を求めて、雪子学校長に視線を向ける。

 すると、雪子学校長は私では無く、花子さんを見ながら「どうだ?」と質問を投げた。

「ちょっと待ってね」

 花子さんはそう言うと、どこから取り出したのか、電子パッドを取り出す。

 その唐突な持ち込みに私が動揺している間に、何かの作業をし終えた花子さんは、私と雪子学校長に見えるようにパッドの画面を向けた。

 そこには私の後ろ姿が映っている。

 私の長い髪は洗い終わった後で、タオルで巻いて頭の上に結い上げられていた。

 タオルからこぼれ落ちた後れ毛とうなじが、目につくが、それが自分の物だと思うと妙に居心地が悪い。

「見てわかると思いますけど、尻尾は消えているように見えますね」

 花子さんにそう言われて、私は二人の注目点が私の後ろ姿では無かったと気付いて、一気に羞恥心が爆発した。

 ここに二人がいなければ『自意識過剰かっ』と叫んでしまいそうな羞恥心を押さえ込んで、私は可能な限り澄まし顔で動画を確認する。

 直後、私は動画に対して違和感を覚えたのだけど、それがなんなのかはっきりとはわからず、言葉があやふやになってしまった。

「あれ、でも、なにか……ヘン……です?」

 そんな私の発言に対して、花子さんが、画面を操作してズームさせる。

「おそらく、凛花さんの違和感の正体はココですね。恐らく、消えて見える尻尾がここにあるのだと思います」

 花子さんにそう言われて、画面を注視した私は、思わず「あっ」と声を上げた。

「この辺、水面の揺れの形が違うっ!」

 私の興奮気味の発言に、花子さんは「そうですね」と最初に同意してくれる。

「この、円形に広がる波紋が、尻尾が実際の水面に立てているモノで、その内側の水面は、尻尾が、()()()()()()()部分だと思います」

 花子さんの断言になるほど!と思った私だったが、よく考えると説明できるほどには飲み込めていなかったので、助けを求めるように視線を花子さんに向けた。

 私の視線だけで、いろいろと察してくれたらしい花子さんは苦笑気味に、言葉を補足してくれる。

「耳と尻尾を消すというのは、物理的に消えているのでは無く、消えて見える……幻術の系統だと思います。なので、お湯の中で尻尾が消えると、そこに尻尾の分の空間がぽっかり出現するのでは無く、尻尾の部分にもお湯があるように見えるんだと思います」

 花子さんの説明に、私は今度こそ心の底から「なるほど!」と声を上げて頷いた。

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