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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第壱章 教師赴任
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壱之肆 学校長緋馬織雪子

 僕は確かにいろいろと余計なことを考えていた。

 だからというわけでは無いが、校長室に足を踏み入れて、大きな椅子の背もたれで隠れていた『学校長』が椅子毎くるりと回って、姿を見せた瞬間、僕は「え?」と声を漏らしてしまう。

 何しろ、『学校長』の姿があまりにも予想外だったからだ。

 軽い頭痛を覚えながら、おでこに手を当てて、花子さんに尋ねる。

「えーと、彼女は生徒さん?」

「いいえ」

「花子さんの妹さん?」

「いいえ。私の姉の雪子です」

 きっぱりと言い切った花子さんに向かって、僕はつい声を荒げてしまった。

「そんなわけ無いですよね! 彼女どう見ても小学生、良くて中学生ですよ? 花子さんより年下にしか見えませんよ? いきなりですか、いきなり新任教師をいたぶる、洗礼って奴ですか!?」

 完全に取り乱してしまった僕に対して、花子さんは実に落ち着いた口調で「違います」と言い切る。

 きっぱりと断言する花子さんは、確かに僕を揶揄っているように見えなかった。

 だが、確かにウソを言っていないように見えるが、しかし、どう見ても小学生にしか見えない椅子に座る少女が、花子さんの姉で学校長なんて、とても事実として飲み込めない。

「あー、ぐー、うーー」

 何かを言わなきゃいけないと心は訴えるのに、まるで頭の中で考えがまとまらず、僕はまともに言葉も導き出せなかった。

 すると、そんな僕と花子さんのやりとりを見ていた『学校長』で『姉』だという少女が口を開く。

「あー、林田くん、落ち着きなさい」

 その綺麗なソプラノボイスに頭の重みが増した。

 どう考えても、大人の女の声ではないし、というか、若干舌っ足らずなので、明らかに子供の声に聞こえる。

 少なくとも成人をしているように見えない容姿に声が、花子さんのウソや揶揄いなどしていないという態度が、僕の脳みそをぐちょぐちょにかき混ぜた。

 瞬間、先ほどの決意が不意に脳裏に浮かぶ。

 あ、素直に受け入れよう……そう思うと、急に心の中の荒れ模様は一瞬で凪へと変わった。


「……林田京一と申します。学校長、お世話になります」

 僕は気付けば、学校長の椅子に座る少女に向かって、深く頭を下げ挨拶していた。

 冷静に考えれば、僕は子供達に勉強を教えることが努めで、目の前の少女が生徒で無く、学校長だというのなら、それを素直に受け止めれば良い。

 生徒なら、悪戯はいけないと指導すべきだけど、上司なら、別にそんな必要も無いわけだ。

 そう開き直ってしまえば、僕の中の常識とは違うだけで、受け入れがたいって程のモノでもない。

 極端な若作りだと思っておこうと僕は、自分なりの落とし所を見出したところで、学校長の椅子に座る少女は大爆笑を始めた。

「あはははははははは」


「林田君、キミ、面白いね」

 笑いすぎて目元に浮かんだ涙を拭いながら学校長を名乗る少女はそう言って笑って見せた。

 対して僕は「ありがとうございます、学校長!」と返す。

 長いアルバイト経験で培った経験で、『長』とか『リーダー』とか就く相手には、素直に従い、その言葉は好意的に受け止めるのが、僕の処世術だ。

 若干、花子さんの苦笑と共に放たれる視線が気になるが、僕は目の前の少女を学校長だと認識することにしたので、行動に後悔はない。

 そして、僕の態度に随分と機嫌を良くしたようで、パチパチと拍手をした少女は、勢いよく学校長の椅子から飛び降りるようにして立ち上がった。

 既に見た目が小学生だったので予想していたことだが、机の横に立つとその身長の低さが際立つ。

 まあ、部下モードに気持ちを改めている僕はそんなこと絶対指摘はしない。

 その間に少女はにこやかに笑いながら自らの胸に手を置いた。

「改めて、私は緋馬織小学校と中学校の学校長を任されている緋馬織雪子です。よろしく、林田くん」

「はい、よろしくお願いします!」

 机越しに出された雪子学校長の右手を、全身を伸ばして両手で掴み握手を交わす。

 こうして全面服従の姿勢を見せ、僕は教師生活への不安を一つ拭い去った。

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