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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第拾参章 試行錯誤
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拾参之肆拾玖 靴下

 ただ服を脱ぐだけ、ただそれだけなのに、ヘルメットを外した時、私はもの凄く疲労感を覚えていた。

 肉体的なものではなく、精神的なものが大きいと思う。

「あ、リンちゃん、もう一回リンクして貰って良い?」

「え?」

 気を抜いたタイミングだったので、そう返す以上の行動を起こせなかった。

 そんな私に、志緒ちゃんは理由を語る。

「私のお人形が着てた制服に着替えて、返信してみて欲しいの」

 その上で志緒ちゃんは「舞花ちゃんに頼む?」と私にだけ聞こえる程度の置き差で付け足した。

 こう問われれば、私の答えは決まったも同然である。

「次の実験に入りましょう」

 私はそう宣言して再びヘルメットを装着した。


 自分の人形にリンクをし直して、意識的に視界を切り替えた。

 人形の体だと、暑さ寒さは感じないし、空気に触れるような感覚もしない筈なのだけど、制服を脱いで下着姿だという意識があるからか、心なしか肌寒い気がする。

 視界に自分の肌色が見えると気持ちが乱れてしまいそうなので、体が視界に入らないように真っ直ぐ前だけを見ていると、志緒ちゃんの顔が現れた。

『志緒ちゃん』

 私がその名前を呼ぶと、志緒ちゃんは「はい、リンちゃん」と口にして、手をこちらに近づけてくる。

 その掌の上には一組の制服が乗せられていた。

 これを志緒ちゃんの人形が着ていたと考えると、恥ずかしくなりそうだったので、無心で制服に手を伸ばす。

 が、すぐに志緒ちゃんから「まって、リンちゃん!」とストップが掛かった。

『にゃっ……なんですか?』

 人形の体を使っているにも拘わらず変な声を出してしまったことが恥ずかしい。

 その上で、志緒ちゃんが笑わないようにギュッと唇に力を込めたのがわかって、その配慮が申し訳ない上に恥ずかしかった。

 志緒ちゃんはそんな私に「最初にタイツから履いた方が良いと思うよ」と言う。

 そう言われて視線を少し動かしてみると、制服の下の方に黒く細いものが置かれているのが確認出来た。

『タイツから……』

 そう呟きつつ、スカートやブラウスを持ち上げつつ、下になっていた黒い薄手のタイツを引き抜く。

 人形の体自体には人間のような体温はないし、そもそも温度を感知出来ないので、当たり前なのだけど、手にした黒タイツには温もりはなかった。

 もしも温かさがあったら、そこで狼狽してしまいそうだっただけに、新品だと思い込めるのは、正直助かる。

 タイツをはくために視線を落とすと、肩紐が太く袖のないランニングタイプのシャツとパンツ、そして、黒の太ももまでの長さがある長い靴下が視界に入った。

 脱がないと駄目だなと判断した私は、一端、手にしていたタイツを志緒ちゃんの手の上の制服の山の上に載せる。

 そのまま右足の靴下の吐き口、ゴムになっている部分に親指を差し込んだ。

「あ、リンちゃん、ニーソ、脱げる?」

『流石に、脱ぐくらいなら……』

 そう返してゴムに差し込んだ両手を下に押し込んで、反対に足を持ち上げる。

 膝を折りながら太ももから膝、すねへとゴム口を滑らせていき、最後に足首を動かしつつ、右足から靴下を抜き取った。

『できました』

 脱いだばかりの靴下を見せながらそう言うと、志緒ちゃんは「あー」と妙な反応をする。

 私が首を傾げると、志緒ちゃんは少し困ったように笑いながら「私は立ったままで脱げるのかなって言う意味で聞いたんだよ」と口にした。

『もしかして、普通は立ったまま脱がないんですか?』

 女性服に対する知識はまだまだ勉強中の私だけに、やらかしたかもしれないという思いで背筋が寒くなる。

 志緒ちゃんは私の言葉に対して「立ったままで脱ぐのが難しいだけで、脱ぐ人はいると思うよ。リンちゃんみたいに」と微笑んだ。

『この人形の体が、バランスがとれているからかもですね』

 私は志緒ちゃんにそう返しながら、確かに片足立ちで靴下を脱ぐのは、短くても出来ない人もいるなと納得する。

 そこに、舞花ちゃんが「舞花は、座って脱いだり履いたりするよ」と会話に入ってきた。

 私が『なるほど』と頷くと、舞花ちゃんはなんだか不思議な表情を浮かべる。

 何か言いたいのを堪えているというような感じに見えたので、ストレートに『何か言いたいことがありそうですね』と言ってみた。

 舞花ちゃんは「えへへ、わかっちゃう?」と聞いてきたので、首を縦に振って肯定する。

「実は、今、制服を脱ぐ時、舞花、立ったまま脱いだんだよ、靴下!」

『そうなんですか!』

 事前に座ってやると宣言しただけに少し驚いたけど、舞花ちゃんは人形のバランス感覚のお陰で立って出来たと喜んでるのかなと予測した。

 けど、その推測は違っていたらしい。

「スーちゃんに寄りかかりながらやったんだよ!」

 嬉しそうな舞花ちゃんの言葉で、ステラに寄りかかりながら脱いだのが嬉しかったんだと理解した。

「ふわふわで柔らかくて気持ちよかったんだ!」

 残念ながら、嗅覚や温度を感知する力など、対応出来ていない感覚はあるものの、人形の体でも十分に心地よいと思えたのだと思う。

 それを私や志緒ちゃんにも伝えたがっていたんだと思うと、そんな舞花ちゃんがとても愛らしく思えた。

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