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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第拾参章 試行錯誤
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拾参之肆拾漆 女子力

「ど、う? リンちゃん?」

 なんだか形容しがたい不思議な表情で舞花ちゃんが尋ねてきた。

 ヘルメットのバイザー越しに見る様子では、不安と困惑が強くて、ほんの少し期待が籠もっている感じに見える。

 ただ、聞きたいのは改善が上手くいったかどうかだろうと思うので、私は一端ヘルメットを外して、舞花ちゃんに差し出した。

 口で説明するよりも体感して貰った方が良いと思ったのだけど、舞花ちゃんは受け取りを躊躇っているようで、手を伸ばしたり引っ込めたりを、指の握りと開きで示している。

 その様子から躊躇いはほんの少しなんだろうと思った私は「大丈夫です、体感してみてください」とちょっと背中を押してみた。

 私の後押しが功を奏したかはわからないけど、舞花ちゃんは多少躊躇いがちに、でもちゃんとヘルメットを受け取ってくれる。

 そのまま、舞花ちゃんはヘルメットを両手で持った状態で動きを止めてしまった。

 しつこいかなとは思ったものの、このままでは先に進まそうだったので「被ってみてください」と声を掛ける。

 そこでようやく決心を決めてくれたのか、舞花ちゃんはゆっくりとした所作でヘルメットを被った。

「あ、涼し……え、なんか……お花の匂い?」

 ヘルメットを装着した舞花ちゃんは、私の用意した仕掛けに驚いてくれたらしい。

 内部を冷却するために追加した冷気を送り込む送風システムには、装着者がリラックス出来る香りが放出される仕組みも組み込ん田尾だけど、無事機能したみたいだ。

「落ち着く香りが放出されているんですよ」

 少し得意げに言うと、舞花ちゃんは「そうなんだ! で、えっと、このお花はなんていうお花?」と首を傾げる。

「花の香りってことは、フローラルなので……バラとかかな……」

 つい疑問調になってしまったことで、リンリン様が興味を示した。

『なんじゃ、主様。自身で作ったものなのに、香りの正体がわからぬのかの?』

 馬鹿にするというよりは、揶揄うような口ぶりで言うリンリン様に、私は冷静に答えを返す。

「リンリン様。リラックス出来る香りというのは、体調や気分によって変わるのです」

 その発言に、強く反応したのは、ここまで傍観姿勢だった志緒ちゃんだった。

「もしかしなくても、ヘルメットを被ってる人の状態によって香りが変わるって事だよね、それ!」

 私は少し得意な気持ちになって、頷きながら「アロマセラピーってあるでしょ? 私も聞きかじりだから詳しくないけど、気持ちや体調に合わせてリラックス効果のあるアロマの香りを変えるって聞いて、その機能を載せてみたらどうかなって思ったんだよ。ちなみに私が被った時は柑橘系の匂いがしたよ」と説明してみる。

 すると、思いも掛けない言葉が飛んできた。

「リンちゃん、女子力高いね!」

 心臓を抉るような一頃に、呻き声を上げそうになる。

 が、それは私だからダメージを受けたのであって、志緒ちゃんの意識としては純粋な褒め言葉のはずだ。

 ショックを受けるのはおかしいと考えて「そ、そうかな」と返す。

 一応私なりの笑顔を添えたつもりだけど、自覚出来るレベルにはぎこちなくなってしまった。

「ん? 女子力高いっていうのはリンちゃんは嬉しくない?」

 志緒ちゃんは私に違和感を覚えたらしく、すぐに質問してくる。

「う、嬉しくないわけですよ」

 正直に言えば微妙だけど、褒めてくれたのはちょっと嬉しいので、ウソでもない筈だ。

 ただ、それだけでは言葉が足りないだろうから「ただ、そんなことを言って貰えるとは思ってなかったので、ビックリの方が大きいです」と事実に基づいて説明を足す。

『主様は慎み深い女性じゃな』

 相変わらず揶揄うような口調で言うリンリン様に、少し引っかかりを覚えたものの、どうにかスルーした。

「とにかく、実験を再開しましょう」

 このままではまったく話が進まなくなった上に、心を削られそうな話に転がっていきそうだったので、そう言って切り上げる。

 そのタイミングで「リンちゃん」と声を掛けられた。

 声の主、舞花ちゃんを振り返ると、ヘルメットを差し出される。

 受け取ったところで、どこか恥ずかしそうにはにかんだ様子で私の耳に顔を寄せた舞花ちゃんは、とっても小さな声で「ありがとう、リンちゃん」と口にしてから、ささっと離れていった。

 舞花ちゃんの照れが伝染(うつ)ったのか、少し頬が熱い。

 その事実を誤魔化すように受け取ったヘルメットを少し急ぎ目に装着した。

 被った時に感じるアロマの香りは柑橘ではなく、ハーブ系に切り替わったみたいで、ヘルメットに落ち着きなさいって言われているような気分になる。

 少し恥ずかしさが増したものの、結果的に実験には成功したんだとプラスに受け止めて、私は「それじゃあ、改めてリンクしますね」と宣言してマットに座り直した。

 マットに横たわり、自分の人形をセレクトして、リンクを開始する。

 視界が人形のものに切り替わったことを確認して『それじゃあ』とこれからの行動を宣言しようとして思い出した。

 制服を脱ぐ。

 既に舞花ちゃんもしたことだし、志緒ちゃんはリンクせずに自分の手で脱がしているので、私もそれに倣うだけなのだけど、宣言するのがもの凄く恥ずかしくなってしまって、宣言の言葉が出なくなってしまった。

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