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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第参章 下地構築
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参之肆 イナヅマ

「今のは……凛花さんが出したんですよね?」

 私の周囲に出現と消失を繰り返していた無数の炎を探すように視線を巡らせながら、花子さんがそう尋ねてきた。

 状況的には、私が出したのだろうとは推測出来たが、確信がないので、曖昧に「たぶん」としか答えられない。

 変化する時には、額に意識を集中した上で、全身や局部を包む熱という変化を感じているが、対して今の炎の出現には、そう言った違うとわかる感覚は無かった。

「狐火と口にしたのが切っ掛けのようだね」

「きつね……」

 指摘された言葉を、思わず繰り返しそうになった私を、手の平がこちらに向けて、雪子学校長が止めてくれる。

「不用意に口にしないように、恐らく『呪文』だ」

「呪文……」

 雪子学校長は、素直に繰り返してしまった私にジト目を向けた。

「君、少しは学習をしたまえ」

 言われてハッとした私は、両手を使って口を覆い隠す。

「……今更だよ……」

 ジト目に加えて呆れた溜め息を追加されてしまった私は、穴があったら入りたいという気持ちを実感することとなった。

「次から気をつけたまえ。君はいささか素直すぎる」

「は、はい」

 申し訳なさで胸が一杯だったが、それでも返事だけはする。

 うまく出来ていないとはいえ、私も改善の必要性は感じているのだ。

 その思いが通じたのかどうかはわからないが、雪子学校長は苦笑を浮かべてから、話題を切り替える。

「ともかく、今、君は火を扱うことが出来たわけだが、他には何か出来そうかね?」

「そう……ですね」

 雪子学校長の言葉を受けて、私は自分の力を探るために目を閉じた。

 狐火の時は自然と言葉が口から出てしまったので、意識的に自分の中から見つけ出したという感じではない。

 なので、目を閉じたものの、ここからどうすればいいるのかが、まったく見当もつかなかった。

 キツネ化による感覚強化の一環で、感覚が鋭くなっているせいか、目を閉じていても、雪子学校長や花子さんの視線が私に向いているのが凄くわかるので、何かしなければという焦りが徐々に大きくなっている。

 その焦りが大きくなっていく中、私の思考は雪子学校長の言葉を辿った。

 順番に雪子学校長の言葉を、私はいつの間にか声に出してしまう。

「自然現象、炎、雷……『稲妻』」

 直後、視界が白一色に包まれた。


「……卯木くん」

「すみません」

 私が不用意に口にした言葉は、またしても『呪文』だった。

 不用意に口にしてしまった『稲妻』という呪文を切っ掛けに、訓練所中に電撃が走ったのである。

 視界が白一色に塗りつぶされる程の強力な電撃で、私たちは今現在三人揃って床に転がることになってしまった。

 三人とも体が、私の放った電撃でしびれているからなので、とても申し訳ない。

「お、おねいひゃん。いちおー、凛花ひゃんの能力確認にゃんれふから、おこってはだめれふよ」

 フォローに入ってくれた花子さんだったけど、体がしびれてるせいで言葉が怪しくなってしまっていた。

 とても居たたまれない。

「とみょかく、ほにょおについで、かみなりまで、つかえてしゅごいれふよ」

「確かに、炎に雷となれば『神世界』でも助けになる可能性は高いな」

 花子さんの言葉に、雪子学校長も同意した。

 認められたような気がして、私はつい笑みを浮かべてしまう。

 だが、私は尻尾があるせいで自然と体が横向きになるので、その笑顔をバッチリ雪子学校長に見られてしまった。

「まったく……だが、子供達の助けになると思えば、君のその笑顔も理解出来るよ」

 呆れに苦笑が混じったような表情だったけど、雪子学校長の言葉は優しく響く。

「……そんなに、表情に……出てましたか?」

 少し自覚はあったけれど、確認の意味も込めて、私は雪子学校長に尋ねた。

 すると、雪子学校長は「実に年相応の屈託のない笑顔だったよ」と返してくる。

 私はその言葉に「ちょっと待ってください」とストップを掛けた。

「年相応って、今の見た目の年齢ですか、実年齢ですか?」

 雪子学校長は私の問いに曖昧に微笑む。

「もう、なんですか、すっごいモヤモヤするんですが!」

 私の改めての抗議に、雪子学校長は視線をこちらから天井に移して、口元に笑みを浮かべながら「年相応は年相応だよ。察したまえ」と話を切った。

 その上で、こちらに視線を戻さずに「それよりも不用意に、呪文を発動させないように!」と口にする。

 私とて、そんなに何度もミスをするつもりはないので、しっかりと返答をしておくことにした。

「大丈夫ですよ。そもそも、炎の呪文も雷の呪文も、雪子学校長のヒントで浮かんだんですから、私にはもう思い浮かぶものなんてないですよ」

「なら良いんだがね」

 雪子学校長のその返答が、どこか投げやりに聞こえて、私はついムキになってしまう。

「キツネに関わりがあるもので思い付くものなんて、後は『狐雨』……」

「卯木くん!」

 発言の途中で、雪子学校長が首を捻って私を見たが、未だ体のしびれているせいでそれ以上動ける者はいなかった。

 結果、私の『狐雨』で降り出したのであろう屋内の雨を、私たち三人は床に転がったまま浴びることになる。

 全身がぐっしょりと濡れ、新たに落ちた雨が波紋を広げられる程度に水で満たされた床を呆然と見詰める僕に、雪子学校長からの雷が落ちた。

「う、の、き、く、ん!!!!!」

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