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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第拾参章 試行錯誤
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拾参之肆拾参 変身

『そ、それじゃあ、スーちゃん、お、お願い!』

 緊張気味に指示を出したのは舞花ちゃんの人形だ。

 改めて自分の人形にリンクした舞花ちゃんは、変身に挑もうとしている。

 噛み噛みなのは緊張だけでなく、気の逸りも含んでいるのかもしれないなと様子を覗っていると、ステラが『マイちゃん変身だっ!』と舞花ちゃんの人形に向けて声を掛けた。

 最初に変身した時の双葉ちゃんを意識してか、素なのかはわからないけど、舞花ちゃん人形は『う、うん!』と突っかかりながらも大きく頷く。

 直後、舞花ちゃんの人形が『えっ!?』と一瞬だけ驚きの声を上げた。

 何か起きたのかという不安と心配で、表情を凝視↓タイミングでは、舞花ちゃんの人形の顔は満面の笑みになっている。

 一応本体であるマットの上で横になっている舞花ちゃん自身の体の方も目で見て確認してみたけど、おかしなところはなさそうなので、変身が始まったと思われる人形の方に視線を向けることにした。


 既にアイガル用の人形で一連の変身シーンは見ているものの、サイズが大きくなったのもあってか、迫力が数段増しているように感じられた。

 サイズが大きくなったことで、指先の動きや操る風にたなびく衣服の様子までがはっきりと見えるというのが大きいのかもしれない。

 制服から魔女服へと全ての衣服が切り替わり、変身完了を宣言する決めポーズを舞花ちゃんの人形が取った。

 それほどアニメで変身シーンを見ていない私ですら、思わず「そっくり」と言ってしまう程に完璧な変身シーンだと思っていると、決めポーズを解いた舞花ちゃんが手にしたステッキを志緒ちゃんに向けた。

『しーちゃんでしょっ!』

 普段の舞花ちゃんから聞いたことのない僅かに怒気の籠もった声に、どうしたのだろう敏夫ちゃんを見る。

 私を含めたその場の皆の視線を集めた志緒ちゃんは平然とした顔で「何が?」と首を傾げた。

 対して舞花ちゃんの人形は、ブンブンとステッキを振り回しながら『だって、体が勝手に動いたもん! 動きも完璧だったし!』と訴える。

 そんな舞花ちゃんの人形に向かって、志緒ちゃんは「ふっふっふ」と怪しく笑った後で何度も頷いて見せた。

「さすがマイちゃん……気付いていたのね! 私が新たに追加した機能に!」

『追加した機能!?』

 志緒ちゃんの発言に対して、舞花ちゃんの人形は大きく驚いたジェスチャーを取る。

 流石に学習した私は、茶番劇(なりきり)が始まったのを感じて、巻き込まれないように気配を消すことに専念した。

 そんな私の心理を的確に読み解いたのか、いつも通りの軽い足取りでリンリン様が頭に舞い降りたけども、反応しないように心を無にして耐える。

 こちらが無反応なのが面白くないリンリン様が如何に頭を叩いてきても、ここは無視一択を貫くと心に決めて、私は不動の姿勢を貫いた。


 私がリンリン様の急減強弱を付けた前足攻撃を耐えている間、舞花ちゃんと志緒ちゃんのやりとりも進んでいた。

「ズバリ変身アシスト機能よ!」

『変身アシスト!?』

 志緒ちゃんがワードを披露し、舞花ちゃんが大袈裟に反応をするルールらしい。

 このノリは参加する自身が無いので、見守る一択だというのに、頭の上のリンリン様は私を混ざらせたい様だ。

 前足アタックが少し強めになってきている。

 だが、反応さえしなければ、私は登場人物にはならず、二人の寸劇は遮られることなく進んで行った。


「マイちゃんもアニメの通りになら無くて、気になっていた箇所があるでしょう?」

 志緒ちゃんの問い掛けに、舞花ちゃんは大きく体を震わせて動揺を示した後で、視線を下に落として『あ……ある……かも……』と認めたくないことを認めるような雰囲気で同意した。

 それが舞花ちゃんの心境に由来するのか、アニメのシーンの再現なのかはわからないが、認めたくないことでも頑張って告白して偉いと思ってしまう程には、感情移入してしまっている。

 自然のようにも思える迫真の演技なのか、単純に素のやりとりなのかはわからないけど、少なくともリンリン様の攻撃が気にならない程度には、二人のやりとりに没入していた。

「安心して、マイちゃん。私も……感じていたの、思い通りに体が動かないもどかしさを!」

 胸に手を当ててうつむき加減に言う志緒ちゃんは、辛い告白をしているようにしか見えない。

 対して舞花ちゃんの人形も『しーちゃんも……なんだね』と戸惑いつつも、仲間を見つけた安堵感を漂わせた。

「むしろ、運動が苦手な私の方が、マイちゃんよりも感じていたことだと思うよ」

 志緒ちゃんは俯いていた顔を上げて、少し苦みの混じったはかなげな笑みを浮かべる。

 それに対して、舞花ちゃんもはにかむような笑みを返して、二人は頷き合った。


「どうだった?」

 これまでの余韻の全てをぶち壊してこちらを振り向いた志緒ちゃんが、開口一番にそう尋ねてきた。

 思わず「何が!?」と答えると、志緒ちゃんは首を傾げる。

「今のマイちゃんとのやりとりだよ。双葉ちゃんと秋穂ちゃんみたいだったでしょ?」

 笑顔でそう尋ねられて、どうやら劇中再現をしていた方が正解だったらしいと察することが出来たものの、評価できるほどの知識がなかったので、私はここは素直に返すことにした。

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