拾参之参拾捌 共感
『志緒ちゃんって、本当にスゴイね』というのは、純粋な私の気持ちだった。
けど、志緒ちゃんから返ってきたのは、呆れ顔である。
「え、なんで、そんな顔を?」
私の返しに対して、志緒ちゃんは「それは私のセリフだよ、リンちゃん」と呆れ混じりに言い放った。
「この短い間に、いくつのものを具現化して、私たちを驚かせたか、ちゃんと認識してるの?」
志緒ちゃんの言葉に続いて、舞花ちゃんが「しーちゃんは確かに凄いけど、舞花もリンちゃんの方が凄いと思うよ」と続く。
そんな二人に気圧されて、言葉を返せずにいると、ズイッと志緒ちゃんが顔を寄せてきた。
「いいわ。今までリンちゃんが具現化させた数々を改めて指摘してあげる!」
「なんか、すみませんでした」
改めて私の出現させたものを列挙された結果、私はそう言って頭を下げるしか出来なかった。
そんな私に対して、志緒ちゃんは「まあ、分かってくれれば良いのよ」と言う。
私は曖昧に笑うことしか出来ず、思わず溜め息を吐き出してしまった。
その事が、同情を誘ったのか、舞花ちゃんが「大丈夫だよ。リンちゃんがダメっていったわけじゃ無くてね! リンちゃんは凄いんだよってことを、わかって欲しかったんだよ!」と強めにフォローしてくれる。
『そうだよ! リンちゃんは凄く凄いんだから、スゴイって自覚しないとだよ!』
元がアニメキャラクターだからか、少し愉快な表現で励ましてくれるステラに「ありがとう、スーちゃん」と舞花ちゃんと同じ呼び方をしてみた。
すると、ステラは吃驚した表情を浮かべて舞花ちゃんに振り返る。
口にしてから、特別な呼び名だったのに、不用意に口に知ってしまった自分の浅はかさに気が付いた。
謝罪か、フォローかと、高速で動き出した私の耳に、舞花ちゃんからの「リンちゃんも、スーちゃんって呼んでくれるの?」という質問が届く。
「えっと、その、ごめんね。勝手に真似て」
舞花ちゃんがどう受け止めているかわからなかったので、悪意がないことを伝えるために謝罪から入った。
対しても、舞花ちゃんは左右に首を振って「うんうん。お揃いの呼び方してくれて嬉しい」とはにかむ。
思わず抱きしめたくなる感覚が自分の中に沸き起こったが、どうにかそれは押し込めて踏み止まった。
なんとなくだけど、可愛らしさに、反射的に動く部分が心の中にあって、私の中にそんな身に覚えのない感覚があったのだと戸惑わなければ、抱き付いていたと思う。
抱き付かれる側なら最近身に覚えがあるけど、もしかしたら、花ちゃんも同じような衝動に駆られていたのかもしれないと思ってしまった。
けど、その条件が可愛らしいと感じたからだとすると、とても、平常心では受け入れないので、私は慌てて頭を振って、このことには踏み込まないことに決める。
が、何の説明もなくしている私の行動は、まさしく奇行そのものなので、舞花ちゃんは困惑めいた表情で「リンちゃん、大丈夫?」と聞かれてしまった。
曇ってしまった舞花ちゃんの表情に、変に返して誤解や不安を与えてしまうよりはと考えた私は、恥だとかプライドだとかを言ったん放り出してありのままを口にする。
「い、今までこういう気持ちになったことがなくて、戸惑ったんです……その、舞花ちゃんの反応が可愛らしいなって思って……抱きしめたくなったというか……」
言葉にしていて、自分でもかなり気持ちの悪いことをいっているんじゃ無いかと気づき始めた。
どんな反応をされるかわからないけれど、舞花ちゃんが私の真意を知らないせいで、自分が悪いと考えたらいけないと思って、更に続けようとお腹に力を入れる。
が、そんな私が目撃したのは、想定外の舞花ちゃんの反応だった。
「ん?」
思わず私が損な間の抜けた声を出してしまったのは、舞花ちゃんが私に向かって両手を広げていたからである。
「えっと……」
改めて戸惑ってしまった私に、舞花ちゃんは「リンちゃんなら抱きしめても良いよ」と頬をほんのり赤くして言い放った。
理解してはいけないとは思いつつも、今完全に花ちゃんの心理を理解してしまったと思う。
両手を広げて待ち受けている舞花ちゃんに向けて、緊張しながら一歩踏み出した。
頭の中で、これは『親愛の情』と頭の中で繰り返しながらゆっくりと腕を回す。
腕を胸と通して伝わってくる舞花ちゃんの柔らかさと温かさに、頭が溶ける程の安心感と安らぎを感じて、抱きしめるという行為の凄さを痛感した。
「急にごめんね」
私は巻き込んで申し訳ないといった気持ちで、離れながら舞花ちゃんにそう伝えた。
自分の感情や思考が自分でも上手く分析することも、理解することも出来ない現状に、頭は混乱していたが、一方で心にはなんともいえない充足感がある。
そんな私に、舞花ちゃんは「だーかーらー、リンちゃんならいいよっていったよね!」と少し怒ったように言い放った。
反射的に謝りそうになってしまったけど、ここは違うと私の心が訴える。
お陰で、どうにか踏み止まった私は、何も返さないわけにはいかないと、謝罪以外の言葉を探した。
「なんだか……花ちゃんの気持ちが少しわかったかも……」
気付けばそう口にしていた私に、志緒ちゃんが「それはいいことかもね」と笑う。
私が視線を向けると、志緒ちゃんは「花ちゃんレベルまでいっちゃうと、困っちゃう時があるけど……でもリンちゃんの場合はスキンシップが少ないなって思ってたから……良いことかなって思ったよ」とよりわかりやすいように言葉を足してくれた。




