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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第参章 下地構築
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参之参 新たなる権能

「卯木くん。すまない、少し脅しが過ぎたようだ」

「雪子学校長」

「だが、怪我をして欲しくないのは本心だ。わかってくれるね?」

 雪子学校長の言葉に、私は深く頷いた。

 正直、自分の体が想像よりも動けただけで、無茶をしようとは思っていなかったが、しかし思慮が足りなかったのは事実である。

「怪我をしないように、これまで以上に気を配ります」

「そうだな。うん」

 私の言葉に雪子学校長は頷きで応えてくれた。

 雪子学校長はコレまで、少し捉えどころが無い印象があったけど、生徒に対してはとても真摯な方なんだと実感出来る。

 少なくとも、コレからの特訓において、雪子学校長がコーチ役として私を見てくれるのは、とても心強く思えた。


「さて、身体能力が上がっているのは実感出来たのでは無いかと思う」

「自分でもあそこまでとは思いませんでした」

 雪子学校長の言葉に、申し訳なく思ってしまって、自然と項垂れてしまった。

 すると、雪子学校長は「いちいち気に病むことは無い……というか、それよりも子供達の力になる為に、自分の能力を把握することに努めなさい」と声を掛けてくれる。

 私はその言葉に雷を打たれたような衝撃を受けた。

「確かに、雪子学校長の仰るとおりです! 私は自分の失敗を引き摺っていられる程余裕があるわけではありませんでした!」

「うむ。では進めよう」

「はいっ!」

 雪子学校長の言葉に、素直に返せることが気持ちよくて、私は知らぬ間に尻尾を振ってしまう。

 そんな私の尻尾に視線を向けた雪子学校長は「ちなみに聞くのだが……」と言いながら視線を私の顔に移動させた。

 何を聞かれるのか気になって、私は少し緊張気味に「なんでしょうか?」と返す。

「尻尾と君の感情がリンクしているのは間違いないし、自覚もあると思うのだが、その、人間の姿の時に、尻尾が反応している感覚はあるかね?」

 そう尋ねられて、私は記憶を辿った。

 廊下を出て、花子さんの部屋に向かう間に、結花さん、舞花さんと出会って、その時大分感情が揺れた記憶がある。

 意識に無かったのもあるけど、その時に尻尾の感覚とかはしなかった。

「ふむ……その様子だと、人間の姿の時は完全に人間なのかもしれないな」

「……どういうことですか?」

 雪子学校長は私の言葉に軽く頷くと、自分の胸に手の平を当てて説明を始める。

「コレは仮説だが、君の場合、変化が一時的なモノではないかも知れないということだ」

「一時的では無い……というと?」

 いまいち飲み込めなかったので、私は首を傾げるしか無かった。

「例えば、君がキツネの姿になったら、意識を失ってもキツネのまま。人間の姿で寝ても、朝起きた時に耳や尻尾は生えてこないといったところかな」

 改めてかみ砕いてくれたことで、なるほどと私は頷く。

 そこで、私は一つの可能性に思い至った。

「そ、それじゃあ、林田京一に戻ることも出来る?」

 私の興奮気味な態度に、雪子学校長は苦笑しながらも「君の変化なら林田先生に戻ることも出来るだろう」と肯定してくれる。

「ただ、サイズがな……」

「あっ……」

 変化した林田京一のサイズがミニチュアだったという二重生活をする原因に再度巡り会ってしまった私は、自分の思慮の浅さに恥ずかしい思いをすることになった。


「君の変化については、寝ている……意識の無い状態で、そのキツネの耳と尻尾生えてこないかどうか、花子に観察して貰うとして、今は別の能力について検証してみよう」

「わかりました」

 雪子学校長が話題を切り替えてくれたので、私はそれに乗ることにした。

 実際の所、夜寝ている間に今の銀髪のキツネ少女になってしまうのなら、夜トイレに起きた時や朝起きた時に変化をする習慣を身に付けなければいけない。

 その判断をする為の情報は実際に私が寝てみないことにはわからないので、今は先送りにして花子さんに確認して貰おうというのは、理に適っていた。

 多少、起きていることになる花子さんに負担になら無いか心配だったけど「しっかり見張っています」と請け負ってくれたので、お言葉に甘えようと思う。

 私がそう考えたところで、幾枚もの紙を束ねた資料をペラペラとめくりながら雪子学校長が、過去にいたというキツネの神格姿を得た人の情報を元に話し出した。

「過去の文献の記録を元にすると、キツネに関連する『神格姿』を得た者は様々な能力を得ている。既に確かめた『変化』、それから先ほど実感した『身体能力強化』……他に記録されているのは『分身』と『自然現象の操作』だね」

「分身はなんとなくわかりますが、自然現象の操作ですか?」

 私の疑問に対して雪子学校長は「炎や雷を出せたようだね」と簡潔に答えてくれる。

 雪子学校長の言葉でふと頭に浮かんだ言葉が、無意識に口から音を伴って零れ出た。

「……狐火」

 直後、全身が心臓の鼓動に似たドクンと言う拍子で震え、目の前に赤、オレンジ、青と色の違う指先程の小さな炎が次々と現れる。

「卯木くん!!」

 雪子学校長に呼びかけられた事で、私がハッとした瞬間、明滅するように現れては消えてを繰り返していた色とりどりの小さな炎が全て虚空へと消え去った。

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