拾参之参拾弐 二体目
「マ、マシマシ……ですか……」
言いたいことはわかるのだが、脳が受け入れを拒否していた。
戸惑い……よりも、羞恥が強い気がする。
と、そんな冷静な自己分析をしてはいるが、私の体は全身が茹だってしまっていた。
体が熱い。
そんな私の手を志緒先生が両手で取って握りしめた。
「わかるよ、リンちゃん。私もリンちゃんには、慎ま……いつも通りの大きさの胸が似合ってると思う! でも、これは実験だから、涙をのんで欲しいの」
目を潤ました志緒先せ……志緒ちゃんが、もの凄い熱量でそう言い放つ。
途端にサッと体が怯えていた熱が冷めていき、心がスンと凪の状態になった。
そうなってしまうと、直前までがウソのように冷静な行動が出来るようになる。
「それじゃあ、具現化するので、イメージの補正をお願いします」
志緒ちゃんにそう告げて、私は目を閉じると、二体目の人形を具現する準備に入った。
これまでの経験で判明していることだが、同様の具現化は繰り返す程に、その難易度が下がっていく傾向にあった。
特に、一回目から二回目の変化は劇的である。
集中を始めて数秒と間を置かずに、同じものを具現化する準備が整った。
「志緒ちゃん、お願いします」
少し言葉足らずかなとも思ったけど、志緒ちゃんはこれまで何度となくイメージの補強をしてくれているので、恐らく伝わるだろうと思う。
その予測が正しかったことを示すように、志緒ちゃんは「調整するね」と言いながら私の肩に触れた。
「シャー君、コリンちゃんの胸を再現するから、1/8サイズで、具体的な胸の大きさを計算してくれる?」
『了解シャー』
志緒ちゃんの指示に、即座に答えを返すシャー君は、少し間を開けてから具体的な数字を口にする。
その数値を聞いた私は無意識に8倍にしようとしてしまって、慌てて踏み留まった。
具体的な数字を知ると、それだけで精神を削らせる気がしたので、意識を具現化に集中する。
直後、シャー君からの情報を頭に入れた志緒ちゃんのイメージが、注がれたらしく、新たなエネルギーが体を伝い始めた。
昨晩のコンタクトレンズに比べると、負荷はまるで感じない。
ともかく、気を緩めることなく集中を保ち、体を伝わるエネルギーが全て手と手の間のエネルギー球に移動し追えるのを待った。
頭の中で、エネルギーの塊であった球体が人型へと変化し始めた。
現段階では未だ実体を得ていないので、皆の目には何も見えていないと思う。
完全な人型へと変わり、シルエットが目標とする『コリンちゃん』の容姿に変わり、身に付けている制服が光を失い、その代わりに実体を得始めた。
恐らくこの辺りから目にもカメラにも写り始める頃だろう。
それを示すように、舞花ちゃんや志緒ちゃんが少し身を乗り出すような気配があった。
私は集中を切らさないように気をつけながら、光が全て消え、実体が現れる瞬間を待つ。
そして、間もなく大きな胸が取り付けられた二体目の1/8の私が出現した。
「直接測る必要あるんですか?」
メジャーで真剣に具現化したばかりの人形の胸のサイズをウキウキとした様子で測っている志緒ちゃんに、つい冷たい声を掛けてしまった。
内蔵されたカメラと計算によって、シャー君が対象の数値を算出出来るので、それで十分じゃないかと思う。
が、志緒ちゃんは「実測とシャー君の測定値に誤差がないかを調べるのも大事だから」と、シレッとした顔で言い切った。
対して私は、あながち間違っていないだけに「まあ、たしかに……」と引き下がるしかない。
胸のトップから、腰の細い部分へ測定箇所を移動させながら志緒ちゃんは「続けてリンちゃんのサイズも測らせてね」と言い出した。
「にゃ、にゃんで!?」
驚きもあって思わず声が上擦ってしまった私に対して、志緒ちゃんは何でもないことのように「最初に具現化して貰った人形はリンちゃんの分身でしょ? 花ちゃんが転校前の身体測定の情報を持っているけど、今日の体のサイズと今日出現させた人形、その数値を計測しておくべきだと、今思い付いたんだ」と言う。
「え? あ……うー」
上手く言葉は出てこなかった。
一方で、思考の方は大きく乱れることなく、確かに体の変化があった場合、具現化するものが影響を受けるかどうかの考察には集めて置いた方が良い情報じゃないかと、志緒ちゃんの言うことは間違っていないなという結論を導き出す。
「確かに……そうですね」
私が頷いたからか、もの凄く嬉しそうな顔で振り返った志緒ちゃんが「じゃあ、測るね!」と一瞬で真横に移動してきた。
思わず悲鳴に近い声が出そうになったが、それをどうにか堪えたところで、目の前にもの凄い志緒ちゃんの笑顔が迫っている。
ギュッと口を結び今一度の悲鳴を堪えた私に、志緒ちゃんは「大丈夫!」と言い放った。
「な、なにがです!?」
何故か寒気を感じつい体を抱きしめながらそう聞き返した志緒ちゃんからは「人形たちも服の上から測ったし、リンちゃんも服尾上からで良いよ」という答えが返ってくる。
少し上擦った声の「そ、なんですね」が、私に返せる精一杯だった。




