拾参之弐拾捌 対象
結局、結花ちゃんの『きらり』を借りてくると言う案も出たものの、魔女衣装に変身しないなら、ステラがいなくても大丈夫ということで、カードチームからの了承を得て、ステラをこちらに合流させることになった。
大事そうにステラを抱きかかえた舞花ちゃんは満足そうなので、これで良いと思う。
というわけで、私達は三人と三機のヴァイアという構成になった。
「では、これからやることを説明していきます」
志緒先生の宣言に、舞花ちゃんが元気よく「はーい!」と返事をした。
続いてそばにいたステラが「マイちゃん、頑張って!」と応援の言葉を掛けることで、舞花ちゃんは更に表情を明るくする。
「うん! 舞花、頑張るよ!」
私の目から見ても、アニメそのままの絶妙な掛け合いに、舞花ちゃんのテンションはかなり高まったようだ。
そんな舞花ちゃんの様子を微笑ましそうに見ていた志緒先生が「基本的には、昨日、リンちゃん達がやっていたことの延長です」と切り出す。
「じゃあ、舞花やしーちゃんも、リンクするんだね?」
テンションの上がっている舞花ちゃんは頭の回転も早まっているようで、即座にそう結論付けたみたいだ。
志緒先生は「そうだよ」と大きく頷く。
「もう、リンちゃんだけじゃなく、なっちゃんやまーちゃんの記録も取れているけど、まだまだサンプルが足りない……そうだよね。シャー君」
名指しされたシャー君は、志緒先生の周りを旋回するように飛びながら答えた。
『そうだシャー。もっとたくさん情報を集めないと、オリジンでも、計算しきれないシャー』
心なしか楽しそうなシャー君の姿に、ほっこりしていると、相変わらず私の頭に陣取っているリンリン様が『童のようにはしゃぎおって、みっともないのじゃ』と言いつつ前足で頭を叩いてくる。
これを止めると、リンリン様は大変不機嫌になるので、大人しく叩かれることを受け入れることにして、話を振ってみた。
「それじゃあ、人形も持ってきた方がいいのかな?」
私の問いかけに対して、こちらに視線を向けた志緒先生は、少し間を開けてから「……もし」と切り出す。
どうも、私に話をしていいのか伺うような気配を感じたので、話してほしいという気持ちを込めつつ「うん」と頷いてみた。
それで私の意図が上手く伝わったらしく、志緒先生は少し躊躇いながらも考えていることを口にする。
「……もし、リンちゃんの負担にならないなら、人形のサイズを少し大きくしたものをいくつか出現させられないかな?」
「サイズを大きくしたもの?」
聞き返した私に頷いて、志緒先生は「今の『アイガル』で使ってる人形は1/10くらいでしょ? 1/6とか1/3とか、逆に1/15とか、サイズが違うケースのデータを測定しておきたいの」と説明を足してくれた。
てっきりサイズを一回り大きくした人形を複数作ると勘違いしていたのもあって、確かに一回り大きいサイズの人形をいくつも作っても仕方がないなと私は納得する。
が、納得する一方で、気になることがあったので、素直に言葉にしてみた。
「あの、志緒先生。大きさを変えた人形を具現化するのはインですけど、体験施設は『アイガル』に使ってる人形のサイズで具現化しているから……」
そこまでで私の言いたいことを全て汲み取ってくれたらしい志緒先生は「サイズがあっていないのは大丈夫です。体験出来るサイズの人形だけで試せば良いですし、その結果、体が浮かなかったりしても、それはそれでデータになるので、むしろ、欲しい結果だよ」と笑みを浮かべる。
「それなら、問題ない……ですね」
私の具現化出来るかどうかを含めた答えだったが、志緒先生はそこも理解してくれたようで「それじゃあ、次に実験に進めそうだね」と満足そうに頷いた。
「えっと……私じゃないと、ダメですか?」
私の質問に対して、志緒先生は「はい」とたった二音で返してきた。
サイズ違いで出す人形のモデルをどうするかと聞くと、志緒先生は『私』を指定したのである。
「まず、感覚の違いなどを調べるには、一番元になっている人形が良いです。既に『アイガル』用のサイズのお人形で、複数のヴァリエーションがあるリンちゃんを元にするのが最適でしょう?」
志緒先生の問い掛けに、私は否定する言葉を思い浮かべることが出来なかった。
にも拘わらず、志緒先生の追撃は止まらない。
「人形を生み出すだけなら、姿形はそれほど問題にならないかもしれないけど、体の感覚を測定する目的がある以上、自分の体の感触を元に具現化した方が、目的に即してると思うよね、リンちゃん?」
完全に逃げ道を塞がれた状態での問い掛けに、私は頷くしかなかった。
「それじゃあ、リンちゃん! よろしくお願いします」
深々と頭を下げる志緒先生に次いで、シャー君が『創造主さま、頑張ってくださいシャー』とヒレを揚げる。
『リンちゃん、頑張って、応援してるよ』
「舞花も応援する!」
ステラと舞花ちゃんのコンビの応援の後で、私の頭の上に陣取ったリンリン様が頭をたしたしと叩きながら『主様よ。わらわも期待しておるぞ!』と言ってくれた。




