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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第参章 下地構築
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参之弐 お試し

「スパッツはどうしますか?」

 花子さんにそう尋ねられて、私はなんだかとても恥ずかしく思いながらも「一応履いておきます」と小さくなってしまった声で答えた。

「そうですね。女の子として下着を見せないようにするのはとても大事なことです、やはり恥じらいが無いのは、私はいいとは思いませんしね」

 そう言って手渡された黒い短い丈のスパッツは、体が小さくなってしまった私から見ても小さそうに見える。

 そんな私の戸惑いをいち早く察してくれたらしい花子さんは「大丈夫です。伸縮しますから普通に履けますよ。むしろ密着するので、しっかり下着を保護して隠してくれます」と太鼓判を押した。

 私は「わかりました」と頷いて、花子さんから受け取ると、さっさとハープパンツを脱いで、脚を通す。

 大分小さい印象だったので、抵抗があるかと思ったスパッツは思いの外簡単に脚を通すことができ、すぐに太ももを滑り抜けた。

 尻尾に触れないように気をつけながらお尻を覆い隠すと、想像以上に体にぴったりで、安心感が湧いてくる。

 そんな私に、花子さんは次の衣装を差し出してきた。

「スコートはゴムですし、脚から履くんですが、尻尾のこともあるので上から履いてみましょうか」

 私はそう言って渡されたスコートを素直に広げる。

 構造は単純で生地の左右の恥が縫い合わされていて、上部にゴムがついていて、引っ張れば結構広がるので、被るように身に付けることも出来そうだ。

 耳に触れないように気をつけながら首を通してから、右、左の順番で腕を通してから、スコートの裾を引っ張っておへその辺りまでゴムになっているウェストを引き下ろす。

 すると、花子さんが私を見ながら「未だ、胸が大きくなっていないのでスムーズでしたね」と指摘してきた。

 私はすぐに「確かに、もし胸が大きくなったら、大変かもしれませんね……あ、でも、この服に着替えてからキツネ姿になれば大丈夫じゃ無いでしょうか?」と思い付いたアイデアを返す。

 個人的にはなかなか会心なアイデアだと思ったのに、花子さんの表情は渋かった。

 そんな渋い表情を見た私は、首を傾げながら「私、変なこと言いましたか?」と不安を感じながら尋ねると、思わず目が遠くなる呟きが花子さんの口から放たれる。

「胸が大きくなるって言う話をすれば、恥ずかしがるかと思ったのに……」

 キツネ耳じゃなければ聞き取れない囁き声だったので、私は全力で無視して流すことに決めた。


「軽く動いてみて、違和感を確かめてくれ」

「はいっ!」

 雪子学校長の言葉に従って、私はまず軽くジョグ程度の速さで壁際まで走り、壁目前で振り返って今度はダッシュをしつつ、その勢いを乗せてジャンプを試みた。

「うわっ!?」

 自分の想定よりも高い跳躍に、一瞬で天井が直近に迫る。

 ぶつかるとイメージが頭を過った瞬間、私の思考医は回避しなければという思いが一色に染まった。

 直後、体が超反応をする。

 ぐるっと視界が回転し、私の体は天井に着地した。

「ふぇ?」

 自分の体が想像を絶する動きをしたことに思わず間抜けな声を漏らしてしまったものの、直後、脚が天井から離れる。

 そのまま背中から床に向かって体が落ち始めたが、絶対痛いとこのまま受ける衝撃を想像した瞬間、尻尾が大きなうねりを起こした。

 直後、先ほどよりは緩やかなモノのそれでも速い速度で体が回転し、ダッドンと音を立てて、私は四つん這いの状態で床に着地する。

 そのままもの凄い疲労感と共に、私は四つん這いの姿勢を保てず、べしゃっと床に転がった。


「……軽くといわなかったかな?」

 そう尋ねてきた雪子学校長は笑顔だった。

 が、ピクピクとこめかみに痙攣が見られるので、真相は真逆のようである。

 ここは言い訳をするより素直に謝ろうと、私は体を起こして、床の上で正座した。

「申し訳ありません。軽く試すつもりだったんですけど、幅跳びのつもりのジャンプが思ったよりも上に上がってしまって……」

 私は素直に両手をついて頭を下げると、雪子学校長がわかりやすく溜め息を出す声が聞こえた。

 それから頭を下げた私の方に手が置かれる。

「卯木くん。君の体は未だちゃんと調べがついているわけじゃ無いんだ。一般的な治療が君の体にも効果を発揮するか確定していない。だから、君自身がちゃんと自分を制御しなくてはダメだよ」

「雪子学校長……」

 私は雪子学校長に指摘されて、ようやく自分の状況に考えを巡らせることが出来た。

 人間の体にキツネの耳と尻尾がついただけだと軽く考えていたけれど、確かに精密検査をしたわけでは無い。

 京一の時と見た目が変わってしまっただけではないのだ。

 少なくとも骨格は男性から女性に代わっているし、思考が女性化している実感から考えるに、脳の構造も女性化している可能性が高い。

 だとすれば、他の臓器も、いや、血液型やDNAでさえ変わってしまっているかも知れないのだ。

 それも、人間の領域に留まっていれば大丈夫だが、人間とは違うモノに変わってしまっていることもあり得る。

 雪子学校長の言う『一般的な治療が効果を発揮するか確定していない』は控えめな表現なのだ。

 なぜなら、この体には『一般的な治療が毒になる可能性』もある。

 その事実に思いたってしまった私は、言葉を失ってしまった。

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