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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第拾参章 試行錯誤
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拾参之弐拾弐 授業

 月子先生は大人の姿で颯爽と教室に入ってくるなり「今日の日直は、結花さんだね」と口にした。

 指名された結花ちゃんは「きりーーつっ!」と、号令を掛ける。

 号令に従って皆で立ち上がり朝の挨拶を交わした後、私たちは授業に突入していった。


 基本的には京一時代の私が作成した問題集を解いていくのが授業のメインで、それはこれまでと一緒なのだが、今日からはそれに加えて、少しずつ新学年の授業に突入することとなった。

 二度の休憩を挟み、全員が支給されたタブレットを取り出した三時間目に、早速、動画による授業が始まる。

 それぞれが見る動画は、例のアプリで月子先生から配布された。

 私は未だ借り物のタブレットなのもあってアカウントも無く、アプリも使えないため、月子先生のタブレットに表示して貰ったQRコードを読み取る形で提供される。

 今回は、皆国語の授業動画ということで、舞花ちゃんと結花ちゃんは同じく四年生のもの、私と志緒ちゃんは五年生、那美ちゃんは六年生、東雲先輩は中学一年と、それぞれの学年に合わせた教材になっていた。

 ちなみに動画は、講師による授業風景を録画したものでは無く、絶妙に可愛くないイラストや文字に解説の音声が入った動画になっている。

 これを最後まで見た後に、出題される問題を解いて、理解度を確かめる構成になっているそうだ。

 軽く聞いてみたところ、これまでもこの形式で学習をしていて、わからないところや詰まってしまったところを雪子学校長が解説込みで教えてくれるという方法で授業を進めていたらしい。

 皆慣れているのもあって、月子先生の開始の合図と共にイヤホンを装着し、動画を見始めた。

 私も倣って授業を受けてみることにする。

 授業内容はそれなりに頭に入っている内容なので、流石に新たな発見は無かった。

 なので、ここでは視点を変えて、授業内容のポイントをどう強調して理解しやすくしているか、その後の問題にどう活かしているかを考察しながら、体験してみることにする。

 そうしてみると、絶妙に考え方を促しながらも、本人が考えないと答えに辿り着けない様な難易度が高めの問題1に対し、単純に漢字の読み書きが2、全文を読めば自然とわかる問題が3、他の単元や四年生までの授業内容を踏まえた問題が2といった構成で、バランスもかなり調整されていると思った。

 これは将来自分の授業にも応用しようと思い、一冊のノートで問題を解いて、もう一冊、別のノートに、自分の授業への応用出来そうな部分のメモを取りながら進めていく。

 自分の想像よりも集中していたからか、授業時間の終わり告げるチャイムが鳴るまで、私は動画とにらめっこしながらペンを走らせていた。


「なんで、二冊もノート使ってたの?」

 興味津々なのが伝わってくる目の輝きを向けながら、舞花さんはそう尋ねてきた。

 私は完全に集中していたせいで、授業中にこちらを観察されている目には気付かなかったのだけど、適当に誤魔化せる感じでは無いので、素直に答えることにする。

 もちろん、那美ちゃんも居るのでウソは口にしないのは絶対だ。

「自分が授業をする時に使えるかなと思って」

「授業?」

 首を傾げる舞花ちゃんに、私は静香に頷く。

「立派な先生になるのが、私の夢だから」

 自分の胸に手を当てて私はそうはっきりと宣言した。

「先生って、学校の先生?」

 舞花ちゃんの問い掛けに「うん」と頷く。

「そうなんだ! リンちゃんは先生なりたいんだ!」

 目を輝かせた舞花ちゃんに大きく頷いて「立派……ていうのが少し曖昧だけど、皆に好きになって貰える先生になりたい……かな」と今も私の根幹ある思いを口にした。

 すると、結花ちゃんが「それなら大丈夫じゃない? リンちゃんなら皆が好きになってくれると思うわ」と言ってくれる。

 かなりくすぐったいけど、本心で言ってくれている様に感じられたので、しっかりと受け止めてから、私は自分の信念に従って答えを口にした。

「もし、結花ちゃんの言ってくれたように、皆に好きになって貰えるなら、私が最優先で学ぶべきは、教え方とか、教える知識だと思うので……」

 私がそこまで言ったところで、志緒ちゃんが「そのためのノートってワケだね」と言う。

 軽く頷きながら「役立てられる日がいつ来るかはわかりませんけど、準備は怠りたくないので!」と志緒ちゃんに返すと、今度は那美ちゃんが「いつ状況が変わるかなんてわからないものねぇ」と言い出した。

 一瞬ドキッとする発言だったが、教室に残っていた月子先生は「確かに」と那美ちゃんに同調する。

 その上で「舞花さんや結花さんが良ければ、今度、模擬授業を凛華先生にして貰おうかな」と言い出した。

「へっ……」

 思わず驚きの声が私の口から出た直後、舞花さんが「わぁっ!」と声を上げて、より一層目を輝かせる。

 結花ちゃんは「凛華先生かぁ」と呟きながら、突然口元を手で覆って視線を逸らしてしまった。

 もしかして、嫌だったのかなと結花ちゃんの反応を窺おうとしたのだけど「絶対いける、やってほしい! リンちゃん先生、おねがいしますっ!」という舞花ちゃんからの強めの希望に妨げられる。

「お姉ちゃんが受けたくないなら、舞花だけでも、良いので、お願いします!」

 はっきりとそう言い切った舞花ちゃんを押し退けるように、結花ちゃんが「そんなこと一言も言ってないでしょ!? 浮けるわよ、ユイも!」と言ってくれて、私は心の中でホッと胸をなど降ろした。

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