拾参之弐拾壱 報告と考察
「すぐに使い始めるんですか?」
私が花ちゃんにそう確認すると「授業内容や進行については雪子先生と月子先生が話し合って決めていくそうだから、細かい内容まではわからないですね」と言う答えが返ってきた。
「そうですか」
私がそう言って頷くと、花ちゃんは「ただ、イヤホンの指示はさっき言われたので、近く使うんじゃ無いかな、とは思いますよ」と付け足す。
「じゃあ、いつでも使える様にしておきます」
「そうしておいてください」
私は改めて頷いてから、受け取ったタブレットとイヤホンを手に、他の教材を撮りに花ちゃんの部屋に戻ることにした。
始業までの時間を使って教室で機能のあらましを説明すると、結花ちゃんは「なるほど、そういう事だったのね」と納得してくれた。
結花ちゃんには球魂と会話するために、考えを読み取れる『コンタクトレンズ』を出現させようとしたところ、想定外のエネルギーを使うことになったのが原因だと説明している。
誰の球魂かを知るためという最初の理由は、子供達はお互いに、感覚で相手が誰かを察知出来るかもしれないので、敢えて説明しなかった。
結花ちゃんもそこは疑問に思ってなさそうなので、こちらからは触れないことにしようと思う。
話を進めながらそんなことを考えていた私に、那美ちゃんが「つまりぃ、リンちゃんもぉ、私みたいにぉ、心が読める様になったってことかしらぁ?」と尋ねてきた。
続けて舞花ちゃんも興味を抱いた様で「え、そうなの!? リンちゃんスゴイね!」と、話の輪に加わる。
すると、志緒ちゃんが「考えてることが伝わっちゃうのは、少し恥ずかし……あ、でも、リンちゃんなら知ってほしい気もする様なぁ~」と言い出した。
「あ、えっと、みなさん、ちょっと待ってください」
話が暴走していきそうだったので、私は慌ててストップを掛ける。
少し強引だったものの、皆の目が私に向いたので、私はその機会を逃さない様に、説明を始めた。
「一応、考えていることを読み取る機能を付けることには、成功しました」
私の断言を聞いた皆が、お互いに視線を交わし合って頷き合う。
「ただ、その機能はメガネに付与したんです」
そう説明を加えると、舞花さんが「なんでメガネなの?」と聞いてきた。
「理由の大部分は実験です。コンタクトレンズからメガネに形を変えられるかどうかっていう」
「まあ、いろいろ調べてみるのは大事ですよね」
志緒ちゃんが真剣な顔で同意してくれる。
私も志緒ちゃんに頷き返しながら「まあ、切っ掛けは実験だったけど、私は結果的には良かったかなと思っているよ」と個人的な気持ちを表明した。
そう私が考えた理由を既に読み取っていたのであろう那美ちゃんが「メガネだとコンタクトレンズと違って、着けてるのがわかるからってことねぇ?」と確認してくる。
私が「そうです」と頷くと、舞花ちゃんが「じゃあ、リンちゃんがメガネ掛けたら、考えてることを若って貰えて便利って事だね!」と微笑んだ。
対して、私は「いや、もう月子先生に渡しちゃったから、私は持ってないよ」と首を左右に振る。
舞花ちゃんが少し驚いた様子で「そうなんだ」と口にした直後、結花ちゃんが「でも、リンちゃんのことだから、複製したんじゃ無いの?」と言い放った。
結花ちゃんの発言に、より吃驚した顔を見せた舞花ちゃんは、真相を求めて私に視線を向ける。
「作ってませんよ。作るのも結構大変なので……」
私の帰しにくい着いたのは志緒ちゃんだった。
「大変? そう言えば、結花ちゃんとの話で、もの凄いエネルギー量が必要だったって言ってたよね」
好奇心が一杯に詰まった瞳で私を捉える志緒ちゃんの声はかなり弾んでいる。
「考えてることを読み取れる機能は、連携とかで使えるかもしれないから、新たなメガネを作ったりはするかもしれないけど、個人用に作り直すつもりは無いです」
私の返しに、志緒ちゃんは「そんなに大変だったの?」と聞いてくきた。
志緒ちゃんに「そうですね」と一つ頷いてから、私は説明の言葉を付け足した。
「正直、台風とかスカイダイビングの体感施設の製造や回収より、必要なエネルギーが多くて、気を抜くと大事故になりそうだったから……こっそりそんな危ないものは作れないよ」
苦笑気味に私がそう返すと、これまでは黙って聞いていた東雲先輩が「本当か?」と驚いた様子を見せる。
東雲先輩が反応してくれたことが嬉しくて、つい強めに「はい」と返してしまった。
その事が、妙に恥ずかしくて、少し口早になりながら、私は「私にとっては、心情が読めるメガネの方が大変でした……不思議な力を込める方が大変なのかも知れません」と言い加える。
すると、東雲先輩は苦笑しながら「動画やウェブで調べたとはいえ、実在の施設を縮小サイズで再現するのも、十分に不思議の範疇だけどな」と言うと、それを聞いていた皆は口々に同意の言葉を口にした。
私もその通りだなと思いつつ思い浮かんだことを口にする。
「もしかしたら、出現した後に、特定の条件でしか機能が作動しない施設系と、常時発動の装備系の違いかも知れませんね」
そんな私の思いつき対して、皆がそれぞれ唸りだしたところで、ガラリと音を立てて教室のドアが開かれた。




