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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第拾参章 試行錯誤
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拾参之拾陸 目覚め

 欲望の混じった花ちゃんとはまるで別人の様な態度に戸惑っている間に、カーテンが引かれ、灯りが消され、保健室には私一人だけになった。

 普段と様子の違う花ちゃんが少し気になりはしたものの、複数回のエネルギーの放出の反動か、目を閉じればすぐ寝れそうな程度には疲労感がある。

 考えるのは明日にして、今日は寝ようと私はグッと頭を枕に押し付けて、頭の座りを整えてから、ゆっくりと目ぶたを閉じた。


 顔に降り注ぐ光に目を開けた私は、目を擦りながら上半身を起こした。

 体の全面からフッと冷たい風が入り込んで、体がブルリと震える。

 何故だろうと思いながら、視線を下げたことで見えた服が開け電極パッドが取り付けられた上半身に一瞬驚いたが、そう言えば保健室で寝ていたのだと思い出した。

 とりあえず周囲を見渡して、ベッド横の小机に置かれていたパッドに手を伸ばすと、時刻的にはかなり早いことがわかる。

 四月の終わりなので、夜明けも早いということだ。

 そう思いながら、東向きの窓を見れば、カーテンを擦り抜けて光を送り込んでくる登り立ての太陽が見える。

 登り掛けの太陽を見ながら、着替えないといけないことを思い出した。

 思考がもの凄く緩やかになっているなと自覚して、思わず苦笑してしまう。

 体の全面に張り付いたままの医療機器に繋がるパッドとコード類を再確認してから、一応起きた事を連絡して外して良いか確認した方がいいかなと考えて、時刻を確認したパッドから花ちゃんに連絡を入れてみた。


「りんちゃん、おはようございます!」

 明るい挨拶と共に、シャット音を立ててカーテンを開けて姿を見せた花ちゃんはバッチリと着替え終えていた。

「おはようございます」

 私が頭を下げると、花ちゃんはすぐに「それじゃあ、外していきますね」と宣言する。

 どう話そうと思っていたのを完全に先回りされて驚いたものの、すぐに予測は付くかと考えを改めた私は「わかりました」と答えた。

「じゃあ、前を(はだ)けてねー」

 花ちゃんの指示に「はい」と返して前を止める紐を解く。

 一方、花ちゃんは医療機械の方の操作を始めた。

 作業を進めていることを示す様に、時折電子音が鳴る。

 しばらく機械を弄っていた花ちゃんは「これでよし」と口にしてからこちらに振り向いた。

「それじゃあ、外していきますね」

 私は花ちゃんに頷きで応え、作業しやすい様に上着の前を開く。

 花ちゃんは手早くパッドを外していくと、あっという間に作業を終えて「はい、終わりましたよー」と口にして笑みを浮かべた。

「ありがとうございました」

 朝からわざわざ来てくれたことも含めてお礼を言うと、花ちゃんは「ぜんぜん気にしないでください。そもそも情報を提供に協力して貰ってるのは、こっちですからね」と言う。

 それは単純に気遣いの言葉だったのだと思うけど、私との間に、急に線を引かれた気がして、モヤッとした気持ちが湧いてきた。

 一応、生徒としてここにいるけども、そもそもは教師陣の一人としてここに来ているので、考えすぎだとはわかっていても、どうにも素直に受け入れられない。

 そんな気持ちでいた私の思いが、表情に出ていたのか、花ちゃんは私の頭を撫でた。

 思わず顔を上げると、柔らかく微笑む花ちゃんは「シャワーを浴びてから、着替えるのが良いと思います」と口にして、どこから取り出したのか、タオルと着替えの束を差し出してくる。

「シャワー……」

「ここ少し寒いですからね。リンちゃんはまだまだ初心者ですが……女の子には冷えがたい的ということは知っていますよね?」

 そう言って首を傾げる花ちゃんに「ちょっと行ってきます」と答えて着替えとタオルを受け取った。

 それからベッドの下に置かれたスリッパに足を通して花ちゃんを見る。

 柔らかな笑みで私を見る花ちゃんは、私がモヤッとした気持ちを抱えていることに気付いていない様に思えた。

 それでも気遣ってくれていることはわかる。

 那美ちゃんとのやりとりで少し慣れというか、麻痺してしまったけど、ちゃんと思ったことは言葉にしないと伝わらないし、わかって貰おうと相手に委ねるのは間違っていると思い直した私は覚悟を決めた。

 どう思われても受け入れるという決死の覚悟で、自分の考えたことを言葉にする。

「さっき、花ちゃんが『こちらの都合』って言ったのが気になって……」

 そう言葉にすると花ちゃんは驚いた顔をした。

 瞬きを数回した後で「あー」と口にした花ちゃんは、突然私の頭を両腕で包み込む様にして私を抱きしめる。

「ちょっ! 花ちゃん!?」

「もう~~寂しくなっちゃったんですね!」

「それは、ちが……」

 何故か『う』と最後の一音を言葉にすることが出来なかった。

 冷静に考えれば、モヤッとして原因は隔たりを感じたからで、その事に寂しさを覚えなかったかといえば、否定しきれない。

 そんな気持ちだったのだが、 私を抱きしめたままテンションが爆上がりしてしまった花ちゃんの不穏な言葉に、ただただ後悔することになった。

「こちらのっていうのは雪子お姉ちゃんや月子お姉ちゃんの発案だからですよー。つまり、私の姉妹の言ったことだからだったんですけど、でも、そうですね、リンちゃんが仲間はずれに思っちゃったなら、私の妹になりますか? あ、もちろん恋人でも良いですよ!」

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