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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第拾参章 試行錯誤
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拾参之拾参 苦闘

 両目のコンタクトレンズを外したことで、肉眼ではエネルギー体を見れなくなってしまった。

 だが、その代わりにと言うと少しおかしな気もするが、目を閉じることで、脳内のイメージとしてエネルギー球が見える。

 コンタクトを外す前、位置確認のために見える左で確認したエネルギー球の位置と、今、両眼を閉じた事で浮かび上がったイメージの位置に違いは無かった。

 問題ないと判断した私は、左目のコンタクトレンズを外す。

 それほど付け慣れているわけでは無いので、少し手間取りながらも無事左目のコンタクトレンズを外し終えたところで、視線を上げた。

 先ほどまでは見えていたエネルギー球が見えなくなっている。

 やはり、球魂に名前が付与されるだけだと思っていたコンタクトレンズには、エネルギー球を見る機能も付与されている様だ。

 目を閉じて頭にイメージを浮き上がらせると、きっちりと固定されたままのエネルギー球が浮かび上がる。

 異常が無いことを確認してから、空中に固定するというイレギュラーを維持したままでのアップデートは、想定外の変化や現象が起こる可能性を考えて、手の甲の上にエネルギー球を戻した。


「それじゃあ、アップデートに入ります」

 私の宣言に、月子先生が「待って貰っても良いかな?」と返してきた。

「どうかしましたか?」

 私が尋ねると、月子先生は「もし可能なら、メガネ型に変更出来るかなと思ってね」と言う。

「メガネですか?」

「コンタクトレンズだと、君が着けた後に私が着けるというのには問題があるだろう?」

 かなり真面目な口ぶりで言う月子先生だが、私が具現化したものとは言え、目の中に入れたものを他人が使うのは衛生的に大問題なのは間違いなかった。

 加えて、メガネに変えれば、確かに掛けるだけなので共有もできる。

 そもそも、コンタクトレンズにしたのは、球魂の正体に気付かないのをおかしいと思われないようにという下心が元だっただけだ。

 検証のためにも、アップデートもしやすいメガネに切り替えるのは効率的だと思う。

 元々の球魂対策なら、後でこっそりコンタクトレンズを具現化すればいいだけだとも考えて、月子先生の提案に乗ることにした。

「ちょっと、メガネに変えられるか、試してみます」

 私がそう告げると、月子先生は「よろしく頼むよ」と返してくる。

 軽く頷きで応えた私は、目を閉じた視界の内に浮かぶ自分の姿を動かして手の上のコンタクトレンズに意識を向けた。

 これをメガネに変えると念じると、手足の甲の上に浮かぶ大きな四つのエネルギー球それぞれに向かって、新たに出現した小さいエネルギーの球が飛んでいく。

 大きな球体に飛び込んだ小さなエネルギー球は、そのまま解ける様に消えた。

 恐らくメガネ化に必要なエネルギーが足されたのだろう。

 そう感じた私の中には、アップデートが出来るという確信が生じていた。


「いけそうなので、このまま進めてみますね」

 私の報告と宣言に、月子先生は「了解した」と返してきた。

 許可が出た事もあって、すぐにアップデートを開始する。

 両手足の甲に浮かんでいたエネルギー球が無理矢理体に入り込み始めた。

 エネルギーを呼び戻す時に味わった細い通り道を、無理矢理こじ開けて進む感覚と共に痛みが端り始める。

 思わず唇を噛んだところで、月子先生から切羽詰まった声で「大丈夫かね?」と質問が飛んできた。

 荒く息をしながら「大丈夫です。エネルギーが体を抜けるのに少し痛みがあるだけで」と端的に伝える。

「まったく大丈夫そうに見えないぞ。無理をするんじゃない!」

 強めの口調で言う月子先生に気圧されて辞めそうになったが、エネルギー球が大いにその体積を縮小させ、残りが僅かであることを確認した私は「大丈夫です、あと少しです!」と言い切って、集中を続けた。

「し……か、し……」

 明らかに納得がいっていない月子先生だったが、現状では私に呼びかける以外に手段が無い。

 アップデートは完全に私の中で完結することだけに、月子先生が強制的に中断させることは出来ないのだ。

 仮に私の体に衝撃を与えて、中断させた場合、何らかの不具合や問題が生じる可能性もある。

 月子先生が私を心配してくれている以上、そんな強硬手段は選ばないだろうという打算も私の中にはあった。

 私に向けてくれた心配に対して、まるで裏切る様な自分の行動に、もの凄い罪悪感が湧いてくる。

 こうなれば、後はしっかりと結果を出すことで、罪悪感を上塗りするしか無いと考え、残り僅かとなったエネルギーが体を抜け、メガネに生まれ変わろうとしているコンタクトレンズに全て流れ込むのを待った。


 エネルギーの送り込みの終了を示す様に、大きかった四つのエネルギー球が消え、後は体の中を通すだけだと思った瞬間、私は思わず「あと、ちょっとーーーー!」と叫んでいた。

 苦痛だけで乗り越えられそうだという確信はあったものの、実際に感じる鈍い痛みは想像以上に気持ちを削る代物で、目に見えてエネルギー球のサイズが縮小していなかったら、逃げ出してしまっていたかもしれない。

 それでも、全てのエネルギーを送り込むことに成功したコンタクトレンズは、その姿を小さなエネルギー球に変えていた。

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