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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第拾参章 試行錯誤
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拾参之拾弐 固着

「まあ、エネルギー球については、また改めて確認をしよう」

 月子先生はそう宣言すると、にっこりと笑って見せた。

 笑顔なのに、微妙に嫌な予感を抱いてしまうのは、月子先生とのこれまでの付き合いが大きく影響しているのだろう。

 何しろ、今、月子先生が浮かべている笑顔は、想像もしていなかった困難な課題を放つ時に散々見てきた合図の様なものだからだ。

「それで、どう……したらいいですか?」

 恐る恐る尋ねてみたところ、月子先生は自分の目を指でさす。

「目?」

 私が意味もわからず聞き返したところ、月子先生は補足の説明をしてくれた。

「まずコンタクトレンズを外さないとだろう?」

「あ……あー」

 確かにと思ったところで、月子先生が「ただ、手の甲と一定の距離を保っているエネルギ球をもう少し離さないと作業中に接触してしまうね」と言う。

「接触?」

「エネルギー球同士が重なるとどうなるかわからないだろう?」

 平然と返してくる月子先生だったが、その内容は聞き流せる様なものではなかった。

「確かに、エネルギー球同士が接触したら、何が起こるかわかりませんね」

 思わず喉が鳴った私に対して、月子先生は「まあ、取り越し苦労で、何も起こらないかもしれないけどね」と戯けた口調で言う。

 多分、和ませる意図があったとは思うんだけど、エネルギー球同士の接触という事態を想像した瞬間から、背筋の寒気が収まることは無かった。

 なので、ちゃんと言葉にして月子先生に伝える。

「月子先生……恐らくですけど、接触させるととんでもないことになる気がします……」

 私の言葉に月子先生は、目を丸くした後で「ふむ」と口にしつつ、拳を口元に当てた。


「やはり、エネルギー球を接触させない様に離した状態で維持出来るか試してみよう」

 月子先生の提案に、私は「はい」と返事をしつつ、エネルギー球の移動に意識を向けた。

「まずは、現状の位置に固定して、手を動かしても付いてこない様にしてみてほしい」

 的確なタイミングで出された月子先生の指示に「了解です」と答えつつ、現状の確認のために軽く手を動かしてみる。

 手の動きに合わせてエネルギー球は上下左右前後にと、移動距離を定規で測れるわけでは無いので、目測にはなるが、手の動きとまったく同じ距離を動いて追従していた。

 そこまでの簡単な確認を終えた私は、次のステップに進む。

 右手を私から見て右上の方に高く上げた。

 手の甲から均等な距離を維持するエネルギー球も、当然私の右上に移動する。

 その状態で私は右手の甲の上に浮かぶエネルギー球に制止するようにと念を送ってみた。

 手を挙げた状態でどの程度時間が掛かるのだろうかと考えていると、不意に大丈夫そうという感覚が芽生える。

 それが固定完了の合図だろうと認識した私はゆっくりと右手を下ろした。


 無事固定に成功した私は、左も同様にエネルギー球を空中で固定した。

 手の甲にリンクしていた二つのエネルギー球を固定した私は、自由になった手を動かしてみる。

 手を振ったり素早く動かしたりしてみても、空中に張り付いたエネルギーは動くことは無かった。

 とりあえず大丈夫だろうと判断した私は、当初の目的であった目に装着したままのコンタクトレンズを外す。

 右目を外したところで、違和感に気が付いた。

「月子先生!」

 思わず声を掛けた私に、月子先生は「どうした?」と即座に反応する。

「右目のコンタクトレンズを外したんですが、エネルギー球が見えなくなりました」

「何!?」

 私の報告に、月子先生は大きく驚いた。

「こうして左目で見れば見ることが出来るんですが、左を閉じて右目で見るとエネルギー球が見えなくなります」

 片目ずつ目を閉じて説明をすると、月子先生は視線を私の左の掌の上に乗るコンタクトレンズに向ける。

「私が装着すれば、エネルギー球を見られる……かもしれない、な」

 月子先生の声に期待とか、好奇心とか呼ばれる類いの感情がこもった。

 私は、このまま装着しそうな勢いの月子先生に「流石にコンタクトレンズの着け回しはダメだと思うので、新たに出現させるまで待ってください」と告げる。

 月子先生としては私の言葉が面白くなかったらしく「むぅ」と声を漏らした。

 が、それ以上、声を発することは無く「確かに凛花さんの言うとおりだな」と口にして引き下がる。

 あっさりと引き下がってくれたことに安堵していると、月子先生は「エネルギー球が見えないまま実験を続けるのは危険では無いか?」と尋ねてきた。

 対して、私は軽く左右に首を振ってから「いえ、両目を閉じれば、脳裏にイメージが浮か上がりますから、恐らく左目を外しても問題ないと思います」と伝える。

「なるほど」

 納得した様な表情で頷いた月子先生は「それじゃあ、コンタクトレンズのアップデートに進んで貰えるかな?」と聞いてきた。

 私は「わかりました」と頷いて、左の目のコンタクトレンズを外すために、左の指で瞼を押さえ、右手の指を眼球に近づける。

 多少手慣れたことに加え、私の外したいという気持ちに呼応する様に、コンタクトが自ら外れる様で、左のコンタクト外しにも手間は掛からなかった。







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