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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第拾参章 試行錯誤
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拾参之漆 緊急事態

 エネルギー体なので、カーテンなどを擦り抜けているのだが、それぞれの光球の直径は、私の身長と同じかそれより大きく感じられた。

 それが合計で四つも浮かんでいる。

 現状それ自体が驚くべき事態なのだが、突如出現したエネルギー体に結花ちゃんが巻き込まれていないかが一番の懸念事項だ。

 もちろんエネルギー体に触れても何の影響も無いかもしれないが、影響が出る可能性は決して低くない。

 物体は擦り抜けていることから、肉体に影響は無いかもしれないのだが、壁を擦り抜けて移動出来る球魂は、エネルギー体に近い性質がありそうなので、危険度はより高い筈だ。

 このままアップデートするわけにはいかない。

 私は結花ちゃんの状況確認が最優先だと判断して、出現したエネルギーの拡散を選択するが、何しろエネルギー量が膨大なので、すぐに霧散させることは出来なかった。

 しかも下手にその場で爆散させてしまった場合にも、結花ちゃんの求婚に影響の出る恐れがある。

 ならば、元の場所に押し返すしか無いと考え、私は体の中にエネルギーが入り込むイメージを浮かべた。

 直後、巨大なエネルギーの球体が円錐状に先端を補足して、私の両手足の甲から内側に入り込み始める。

 先端はかなり細くなっていたものの、やはり押し戻すというのはかなり無理なことだった様で、細い穴を無理ありこじ開けるような形になってしまったからか、それなりの痛みが両手足の甲に発した。

 声を出したりはせずに済んだのだが、痛みに体が反応したせいで、体から繋がる医療機器が『ピン!』と警告を示すのであろう電子音を発する。

 そのまま、二度三度と間隔はマチマチながら、電子音が放たれたところで、私は思いきってコードを撥ね除けた。

 貼り付けてあっただけの電極パッドは、ほんのわずか、抵抗を見せたが、私のはらう勢いには逆らいきれず、一気に私の肌から離れていったのを感じる。

 直後『ピーーー』という警告音を発した後で、医療機器からは警告音が発せられなくなった。

 耳障りに感じていた電子音がやんだことで、私は改めてエネルギーを押し戻す作業に集中し直す。

 速度を優先したせいで、手足から感じる痛みは増したものの、歯を食いしばって耐えたお陰で、エネルギー体を消し去るまではそれほどの時間は掛からなかった。


 エネルギー体の消失を確認してすぐに私は目を開いて、周囲を見渡した。

 結花ちゃんの球魂を早く見つけて安堵したい一心だったが、私の願いとは裏腹にその姿は見えない。

 既に、体に付いていた電極のパッドは全てむしり取っているので、体の上に残ったコードを払いのけながら、私は裸足で保健室の床に飛び降りた。

 それと時を同じくして、ガラッと大きな音を立てて保健室入口の扉が開かれる音が聞こえ、私は音の主を確認するために、ベッドを囲むカーテンから素早く顔を出す。

 すぐに視線を向けた保健室の入口には月子先生があった。

「無事……の、ようだね」

 珍しく乱れた髪をかき上げながら、月子先生は苦笑を浮かべる。

 月子先生の態度に、どこかホッとした雰囲気が感じられるのが、少し嬉しく思えってしまった。

 なんだかくすぐったいものを感じる私の全身からは力の抜ける。

「……月子先生」

 思わずその名前を呼んだところで、月子先生の影から一つの影が飛び出してきた。

 私が「えっ!?」と、戸惑いの声を上げている間に、飛び出した影は月子先生の横を擦り抜けて私にしがみつく。

「リンちゃん、大丈夫なの!?」

 目を潤ませて切羽詰まった表情で私に声を掛けてきたのは結花ちゃんだった。

「結花……ちゃん……」

 球魂が巻き込まれたかもしれないと不安だったので、動いている姿を目に出来たことで、安堵してしまったせいで頭が真っ白になる。

 私の反応が希薄だったせいか、結花ちゃんは私の体に触れながら「どうかした? 痛いとか? つ、辛いならベッド戻ろう?」と真剣な表情で言葉を重ねてくれた。

 肌を介して直接伝わってくる結花ちゃんの体温に、私は呆然としている場合じゃ無いと軽く頭を振る。

「だ、大丈夫、さっきも言ったけど、痛みとか辛さとかは全然無いよ」

 慌てたせいで少し噛んでしまったのが良くなかったのか、結花ちゃんからは「また無理してるでしょ!」とやや怒った表情で問い詰められたしまった。

 これはいけないと思った私は、緩やかに首を左右に振って、事情を説明する。

「本当に大丈夫……というか、さっき予定に反してすっごく大きなエネルギーの塊を出現挿せちゃって、それに結花ちゃんの球魂を巻き込んで締まったんじゃ無いかと思ってたから……」

 そこで切って、一拍置いてから「結花ちゃんの元気な姿を見て安心して気が抜けたんだよ」と苦笑を浮かべて見せた。

 間を置きながらゆっくりと話したのが良かったのか、結花ちゃんは怒り顔からジト目になって私を観察し始める。

 しばらく私を見ていた結花ちゃんは、目を閉じると大きう溜め息を吐き出した。

 それから目を開けて私を見た結花ちゃんは「まあ……無事なら、良いわ」と軽く顎を上げる。

 私はそんな結花ちゃんに向かって「心配をおかけしました」と頭を下げた。



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