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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第拾参章 試行錯誤
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拾参之参 計測

 VRシステムの構築が実現できそうと思ってしまったことで、私の中にはすぐにでも実験に取り掛かりたい強めの気持ちがあふれ出していた。

 普段の私であれば、この感情に任せて突っ走ってしまっていたかもしれないけど、今回は見事踏み止まることに成功している。

 というのも、食堂での話し合いの結果、明日は志緒ちゃん、舞花ちゃん、結花ちゃん、それに花ちゃんのバックアップの下、VRシステムの構築に挑むことが決まっており、その約束を守るという決意が、私の中でブレーキとして大いに効果を発揮していたのだ。

 踏み止まれたことを誇るというのも、何とも情けない話ではあるものの、約束を守ることは誇らしいので、いい気分になるだけなって、後のことには目を向けないことにする。

 そんなわけで、個人的にVRシステムについてネット検索をしようとも考えたのだけど、これも踏みとどまった。

 理由としては、まず志緒ちゃんや舞花ちゃんがアニメや漫画などで、VRゲームを主題にしたゲームに詳しいこと、加えて私が余計な知識を持っていない方が柔軟性があり応用の効くシステム構築をする確率が高いことがあげられる。

 これもあまり大きな声で言うことではないけども、私は多少無知の方が、良いというわけだ。

 それに加えて、今日はかなりの数の具現化やアップデートを行っただけでなく、これまでにない施設という大型の物体の具現化もしているので、それらが悪影響を及ぼしていないか確認するということで、私は絶賛電極だらけで動けなかったりする。

 電極が繋がるのは、保健室に特別に用意された医療機械で、心拍数や血圧、心電図などを計測するための機械だ。

 今晩はこの機械を付けたまま、保健室で一晩を過ごすことになる。

 私に取り付けられた電極と機械の記録状況を確認した花ちゃんが、私が一晩泊まることになったベッドを加工用に吊り下げられたカーテンを閉じてこの場を後にした。

 閉め切られたカーテンの中は、花ちゃんが出て行ってしまったので、今日の特訓を担当してくれる予定だった雪子学校長と私の二人きりになる。

「ネットワークにも参加できるようになっているらしいぞ」

 雪子学校長はそう言いながら、私に電子パッドを差し出した。

「ありがとうございます」

 受け取った電子バッドを少し弄ってから動作に問題がなさそうなので「大丈夫そうです」と雪子学校長に伝える。

 すると、雪子学校長は「一人で寝られるかね?」と尋ねられてしまった。

 苦笑しながら雪子学校長に、私は「流石に、大丈夫ですよ」と答える。

 置かれている薬品だけで無く、消毒なども適時行われているので、保健室の中には独特な空気が漂っているし、年季の入った薬品棚や備品の数々には雰囲気があるので、私が見た目相応だったなら怖がっていたかも知れないなとは思った。

 とはいえ、流石に中身は大人なので、不安は全くない。

 改めて、私は「大丈夫ですよ」と繰り返した。

 雪子学校長は、私の答えに苦笑をしながら「ふむ」と呟く。

 その後で「まあ、怖くなったら、いつでもコールしたまえ」と優しい目を私に向けた雪子学校長からは、揶揄っているわけでは無く、単純に心配してくれているのだというのが感じ取れた。

 気持ちは嬉しいので、心配しすぎと文句を言うのも違うし、かといって心配と優しさの混ざった目を向け続けられるのも微妙に居心地が悪い。

 私はそこで、話題を切り替えることを試みた。

「ちなみに、大丈夫だとは思うんですが、その、お手洗い尼行きたくなったらどうしたら良いですか?」

 言い終えてから、聞いた内容がお手洗いの話というのも、少し恥ずかしい気がしたけども、確認しておかなければいけないことだしと自分の中で言い訳をしながら、雪子学校長の答えを待つ。

 私が気恥ずかしさを感じつつ待っていると、雪子学校長は真面目な顔で「今、尿意や便意があるのかね?」とストレートに尋ねてきた。

 予想外の直接的な問いに、私は思わず「えっ!」と慌ててしまう。

 一方、雪子学校長は落ち着いた様子で「すぐに、トイレに行きたいというわけで無ければ、催した時は電極を外してくれれば良い」と言い切った。

 再び想像していなかった言葉に、頭が真っ白になって、反応するのに時間が掛かってしまったが、私はどうにか「外していいんですか?」と尋ねる。

 雪子学校長は軽く頷きながら「データを取るなら長い時間とれた方が良いだろうが、別に君の様子からしてモニタリングを欠かせない程、体が弱っているようには見えないからね。今すぐならともかく、しばらく経ってからなら、必要最低限のデータはとれていることだろう」と説明してくれた。

 私は目を瞬かせながら「なるほど」と頷く。

 そんな私をジッと見てから、雪子学校長は真面目な顔で「まあ」と口にした。

 明らかに何か言葉が続く気配に、私は「どうしましたか?」と恐る恐る尋ねる。

「外すのに抵抗があるなら、おむつを着けて寝るという手もあるがね」

 そう言いながら、雪子学校長はカーテンの向こう側にある壁に備え付けられた金属製のスライド扉の付いた棚を視線で促した。

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