拾弐之陸拾 縮小
「人形サイズに、1/10サイズに、それから3センチに、と三種類思いついたんですけど……」
私は1/10サイズに変化させるイメージの派生で、具体的な長さを明示したイメージを加えた三案があることを皆に伝えた。
どれを選んだら良いかについて、意見を貰うためだったのだけど、那美ちゃんからの答えは想定外のものとなる。
「全部ぅ、思い浮かべればぁ、解決ねぇ」
三択のつもりだったのに、あっさりと四番目の選択肢が提示された上で選択されたことに、私は固まってしまった。
一方、那美ちゃんの言葉に大きく頷いた月子先生が「まずはアップデートが出来るか否かを検証しよう。条件付けやその検証は後でも出来るからね」と続ける。
私はその説得力のある一言に「なるほど」と素直に頷いた。
アップデート出来るだろうというのは、あくまで私の中の感覚でしか無く、実際には一度も成功していない。
ならば、最初にアップデートの可否を検証するのはもの凄く理に適っていると頷けた。
「それじゃあ、アップデートしてみます」
私は宣言と共に、東雲先輩のお陰でしっかりと設置出来たビーチボールに向けて、真っ直ぐと前に手を伸ばした。
ゆっくりと集中しながら目を閉じる。
頭に思い浮かべるのは、ビーチボールの変化だ。
人形サイズに、1/10サイズに、3センチに、要素を頭に浮かべる度に私の中で、アップデートが成功するという確信が強まっていく。
同時に、体から必要なエネルギーが集まらなかった。
「えっ!?」
思わず声を漏らしたことに、月子先生が「どうした! 危険かもしれない。違和感があるなら一時中止するんだ」と慌てた様子で反応する。
それだけで、かなり心配してくれるのだと察した私は、まずは安心させようと「大丈夫です」と口にした。
私の返しに、月子先生は少し間を開けてから「……大丈夫の根拠を説明してほしい」と長く息を吐き出した後で尋ねてくる。
大丈夫という私の言葉を納得出来たわけではないものの、主導権を残したままにしてくれたのだろう。
その決断に応えるためにも、可能な限り丁寧に起きた事を言葉にした。
「……なるほど、アップデートを開始したのに、エネルギーが体から集まらないと……」
「そうです」
私が頷くと、普段と変わらない調子の声で、月子先生は「エネルギーが集まっていないなら、現時点で暴走の可能性は無いと考えて良いのかな?」と聞いてきた。
頭に浮かんでもいなかった状況の受け止め方に、なるほどと思いながら「確かにエネルギーが流れてもいないので、暴走しそうな気配はしないです」と返す。
「なら、緊急性は少し下がったと考えても良いだろう」
月子先生の言葉に、素直に「はい」と同意した。
「それで、アップデートの現状はどうなっているか、わかるかな?」
「少し待ってください」
私はそう返すと、意識の軸足をアップデートに向けて見る。
頭の中のイメージではビーチボールには変化は無く、私の全身からもエネルギの放出や移動が感じられないというのが現状だ。
「ふむ……つまり、何も変化は起きていないということか……」
月子先生がそう口にしたところで、東雲先輩が「思うんだが」と発言する。
「思い付いたことがあるなら、遠慮無く言ってくれ」
東雲先輩は月子先生にそう促され、すぐに「これまでのことから推測すると、ビーチボールを一度エネルギーに戻してから、変化させるわけだろう?」と口にした。
私は間違っているところや補足が必要な場所は感じなかったので「そうですね」と頷く。
「そのエネルギー体に戻ったビーチボール自体のエネルギーで変化には十分だから、追加のエネルギーが放出されないんじゃ無いか?」
東雲先輩の言葉に、月子先生は「一理あるね」と同意した。
その後で、月子先生は「凛花さん、安全面は今のところ問題なさそうだから、そのまま、アップデートを継続して貰えるかな?」と言う。
私としても異論は無いので「わかりました」と返して、意識をアップデートに集中させた。
アップデートは始まっているはずなのに、体からエネルギーが集まってこないという事態に、私の中で不安感が徐々に強まっていた。
変化が無いということがこんなに不安なものなのかと思い、何か小さくても良いから変化が欲しいと思っていると、ビーチボールの上部が光り始める。
私が変化の訪れにホッとすると、それを切っ掛けにしたかの様に、一気に光がビーチボール全体に広がり巨大な光球へと変化を遂げた。
ここまで来ると普段の変化に戻ったという実感が湧いてきて、これまで感じていた失敗や問題が起こる事への恐れがスッと私の中から消えていく。
と、更なる変化として光球となったビーチボールが、ゆっくりと浮かび上がった。
更に間を置かず、全体が震えたかと思うと、グンとビーチボールが縮小する。
それを何度か繰り返し、徐々にそのサイズを小さくしていった。
アップデートを開始した時は、見上げる程のサイズだったビーチボールは、今の私に丁度良い、人形サイズまで縮まる。
そうしてゆっくりと降下して、伸ばした私の手と手の間に収まった。




