拾弐之伍拾玖 サイズ変更
「次の実験ですか?」
内心では何をするんだろうと思いながら、月子先生に聞き返すと、すぐにその答えは示された。
「これを人形サイズにアップデートしてみてほしい」
私は月子先生からの要望に、思わず「なるほど」と頷く。
具現化には成功したとはいえ、人間サイズでは想定外なので、元々の予定通り人形の手に収まるサイズにリサイズするのは、一石何鳥にもなるのだ。
ウーノの体で具現化したものを単純にアップデートすることが出来るのか、あるいはウーノの体のままでもアップデートが可能か、そして立て続けにアップデート出来るのかを知っておくことは、今後の計画や戦略の立てようも変わるので、検証は不可欠なのである。
なので、ビーチボールを受け取ろうと両手を差し出したのだが、月子先生には首を左右に振られてしまった。
「リンちゃん、流石にぃ、ボールがぁ、大きすぎてぇ、持てないと思うわぁ」
月子先生の反応に、首を傾げる前に、那美ちゃんはそう言って苦笑する。
ウーノの体は、元の体の1/10位なので、人間サイズのビーチボールと言えば三メートルくらい……運動会の大玉転がしで使う程度のサイズなので、いけそうかなと思っていたのだけど、どうも那美ちゃんと月子先生の目算では無理と言うことらしかった。
手に持ってアップデートをしようと考えていたので、どうしようかと思っていると、氏のお目先輩が真っ白いタオルを手に歩み寄ってくる。
私の横に円を描く様にタオルを置いて、ドーナッツ状に整形すると、月子先生から受け取ったビーチボールをその中心に据えた。
足跡の台座に置かれたビーチボールだったが、さすが東雲先輩である。
ピタリと収まって、動く気配すら見せなかった。
「これなら、持たなくても大丈夫だろう」
東雲先輩はそう言い残すと、すぐにカメラのセッティングへと取りかかる。
なんというか、寡黙な職人さんを彷彿とさせる渋い行動に、私は素直にカッコイイと思ってしまった。
年下の少年に対して、憧れやああなりたいと思うのは、どうかとは思うけども、格好いいなと思ってしまった以上、私はこの胸の中のときめきを否定することは出来ない。
いつか、私もあんな立ち振る舞いを身に付けたいなと思いながら東雲先輩を見ていると、不意にこちらへ振り返った。
予期せず視線がかち合ってしまったことで動揺したのか、東雲先輩はスッと視線を逸らして僅かに耳を赤くする。
先ほどまでの寡黙な職人風の格好良さとのギャップに、口元が緩みそうになってしまった。
こういう普段とは違う姿に、女性は心を掴まれるんだろうなと思いながら、東雲先輩の才能に恐ろしさと羨ましさを感じる。
すると、何故か、私の良きに立っていた那美ちゃんが「はぁ」とわかりやすく大きな溜め息を零した。
この状況での溜め息に、私の中の勘が一つの結論を導き出す。
『那美ちゃんは東雲先輩の格好良さに心ときめいているのでは!』
正直、良くはないと思いながらも恋する乙女というものに興味が無いわけではない私は、こっそりと視線を那美ちゃんに向けた。
すると、こっそりと向けたはずの私の視線が、那美ちゃんの視線と待ち受けていたかのように、バッチリと交差する。
その上で那美ちゃんには「はぁ」とわかりやすく大きな溜め息を吐き出されてしまった。
ようやく、那美ちゃんには考えていることが筒抜けだったことを思い出した私は、完全否定の溜め息なんだと察する。
だとすると、那美ちゃんの最初の溜め息は何だったのかと、私は首を傾げたのだけど、そのタイミングで三回目の溜め息が放たれた。
東雲先輩によって鎮座させられちゃビーチボールは、今の体の体感的に三メートル……冷静に考えると建物の一階分はあるので、今にして思えばこれを持つのは無謀だったかもしれないと、改めて自分の考えの誤りを痛感した。
そして、視界の端で大きく頷く那美ちゃんの姿が見える。
その様子を見た月子先生までもが、少し呆れた表情で頷くので、これはもう気にせず作業に入るのが一番だと判断した私は「じゃ、じゃあ、アップデートいきます!」と宣言して、強引に状況を進めることにした。
前回は具現化で、今回は具現化したもののアップデートだが、やることは基本的に大きく変わらないので、まずは先ほどと同じように、ビーチボールの前に腰を下ろすことにした。
理由は予期せぬテントからの落下を防ぐためである。
一応、那美ちゃんプロデュースの気体の服やエアバッグを装着しているので、落ちても大丈夫だとは思うけども、アップデートの検証に絞りたいところなので、可能性は極力排除する方針だ。
机に座った結果、視線が下がった事もあって、ビーチボールの迫力が増した様に思える。
そんな巨大な球を見上げながら、私はどうアップデートしていくかを考えた。
まず最初に、具現化の時点でサイズは通常サイズと考えていて、実際に、人間にとっては通常サイズで具現化されている。
ならば、単純に人形サイズでというイメージをすれば良い気もするけども、それでは正確性に乏しい気がするので、私は具体的に1/10サイズに変化する様に念じる案を思い付いた。




