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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第拾弐章 構築新生
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拾弐之伍拾参 突入

 人形の体だからか、そもそも、凛花としての体が柔らかいからかはわからないけど、私はファスナーと肩甲骨の下部、胸を覆うビキニのブラのやや下まで降ろすことに成功した。

 ダイビング経験などは無いので、背中のファスナーなんて初めての経験だけど、苦労しなかったのは助かる。

 そんなことを思っていたら、ファスナーの持ち手から手が外れた。

「あっ」

 思わず後を追った指が、背中に触れる。

 背中の指が触れた一点を中心に、ゾクゾクと震える様な感触が体中に伝播したせいで「ひゃっ!」と声が出てしまった。

「……凛花さん」

 私の名前を口にした呆れの混じった月子先生の声に、恥ずかしさと申し訳なさの混じった妙な感情が湧いてくる。

 とはいえ、それを甘んじて受け入れるのには抵抗があるので、私は言い訳とわかりながらも「その、想定して無くて、ですね」と口にした。

 対して月子先生はにっこり笑って「わざととは思ってはいないよ……思ってはいないけどね……」と語尾を濁されてしまう。

 これ以上の言葉は、自分の感度の良さを強調している様に思えて、耐え切れそうにないので、見失ってしまったファスナーの持ち手を探すことにした。


 だげること自体は容易かったのに、手放してしまったファスナーの持ち手を探すのはそれなりに難易度が高かった。

 背中で見えないというのもあるけど、気体で出来ているので、仮に背中に鏡を置いて貰ったとしてもみて確認が出来ない。

 恥を忍んで月子先生の協力を求めても、そもそも見えないので指示を出して貰うのも困難だ。

 結果として、自分の指に集中して、ファスナーの取っ手の創作に奮闘する。

 が、普通の服と違って、ファスナーが近づくと山になっているとか、気体越しに指の感覚を感じると言うことがないので、急に生地の上から逸脱した指が背中に直接着地して新たに声が出そうになった。

 同じ事を繰り返すのはかなり恥ずかしいし、情けないので、声を出さない様に必死に堪えながら懸命に作業を続ける。

 自分の見たままを録画することで、私の状況を逐一記録しているはずの月子先生が、時々目を逸らしている理由を考えると、恥ずかしさで死んでしまいそうな気がするので、心を無にしてただ挑み続けた。

 そうしてどうにか発見したファスナーの取っ手を掴み、可能な限り下に降ろしきることに成功する。

 背中のファスナーは、腰の辺り、水着に包まれたお尻のやや上ぐらいまで降ろすことが出来た。

 とりあえず、ここからの指示を確認するために、月子先生にファスナーを降ろした事を報告すると、とんでもない言葉が返ってくる。

「それじゃあ、ファスナーを上げて着直してくれるかな?」

 月子先生の言葉に、私は「へ?」と声を返すので精一杯だった。


「気体の服を全部脱ぐところまでやって貰っても良かったんだが、一度脱いでしまうと着るのは難しいかと思ってね」

 月子先生の言い分は最もだった。

 このまま手の感触だけで脱ぐことは出来ると思う。

 では、脱いだ後で着直せるかというと、私も難しいとしか言えなかった。

 一端腕を気体の服から抜いてしまった後に、元通り腕を通し直せる自信が無い。

 苦労してファスナーを降ろした事が無意味になった気がもの凄くするが、ここから一端全部脱いで、脱げることを検証してから着直すよりも、途中で着直して、実験を先にした方が良いという月子先生の考えは頷ける要素が多かった。

「……それじゃあ、着直しますね」

 自分に言い聞かせる意味も込めてそう宣言すると腰に手を回す。

 下まで降りきっているファスナーのみ持ち手は、途中で見失った時と違い簡単に手に取ることが出来た。

 そのまま今度は上に向かって引き上げると、するするとファスナーが上がり、露出していた背中が何かに覆われていく感覚がする。

 ファスナーの持ち手が、腰から背中を抜けて首の付け根に近づいていくほどに、腕の動かし方や持ち手を離さないようにしないといけないので、難易度が上がるものの、個人的感覚出言えば、上げる方が楽な気がした。


「着直しました」

 首の後ろ、ファスナーが元の位置まで上げ切れたのを確認した所で、私は突き古銭制に報告を上げた。

 対して、月子先生は円柱状になった体験施設の隔壁の前に私を降ろしながら「それじゃあ、施設に入って貰えるかな?」と言う。

「了解しました」

 そう返してから、月子先生の手から降り、四角かった頃と同じ見た目の出入り口の隔壁の前に立って、開閉ボタンを操作した。

 ゴウンゴウンと揺れを伴う大きな音を立てながら、円柱状になった体感施設の隔壁が開いていく。

 上下、左右、それぞれに鋼鉄製の扉が移動する二組の隔壁が壁の中に収まると、私の視界の先には白い人工の光に照らされたコンクリート製の通路が目に入ってきた。

 円柱の壁までもが同じコンクリートでできあがっていて、太尉風体験施設の様な一段高くなったステージ上の舞台も、大きな扇風機も、複数のシャワーヘッドの付いた金属パイプ製の雨を降らすためのスプリンクラーも無くなっている。

 その代わりに、円柱状の建物の中心部には円形の金網の様なものが設置されていて、その下に巨大な送風機の羽根が見えた。

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