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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第拾弐章 構築新生
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拾弐之肆拾陸 再びの

「なるほど、確かに見事な円柱になっているね」

 具現化が終わったところで、出現したコンクリートの円柱を確認した月子先生は、そう言って息を漏らした。

 元々は直線的なフォルムだったものが、丸みを帯びた形に変わっている。

 形が変わったのは、アップデート時に取り込んだ那美ちゃんのイメージの影響だ。

 恐らく、映像で確認したスカイダイビングの地上体験施設は、円柱の透明で大きなパイプ状の空間に、下から猛烈な風を送り込んで体を浮かせるという仕組みだったので、そのイメージが円柱形状に繋がったのだろう。

 そんな生まれ変わった体験施設の入口の見た目はそれほど変わっていなかった。

 全体的に丸みを帯びた壁に対し、長方形の隔壁という組み合わせになったのだが、コンクリート製の外壁と金属製の隔壁の組み合わせなので違和感はほぼ存在しない。

 ちなみに、入口は人形サイズのままなので、結構無理をしないとこのままでは入り込めそうに無かった。


「では、新たなエアバッグが必要だね」

 月子先生がそう言いながら、私と那美ちゃんを見た。

 素材の検証のため、最初に出現させたエアバッグは切断してしまったので、新たなものが必要というのは、とても自然な発想だし、流れなのだけど、那美ちゃんがエアバッグには軽いトラウマを抱いていたので、私としてはどうも頼みにくかったのだけど、月子先生には配慮も容赦も無いらしい。

「二度目だから、比較的簡単にできるだろう?」

 言ってることは正しいのだけど、那美ちゃんがどう反応するのかが心配になってくる言い回しに、不安を覚えながら視線を向けた。

 すると、那美ちゃんの少し不安げな瞳と視線がかち合う。

 視線から受ける印象は、私に出来るか尋ねている様に見えたので「一回具現化しているので、同じようには出来ると思います」と伝えた。

 ただ、一度具現化した後で、エアバッグの異常さを知ってしまっているので、性能に変化が出るかもしれない。

 知らなかったところを無理にエネルギーで埋める場合と、正しい知識で埋めた場合では、前者の方がエネルギー消費は大きい、一方で、後者の場合、心配が無くなりエネルギー効率は高まるが、特殊な能力が消失したり劣化したりするので、知らない方が良い場合があるのは事実だ。

 那美ちゃんの場合は、どういった影響が出るかわからないけど、私単独でエアバッグの具現をやりきれば、スンナリ出来てしまう気もする。

 頭の中でそんなことを考えていると、しっかりと読み取ってくれたのであろう那美ちゃんが「一度、試してみたわぁ」と挑戦を表明したので、私は頷きで受け入れた。


「そう言えば、そうだった……」

 水着姿のウーノに再会した私は、思わずそう呟いた。

 そんな私に、にっこりと笑って月子先生が「水泳の授業前に自分そっくりの人形に水着を着せて、見た目のチェックかな?」と言い放つ。

「ち、違います」

 普段のノリで切り返さない様に気をつけながら月子先生の言葉を否定した。

「そうですよぉ、私がぁ、水着姿のぉ、リンちゃんを~見たかったんですよぉ」

「なるほど、水泳の授業まではもうしばらくあるからね」

 那美ちゃんに真面目な顔で頷く月子先生、そんな二人に対して私は「私のじゃ無くて『ウーノ』の水着姿ですからね!」ときっちり訂正を入れる。

 すると、私の指摘に振り向いた二人との間で、妙な見つめ合いが起きた。


「そうねぇ~」

「うん、そうだねぇ」

 那美ちゃんと月子先生から生暖かい目で見詰めながら、笑顔で頷かれた。

 もの凄く釈然としない。

 が、もう一度繰り返しても仕方ないというのはなんと苦わかったので、これ以上訴えうるのは辞めることにした。

 そんな私の決断を読み取ったのか、那美ちゃんが「それじゃ~、もう一度ぉ、エアバッグをぉ、具現化しましょ~」と声を掛けてきた。

 私としてもその提案を拒否する理由はないし、実験のために元々エアバッグを再度具現化する必要があったので「はい」と頷きを返す。

 すると、月子先生が「エアバッグは確か、衣装のアップデートの一環で出現させたんだったね?」と確認してきたので「はい」と言って、これにも頷いた。

「雅人くん」

 月子先生は私の返事を聞くなり、東雲先輩に声を掛ける。

 声を掛けられた理由を察した東雲先輩は、すぐに「録画するなら、一度、教室に戻った方が良いかもしれないです」と返した。

「それは手間がかかるね」

 月子先生の言葉に、東雲先輩は頷いてから「視界情報で記録しますか?」と提案する。

 対して、月子先生は私と那美ちゃんを順番に見詰めてから、東雲先輩に向き直って、ニヤリと笑みを浮かべた。

 もの凄く嫌な予感を想起させる笑みに対して、月子先生との付き合いの短い東雲先輩は不思議そうな顔で見詰めている。

 月子先生は「では雅人くんは『ウーノ』を凝視してくれ」と言いながら、唖然とした表情を浮かべた東雲先輩の手から、先ほど渡したばかりの端末を掴み取った。

「つ、月子先生」

 声に動揺が見られる東雲先輩に対して、月子先生は「凛花さんはアップデート、那美さんはイメージ、となると、残る雅人くんがその目で観察というのが適当じゃ無いかな?」と尋ねる。

 東雲先輩は、半ば諦めた表情で「月子先生に任せるわけには……」というと、月子先生は大きく首を左右に振ってから「残念だが、観察に集中していては、不測の事態に即応出来ないからね」と言い切った。

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