拾弐之肆拾弐 次は
「まさか、そんな仕組みになっていたなんて……」
私の呟きに、那美ちゃんが「まーちゃんが考えた通りかはわからないけどぉ、凄く納得出来る考えだと思うわぁ」と東雲先輩を見ながら溜め息を吐き出した。
やらかしたと感じていた那美ちゃんは、自分なりに納得出来る考えを聞けて安心したんだと思う。
「あくまで仮説のつもりだったが、この感じだと当たりっぽいな」
東雲先輩はそう言いながら試し終わった道具を手元にまた一つ並べた。
花ちゃんのナイフだけで無く、ホッチキス、カッターナイフに、穴開けパンチ、コンパスと短時間でかなり試している。
研究熱心だなぁと思っていると、今度は釘と金槌を取り出した。
小・中学校の図工、美術、技術・家庭科と、様々な授業に対応するために工具の類いは、一般家庭より多いので、試す道具はいくらでもある。
放っておいたら、糸鋸やら彫刻刀やら包丁やら持ってきそうなので、一応止める事にした。
「東雲先輩、素材の調査は花ちゃんや月子先生に任せませんか?」
そう言うと東雲先輩は実験の手を止める。
那美ちゃんがそのタイミングで「まーちゃんはぁ、目的を忘れているけどぉ、まーちゃんの練習環境を整えるのがぁ、目標だからねぇ」と言い放った。
直後、東雲先輩は「そう……だったな……」と漏らして視線を逸らす。
その後でガシガシと頭をかきながら「いや、正直、試していて、テンションが上がってしまった……申し訳ない」と言いながら頭を下げた。
一見すると普段と変わらないが、耳の端が赤くなっていて、それが微笑ましくて、声を出して笑いそうになる。
恥ずかしがっている東雲先輩に追い打ちを掛けるのは良くないと、必死で堪えて私はどうにかその場を凌ぎきった。
「那美のお陰で、少なくとも安全面はかなりクリア出来るんじゃ無いか?」
東雲先輩の言葉に、那美ちゃんが「エアバッグの応用ってことねぇ」と頷いた。
発言主である東雲先輩と、その考えを読み解いた那美ちゃんと違って、私は話の展開について行けず首を傾げる。
「えーと、エアバッグの機能で……人形を護る……ってこと、ですか?」
言葉が端的なので探り探りになってしまったが、それでもどうにか情報を結びつけた。
そんな私の発言に頷きつつ、東雲先輩は「例えば服に、エアバッグのように周囲の干渉を受けない仕様を追加すれば、激しく動いても衝撃を受けずに済ますことが出来るんじゃ無いか?」と言う。
「ちょっと試してみないとわかりませんね」
そう答えた私の頭に浮かんだのは、エアバッグよりも大きなものが対象の場合どうなるかと言うことだった。
確かに鋭い刃だけで無く、針のようなものまで受け止めているが、例えばそれが触れていないものの場合どうなるかがわからない。
例えば、大根か何かにエアバッグを掛けて、華道に用いる剣山を半分はエアバッグに、半分は大根に触れるようにして押し込んだ場合、エアバッグに触れてない部分は刺さるのか、どうかがわからないのだ。
どこまでの効果があるかによって、それこそ全身タイツのような衣装にする必要があるのか、水着のように面積が少ないものでも十分なのかが変わってくる。
もしも触れているだけで、効果を発するなら、それこそ、指輪やネックレス、メガネ……いや、ペンだって事足りてしまうわけだ。
すぐに分身の提供は出来ないが、身に付けるような品であればすぐに具現化出来る。
そうなれば皆の安全性は格段に高くなるはずだ。
私がそんな風に可能性を妄想していると、那美ちゃんが引きつった表情を浮かべて「そうなるといいけどぉ、流石に触れていないところまではぁ、無理じゃないかしらぁ」と言う。
那美ちゃんに頷きながら「さすがに、そうですよね。那美ちゃんのイメージが優れていても、それほど大きなエネルギーを必要としていなかった印象なので」とその意見に同意した。
夢見すぎだったかもしれない特賞をしたところで、東雲先輩は「まってくれ、エアバッグの具現には余裕があるってことか?」と驚いた顔を見せる。
「余裕がある……のかなぁ? 凄く大変だった印象が無かったし、アップデート前に霧散したわけでもないし……」
私の返しに、東雲先輩は、一度長く息を吐き出して「やっぱり、確かめる必要があるな」と呟いた。
東雲先輩の言うとおり、それしか無いなと思った私は頷きながら「じゃあ、次の実験はエアバッグの機能をどのくらい拡大出来るか……ですかね?」と聞いてみる。
「そうだな」
私の問いに対して、東雲先輩が頷いてくれたことで、方向性は定まったと思ったのだけど、ここで那美ちゃんが「待って貰いたいわぁ」と言い出した。
「リンちゃん!」
「は、はい」
「そうやってクルクルクルクル思いつきで方向転換するのは良くないわぁ!」
胸を人差し指で突かれながら、はっきりと断言されてしまう。
確かに、目の前に新たな題材が現れたせいで、当初の東雲先輩の訓練施設から、皆の防御力を高めるための装備作りに意識が流れてしまっていた。
「まずはぁ、素材の検証を花ちゃんや月子先生にして貰うのが良いわぁ」
「確かに……」
那美ちゃんの意見にその通りだなと思った私は素直に頷く。
東雲先輩が何か言いたそうな表情を浮かべたが、それを聞くよりも先に、那美ちゃんが「ねぇ、リンちゃん、私も空を飛んでみたいわぁ」と言い出した。




