弐之拾捌 双子の自己紹介
「同じ花の字がお揃いだったんですね! 想像が合ってて良かったです」
私がそう言うと、結花さんと舞花さんはどこか恥ずかしそうに視線を交わし合ってから、私の前に並んで立った。
「えっ……と」
何か間違えただろうかと、必死に頭を回転させていると、結花さんがにこやかな表情を浮かべて胸に手を当てる。
「ユイ……あたしは、鏑木結花。舞花のお姉ちゃんです!」
「はい、よろしくお願いします結花さん」
私は結花さんの自己紹介に対して反射的に頭を下げた。
そういえば、京一の時に聞いた自己紹介でも『お姉ちゃん』って名乗っていたなと思い出す。
頭を上げると、ワクワクした顔の舞花さんが待ち受けていた。
「舞花は、鏑木舞花。お姉ちゃんの妹です!」
「よ、よろしくお願いします」
思わず『お姉ちゃんの妹』は説明になっていないと突っ込みそうになってしまったので、私は慌てて頭を下げる。
結花さんに対して、舞花さんは京一の時とは大分違っていた。
同性の年に近い子に見える今の私と、京一で態度がまるで違うところからすると、大人の男性になれていないのかも知れない。
フゥッと小さく息を吐き出して、頭に浮かんだ林田京一の見た目とか、匂いとかが原因で嫌われてた可能性は無かったことにした。
そうして顔を上げると、結花さんと舞花さんはきっちりと声を揃えて「「四年生だよ」」と付け足す。
「えっと……」
ワクワクとした感情をたっぷりと詰め込まれた二人のキラキラした視線に二人が私の学年を尋ねているのは間違いなかった。
既に五年生という設定を決めているので、口にすれば良いのだけど、なぜだかそれが恥ずかしい。
だが、二人のキラキラの目は私を見逃してくれそうに無かった。
スススと視線を下に下げた私は、諦めを抱きながら、二人に聞こえるかどうかも怪しい声でどうにか言葉にする。
「ご……五年生……です」
直後、二人が同時に「「ええっ!?」」と驚きの声を上げた。
「ご、ごめんねー、ユイ達と同じか三年生かなって思ってたから」
驚かれたことに驚いて固まってしまった私を気遣ってくれているのだと思うのだけど、結花さんのセリフなかなか胸に突き刺さった。
確かにおどおどしてたし、花子さんにすがりついていたので……と、直前の自分を思い返すと恥しか無い。
頬が火を噴きそうな程熱くなってしまった。
そこに今度は舞花さんが声を掛けてくる。
「あの、舞花、リンちゃんって呼んじゃダメだった?」
「そ、そんなことないよ、です!」
凄く寂しそううな舞花さんの声に、私はほぼ反射でそれを否定した。
結果、妙な言葉遣いになってしまったけど、舞花さんは一瞬だけ驚いた顔を見せてから「良かったぁ」と表情を緩々にして安堵の声を漏らす。
その表情を見られただけで、言葉はボロボロだったけど、即答して良かったと、私はホッとした。
けど、舞花さんはその緩めた表情をすぐに引き締めてしまう。
それから私の方を見て、真剣な表情で次なる質問を口にした。
「あの、言葉遣いは……直した方が、良い……ですか?」
私は舞花さんの遠慮がちな問い掛けに慌てて左右に首を振る。
すると、背中で尻尾が暴れた時のような空気の流れを感じたので、私は慌てて右手を頭に、左手をお尻の上に当てた。
「リンちゃん?」
私は咄嗟に尻尾や耳が生えてないか確かめただけだけど、舞花さんからすると、突然謎のポーズを取るという奇行にしか見えない。
右手も左手も、耳、尻尾を発見することは無く、変化が解けたわけでは無いとそこは安心したけど、今度はこの謎行動の説明をしなければいけなくなってしまった。
「あ、えーと……ね」
どう繕えば良いのか、上手い言葉が出てこない私に、状況を見守ってくれていた花子さんが助け船を出してくれる。
「大丈夫ですよ、凛花さん。髪は乱れてません」
「え、あ、はい……」
「なに、リンちゃんてば、髪が乱れたと思ったの? あんなに思いっきり頭を左右に振るからだよ」
私と花子さんのやりとりを聞いた結花さんはそう言ってお腹を抱えて笑い出した。
花子さんと結花さんに『髪』を指摘されたことで、さっきの尻尾と誤認したのは、長くなった髪の動きで起きた風だとわかって、私は改めて安堵する。
そんな私に、いつの間にか顔が触れそうな近くまで顔を寄せてきた舞花さんが「ねぇ」と囁いた。
私の中では急に目と鼻の先に舞花さんの顔があったので、もの凄くドキドキしてしまったけど、どうにか「なんですか?」と返す。
「髪、気になるなら、舞花がやってあげる」
「え?」
突然の言葉に意味がわからず目を瞬かしていると、クスリと笑った舞花さんが更に言葉を付け足した。
「髪を結んで上げるよ、リンちゃん」
そういう事かと理解したけど、ここで花子さんの部屋に向かう途中だった自分の状況を思い出す。
私は自分だけで判断出来ないなと思い花子さんを見た。
すると、花子さんは「舞花さんが折角言ってくれてるし、頼んでみたらいいんじゃ無いかしら」と微笑む。
花子さんが許可してくれたのもあったし、舞花さんと仲良くなるのは悪いことじゃないので、素直にお願いすることにした。
「じゃあ、お願い、します」
私の言葉に嬉しそうに頷く舞花さんを見て、受け入れて良かったと思う。
「それじゃあ、先に、私の部屋に行きましょう。道具もありますから」
花子さんの言葉に優香さんと舞花さんは「「はーーい」」と声を重ねた。
出遅れた私は、慌てて「はい」と返事をすると、皆の視線がこちらに向く。
向けられたのは微笑ましいモノを見るような優しい目だったけど、とても恥ずかしかった。




