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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第拾弐章 構築新生
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拾弐之肆拾壱 仮説

「刃が立たないですね」

 花ちゃんが残していったナイフを、切断されたエアバッグに突き立ててて見たが、グニグニと沈み込むだけで切れる気配はまったくしなかった。

 そこで私は疑問を持って那美ちゃんに声を掛けてみる。

「あの、那美ちゃん……那美ちゃんは、このエアバッグを出現させる時に、どんなことをイメージしたんですか?」

「ん?」

 那美ちゃんが意味がわからないと言った感じで首を傾げた。

 純粋に何を考えたんだろうって言う疑問しか抱いていなかったので、説明の言葉を付け足す。

「那美ちゃんは、エアバッグを出現させる時に、絶対切れないものとか考えたわけじゃ無いですよね? なら、どんなことを考えたら、こんな切れないものに出来るの勝手疑問に思ったんですよ」

 那美ちゃんはほんの一瞬だけ嫌そうな顔を見せてから、真剣に考え始めた。

 こめかみに右手の人差し指を当てて、記憶をたぐり寄せる。

 ややあってから、那美ちゃんは首を左右に振って見せた。

「特に何か特別なことをかんがね買ったと思うわぁ。切れるとかぁ、切れないとかぁ、そんなこと考えもしなかったわぁ」

 そこまで口にしてから、那美ちゃんは小声で「だからぁ、困っちゃったしぃ」と小さな声で呟く。

 とりあえず、最後の呟きが聞かなかったことにして、東雲先輩に話しを振ってみた。

「東雲先輩。切るとか、切らないとか、考えてないのに、こんな風に刃を弾くって、どんな理由があると思いますか?」

 那美ちゃんに視線を向けた東雲先輩は「那美、切る切らない以外で、何かイメージしたことはあるか?」と尋ねる。

 那美ちゃんは少し困ったような表情で「えっとぉ」と顎に手を当てながら口にした。

 その後で「エアバッグだからぁ、全身を包むように膨らむイメージを描いたわぁ! あ、あとぉ、包まれた人がぁ、怪我をしないようにぃ、包み込んで護るイメージをしたかしらぁ」と続ける。

 対して、東雲先輩は、それかもしれない」と呟いた。

 私と那美ちゃんが、ほぼ同時に「「それって?」」と東雲先輩に問う。

 あまりにピタリと声が揃ってしまったせいか、東雲先輩は少し噴き出したように声を出さず笑みを浮かべてから表情を引き締めた。

「包み込んで護るイメージ」

 東雲先輩の発言を聞いた上で、私は「護るイメージがあるから、エアバッグは護られていたってことですか?」と首を傾げる。

 対して東雲先輩は「その可能性もあるだろうが、オレが考えたのはちょっと違う」と言い切った。

 どういうことなんだろうと、続きを視線で東雲先輩に求めてみる。

 私の視線に促された東雲先輩は「エアバッグは、触れたものを包み込んで護るというイメージで那美が出現させた……となると、エアバッグ自身に強度が生まれるとは思えない」と口にした。

「それって、エアバッグが受け止める対象は護られるけど、エアバッグ自体は護られないってこと……ですよね?」

 微妙な言い回しだけど、東雲先輩の言葉を元に私なりにまとめてみる。

 東雲先輩は頷いてから那美ちゃんに視線を向けて「那美も、エアバッグが壊れないようにとはイメージしていないだろう?」と尋ねた。

 コクリと頷いた那美ちゃんは「そこまでは考えてないわぁ」と続ける。

 それを聞いてから、東雲先輩は「つまり、エアバッグ自体には自分を不壊(ふえ)にするようなイメージは付加されていないってことだ」と言いながら、私を見た。

 私は「それって、無意識に……」と口にしながら那美ちゃんを見る。

 だが、東雲先輩は首を左右に振って「逆だ、エアバッグに触れたものが不壊になっているんじゃ無いかと思う」と言い放った。

「オレがさっきアップデートしたはさみには、対象の『強度を下げる』効果があったように、エアバッグは触れているものが()()()()()()()包み込んで護っているんじゃ無いかと思う」

「確かに、それなら、那美ちゃんのイメージにも近いかも知れませんけど……」

 私は東雲先輩の言うとおり、エアバッグが触れたものを護るために、壊れないよう尼する効果があるかも知れないとは思えるのだが、それが『エアバッグが壊れない』に繋がるとは思えない。

 けど、東雲先輩は表情を変えること無く自分の考えを口にした。

「壊れないように包み込む……包み込まれたものは壊れない……それをどうやって体現するか……」

 意味深な言葉の並べ方をした東雲先輩の発言が、私の中に小さなざわめきを巻き起こす。

「壊れないようにするには、あらゆるものから隔絶すれば良い」

 東雲先輩の発言で、小さなざわめきはうねりに変わった。

「包み込んで周囲から切り離す……すると、切り離された護るべきものは周りに影響を与えられなくなる」

 私はそこまで聞いた瞬間、戦慄で体が震えるのを感じる。

 そう、勘違いしていたことにようやく気が付いたのだ。

 エアバッグ自体がもの凄い防御性能を有しているのでは無く、触れたものが周りからの衝撃を始めとする干渉を受けないようにする。

 周囲から干渉を受けないということは、裏を返せば周囲に干渉しないということだ。

 だから、どれほどの切れ味があったとしても、エアバッグを切ることが出来ない。

 繋がってしまうとなんとも単純な図式だったけど、自分には考えつくことも無かったであろう考察に、私は心から深く感心した。

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