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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第拾弐章 構築新生
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拾弐之参拾漆 交代

 静まりかえった時間がしばらく続いた後で、東雲先輩がようやく口を開いた。

 恐らく私もだが、東雲先輩も絶句していたのだろう。

「何でも切れるようにと言うところまでは、予測の範疇だったが、時間とか、次元とかは想像すらしていなかったな」

 東雲先輩の呟きに完全同意な私は、深く頷いた。

 一方、那美ちゃんは無言のまま……というよりは少し顔色が悪いように見える。

「それで、そのイメージの出所は、志緒か、舞花か?」

 東雲先輩の質問に、那美ちゃんが驚いたように目を瞬きした。

「結花の可能性……いや、花子さんもあり得るか……」

 首を捻りながら自分の考えを声に出す東雲先輩に、那美ちゃんは「た、確かに、志緒ちゃんたちから教えて貰った、漫画やアニメの設定を思い出してイメージに込めたけど、わ、私が勝手にやったことだわ」と慌てて訴える。

 いつもののんびり口調が消えているあたり、皆のせいにしたくないという那美ちゃんの思いが伝わってくるようで、私は一人感動してしまった。

 突然、私に振り向いた那美ちゃんは「そういうことじゃないのぉ!」と少し涙目になってしまっている。

 恐らく、私の考えを読み取った上で、那美ちゃんの皆を思っての行動だという予測に対しての言葉なんだろうけど、否定されても、自覚が無いのか、照れ隠しのようにしか見えないので、返しに困ってしまった。

 すると那美ちゃんは、困り顔をして「私はエアバッグが切れなくて、迷惑を掛けてしまったから、その同じ事を繰り返さないように、もっと凄く切れるものをイメージしようとしただけで、確かにアイデアの元はしーちゃんやマイちゃん達からお添えあった漫画とかだけど、私、個人が勝手に考えたことで、気を遣ってるとか庇ってるとかじゃないの!」と徐々に早口になりながら、尻上がりに語気を強めて訴える。

 その様子や態度から、私はなんとなくだけど、那美ちゃんの内面が理解出来てしまった。

 簡単に言うと、那美ちゃんは『不安』なんだと思う。

 人の考えが読み取れる能力を持っているせいで、那美ちゃんは居ようにフォローも立ち回りも上手いのだ。

 だから、基本的に卒が無い。

 自分で言うのも何だけど、やらかしの多い私と違って、ほぼやらかさない那美ちゃんにとって、あのエアバッグは想像以上にダメージが大きかったようだ。

 やらかしたと自覚した時の精神的なダメージというのは、他の人にはわからないもので、那美ちゃんもそんな中で挽回しようとしたんだと思う。

 自分が出現させたエアバッグを上回ろうとした結果、とんでもないイメージにしてしまって、新たなやらかしをしてしまうという負のスパイラルに陥ってしまったのだ。

 私にも身に覚えがあるのでよくわかる。

 そして、私の考察は大正解だったようで、すぐそばにやってきた那美ちゃんが力のこもってパイ手でポコポコと私の腕を叩か始めた。

 不意打ちでやらかして訳がわからなくなるのは身に覚えがあるけど、第三者としてみると可愛いかもしれない。

 そんなことを考えると、少し腕を叩く手が強くなった。


「とりあえず……落ち着いたか?」

 那美ちゃんがポコポコと私の腕を叩く姿を傍観してくれていた東雲先輩が、その手が止まったのを見てそう尋ねてきた。

 私は本人の意思を確認するために、那美ちゃんに視線を向ける。

 うつむき加減の那美ちゃんは視線を上げずに「お、おちついたわ。待たせてごめんなさい」と口にした。

「わかった」

 東雲先輩はそう言ってから「凛花」と私の名前を呼ぶ。

「アップデートのイメージを送ってみたいんだが、試しても良いか?」

 想定していなかった質問に、少し間を開けてしまったものの、私は「あ、はい」と頷くことは出来た。

「那美、役割を交代してくれ」

「わかったわぁ」

 東雲先輩の頼みに、那美ちゃんは頷くが、先ほどのうつむき加減まで顔を戻すと底で止めてしまう。

 那美ちゃんは思ったよりも重症な様なので、話題を変えるために、見かねた東雲先輩は自分がアップデートのイメージを送ると言い出したのだと私は確信した。

 私は自分の体が子供になっているせいで、東雲先輩が同世代のように思えているけど、冷静に考えるとかなり年下の筈なので、この気配りは異常では無いかと気付く。

 ひょっとして、東雲先輩も、那美ちゃんのように本当は大人なのかもしれないと思い……いや、思い込んで、単純に自分よりも大人なだけじゃ無いかという考えに蓋をして押し込めることにした。

 そう考えた直後の、チラリと視線を上げた那美ちゃんの同情するような目に、かなり心を抉られたが、それも見なかったことにする。

 今の私は小学生、中学生の東雲先輩は年上のお兄さんと、胸の内で繰り返すと、視線を落としていた那美ちゃんが噴き出した。

 笑われたこと自体には、多少引っかかりを感じるけども、那美ちゃんが笑ってくれたことに、私は安堵する。

 気持ちが穏やかになったところで、私は東雲先輩にしっかりと体ごと向いた。

「それじゃあ、東雲先輩、アップデートの協力お願いします!」

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