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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第拾弐章 構築新生
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拾弐之参拾参 仕切り直し

 結局そのまま黙り込んでしまった私と奈美ちゃんに対して、東雲先輩が「なあ」と話しかけてきた。

「何ですか、東雲先輩?」

 私が視線を向けると、東雲先輩は「アップデートで、ハサミにエアバッグが切れるというイメージを上乗せしたらどうなんだ?」と尋ねてくる。

「一応、エアバッグを切れるはさみをイメージしましたけど……」

 私はそこまで口にして、口を噤んだ。

 折角、アイデアを出してくれた東雲先輩には悪いけど、改善出来ないのでは無いかと私は思っている。

 なので、続きを口にしなかったのだけど、那美ちゃんは「試してみても、いいんじゃないかしらぁ」と私の肩に触れながら言ってきた。

 次いで、東雲先輩も「凛花の負担で無ければ、試してみてくれるか?」と言う。

 二人に背中を押されたこともあって、受け入れても良かったのだけど、結果が出せない可能性が高いんじゃ無いかという予測が、頷きを躊躇わせた。

 そんな私の肩を、もう一度叩いた那美ちゃんが「次は私がイメージを送ったらどうかなぁ?」と言う。

 考えてもいなかった提案に、私の頭はすぐに検討方向に動き出した。

 そもそもエアバッグを生み出したイメージの出元は那美ちゃんで、少なくとも私の『切れる』イメージよりは勝っていたのだと思う。

 では、私ではなく、エアバッグのイメージを送り込んだ那美ちゃんが、このはさみが『切れる』とイメージすれば、精巧するんじゃないかと考えてみた。


「……やってみる価値はあるかも知れないですね……」

 私の呟きのような発言に、那美ちゃんは笑顔で「早速試しましょ~」と言ってくれた。

 それに答えて頷こうとしたところで、東雲先輩が「ちょっと待って貰って良いか?」と言う。

「なんですか?」

 私の問い掛けに対して、東雲先輩は「アップデートをする前に、オレも挑戦してみても良いか?」と口にしつつエアバッグを手に取った。

「一度、オレが試してみた後で、アップデートをして貰って、前後の切れ味を実感で比べてみたい」

 東雲先輩にそう言われた私が、那美ちゃんに確認の視線を向けると、すぐに「任せるわぁ」という答えが返ってくる。

「じゃあ、試してみてからにしましょう」

 私の結論に、那美ちゃんも東雲先輩も頷いた。

 それを観た私の心の中に、小さな悪戯心が芽生える。

 私はニッと笑みを深めて「でも、今の段階で東雲先輩なら切れちゃうかも知れませんね」と言ってみた。

 那美ちゃんと顔を見合わせた東雲先輩は、私に向き直って「花子さんが無理だった時点で結果は変わらないと思うが……」と底まで口にして押し黙る。

 その先に続く言葉が気になって、私は「なんですか?」と踏み込んでみた。

 すると、東雲先輩は真面目な顔で「使う人間によって切れ味が変わる可能性もあるのか」と言う。

「まーちゃんが震った時とぉ、花ちゃんが振るった時でぇ、刀の威力が変わるものねぇ」

 那美ちゃんの言葉に、東雲先輩は「オレの五剣は、一応オレ専用だからな」と苦笑を浮かべた。

 対して、那美ちゃんはニヤッと笑って「そのはさみもぉ、まーちゃん専用かもしれないわよぉ」と言い出す。

「何を言ってるんだ、お前は」

 呆れたように言う東雲先輩に、頷きながら私も続いた。

「この裁ちばさみを具現化する時に、東雲先輩専用なんてイメージはしてないですから、そんな訳ありませんよ、那美ちゃん!」

 私の発言に、那美ちゃんは「むぅ~」とつまらなさそうに唇を尖らせる。

 一方、東雲先輩は「だが、専用……みたいな機能の限定をしたら、威力や効力を上げることが出来る可能性もあるのか?」と腕組みをはじめてしまった。


「すまない、つい考え込んでしまった」

 頭を下げる東雲先輩に、私は軽く首を振って「いえ」と返した。

「さぁ、準備ができたなら、さっさと試し切りしてぇ」

 何か気に入らなかったものがあったらしい那美ちゃんは、若干ご機嫌斜めに見える。

 とはいえ、心底怒っているというよりは、不満を演じているといった感じなので、空気は大分緩くて穏やかだ。

 そんな那美ちゃんに笑みを見せた東雲先輩は、すぐに澄まし顔に表情を変えて「じゃあ、早速やるやるぞ」と宣言する。

 すると、那美ちゃんは、ちゃんと録画を開始して役目をバッチリ熟して見せた。

 一方の東雲先輩は、手に力を込める。

 腕にこもってる力がそれなりのものだとわかる程、東雲先輩の腕はプルプルと震え、顔が赤く変化していった。

 エアバッグと、裁ちばさみを手にした東雲先輩の戦いは、そのまましばらく続く。

 最後は大きな溜め息と供に、東雲先輩が大きく息を吐き出したことで終わりを迎えた。

 エアバッグ、裁ちばさみの順でテーブルに置いた東雲先輩は「残念ながら、オレ専用ではなかったらしい」と苦笑する。

 そんな東雲先輩の言葉に頷いた那美ちゃんが「後は私たちに任せてぇ」と胸を叩いた。

 一連のやりとりを見ているだけだった私の前に、那美ちゃんが立って両手を掴む。

 那美ちゃんは「じゃ~アップデートしましょ~」と言った後で、片手を離して東雲先輩に手を差し出した。

 東雲先輩は自分が手にしていた裁ちばさみを、差し出された那美ちゃんの掌の上に乗せる。

「任せた」

 手にした断ちばさみを胸元に当てながら那美ちゃんは、東雲先輩の言葉に「まかされたわぁ」と言って見せた。

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