拾弐之参拾弐 僅差
花ちゃんが雪子学校長によって強制退場することになり、元のさんに似戻った私たちは、今後の方針について話すことにした。
「さて、エアバッグの件、どうするか……」
東雲先輩の言葉に、私は「まず、私の具現化させた裁ちばさみの切れ味を確かめてみますか?」と提案してみる。
花ちゃんの試し切りではエアバッグに筋を付けるだけで終わった締まった者の、そもそも私のはさみの性能が高くないだけという可能性もあるので、前提として確認すべきだと思ったのだ。
そんな私の提案に、東雲先輩は「ああ、確かに、他のモノで試し切りしていなかったな」と頷く。
那美ちゃんとのホコタテ対決で盛り上がったので、勢いのまま本番に挑んでしまい、試し切りを飛ばしてしまっていたのだ。
「それじゃあ、試し切りをしてみる……で、いいですか?」
東雲先輩と奈美ちゃんを順に見て確認すると、二人とも頷いてくれる。
これで方針は決まったのだけど、私は何を切るかで詰まってしまった。
単に試し切りと言っても、廃材がそう簡単に出てくるわけでもない。
そんなことを考えていると、那美ちゃんが「これでいいんじゃないかしらぁ」と言い出した。
「あの、那美ちゃん」
「なにかしらぁ?」
笑顔で答える奈美ちゃんに、私は軽く表情が引きつるのを感じながら、一歩踏み込んだ。
「それははさみで切るもおじゃないと思うんですけど」
私が指さしたのは、那美ちゃんが手にする木の板である。
花ちゃんが残していったナイフを突き立てたあの板だ。
「でもぉ、これ廃材だしぃ?」
「そういうことじゃないです」
私の返しに、那美ちゃんは「ん?」と言いながら首を傾げる。
奈美ちゃんは確実にわかっているのだろうけど、東雲先輩にはどうかわからないので、一応、続きを口にした。
「普通、板ははさみで切るものじゃないですよね」
私の意見に対して、那美ちゃんはものすごく真面目な顔で「リンちゃんのハサミなら、切れるわぁ」と言いきる。
どこに根拠がと突っ込みたくなる断言だったけど、私を見る奈美ちゃんの目には、ものすごい期待が籠っているように見えた。
そんな目で見つめられた私に、否定する言葉を重ねられるわけもなく「た、試すだけ、試してみましょう」とできないだろうと思いながらも挑戦に承諾する。
やると決めた以上は、時間をかけても仕方ないので、早速裁ちばさみに手を伸ばした。
が、私が手にする前に、横から伸びてきた東雲先輩の手が裁ちばさみを掴む。
「東雲先輩?」
疑問を込めた私の呼びかけに、東雲先輩は「花子さんがてこずった以上、力がいる実験になる可能性が高い。オレに任せて置け」と笑んだ。
私がその笑みに、思わず目を奪われてしまっている間に、裁ちばさみを手にした東雲先輩は奈美ちゃんから木の板を受け取って、開けた刃と刃の間に押し込んでしまう。
「よし、力を入れてみる。那美、録画を頼む」
既に東雲先輩が何を口にするのかわかっていたのであろう那美ちゃんは「いつでもいいわよぉ」と返した。
東雲先輩は那美ちゃんに頷いてから「じゃあ、行くぞ」と口にする。
直後、スパッと軽やかな音がして、板はそのまま床に向かって落下した。
ハサミであっさりと板が切り落とされたのだと、脳が状況を理解するため、かなりの時間を要することになった。
それは東雲先輩や那美ちゃんも同様だったらしい。
ぎこちなく首を動かした私に気が付いて、那美ちゃん、東雲先輩の順で顔を突き合わせた。
だが、皆言葉が出てこない。
普通はあり得ないハサミで木の板を切り取るという出来事が、現実になったということにはそれほどの衝撃があったのだ。
「……もう、さすが以外に言葉がないな」
東雲先輩にそう言われてしまった私は那美ちゃんへ視線を向けて「で、でも、そんなハサミでも着れない那美ちゃんのエアバッグの方がすごいですよね」と矛先をずらしてみた。
「リンちゃん! エアバッグを出したのもぉ、リンちゃんなのよぉ!」
怒った様子の那美ちゃんが口を尖らせながら私を指さす。
私は「確かに具現化は私の能力だけど、エアバッグをイメージしたのは那美ちゃんだから」と強気に切り返した。
「でもぉ、私一人ではぁ、もう出現させられないけどぉ、もうリンちゃん一人でも出せるよねぇ」
那美ちゃんの指摘に、私は返す言葉を失ってしまう。
何しろ、那美ちゃんの指摘した通り、一度具現化したエアバッグは、那美ちゃんの力を借りなくても、時間とエネルギーを増やせばどうにか再現できるのだ。
それに対して、那美ちゃんの方はと言えば、確かに具現化の能力を持つ私がいなければ、再現することは出来ない。
完全に論破されてしまっている状況に、負けを認めるしかないかなと思った私と奈美ちゃんの間に入るように東雲先輩が「オレに言わせれば」と話し出した。
那美ちゃんと二人で東雲先輩に視線を向けると、その続きが言葉にされる。
「二人とも、ヤバイ……に、なるんだがな」
そう口にした東雲先輩は、床に落ちた綺麗に切断された木の板を拾いその断面を見せてきた。
「木の板をこんな風にできるハサミもそうだが、これで切れないエアバッグを作ったリンも、そのイメージを提供した那美もヤバイぞ」
東雲先輩の断言に、私は那美ちゃんに視線を向ける。
どっちがすごいのかを争っていたのに、二人ともと言われてしまうと、その議論自体が馬鹿らしくなって、私と奈美ちゃんは苦笑を交わしあうことになった。




