拾弐之参拾 謝罪
私達が見守る中、花ちゃんははさみを持つ手に徐々に力を入れていった。
ゆっくりとハト派の間隔が狭まり、いよいよ裁ちばさみがエアバッグを噛む。
が、そこからしばらく何の動きも起こらなかった。
花ちゃんは裁ちばさみに力を込めているようで、小さく刃先が揺れている。
が、エアバッグを噛んだ位置から進むことも無ければ、開かれた歯と歯の間が狭まる気配も無かった。
完全な膠着状態に突入したように見える。
同じことを考えたか、あるいは、私の考えを読んだのか、那美ちゃんが近づいてきて、どこか嬉しそうに「まさにホコタテだねぇ」と耳元で囁いた。
真剣に挑んでいる様子の花ちゃんの手前、余計なことを口に指摘を散らすのも良くないなと考えて、私は那美ちゃんに、返事の代わりに頷きで応える。
それからしばらく、刃先が進むこと無く、花ちゃんは力を込めるのを辞めて、ふぅと息を吐き出した。
花ちゃんが裁ちばさみを言ったんテーブルに置いたところで、那美ちゃんは「これはぁ、引き分けかしらぁ」と首を傾げた。
「うーーーん。判定が難しいけど、切れていない以上、那美ちゃんの勝ちなんじゃ無いかな?」
私ははさみの刃が進んでいない以上、エアバッグは切れていないのだから、と理由を頭で思い浮かべつつ、那美ちゃんにそう答える。
すると、何故か那美さんが突然慌てて、エアバッグの確認を始めた。
何をしているんだろうと思って見ていると、振り替えた那美ちゃんはエアバッグを指さしながら「ここ、ここを見て! ね、線が付いてる!」という主張を始める。
那美ちゃんの必死なアピールに、その指さすところを見てみると、確かにへこむというか筋が出来ていた。
「ね? これは時間の問題でしょう?」
私は「うーーーん」と唸りつつ、少し考えてみたが、私よりも答えるのにふさわしい人がいることに気が付く。
休憩中の所悪いなと思いつつ、私は花ちゃんに「どうですか? 時間の問題かな、花ちゃん?」と尋ねてみた。
花ちゃんは目を閉じて少し間を開けてから、ゆっくりと目を開けて、私と那美ちゃんを順番に見る。
「多分……ですけど、全力で力を込めれば、刃が進みそうな感覚はありました……けど、同時にどれだけ力を進めても、切れない予感もあります」
戸惑いながら言う花ちゃんの雰囲気から察するに、彼女自身も状況が上手く飲み込めていないようだ。
花ちゃんは真剣な表情で「正直、どっちの可能性も感じたので、このまま力を込め続けるのは逆に危険かと思って中断したんです」と続ける。
「なるほど」
私は説明された経緯に納得して頷いたのだが、ここで那美ちゃんが意外なことを言い出した。
「大丈夫! 花ちゃんなら切れるよ!」
確信を持った発言と言うよりは、どこか思い込もうとしているような危なっかしさの感じる言葉に、私は疑問を感じる。
そんな私よりも強く疑問を抱いたのは東雲先輩だった。
「どうした、那美。無理に進めるのは危険だと俺は思うが」
東雲先輩の言葉に、那美ちゃんは「うっ」と言葉を詰まらせる。
那美ちゃんは底から目を泳がせるが、東雲先輩はジッと見詰めたまま視線を逸らさなかった。
正直、東雲先輩のこういう所は怖いと思う。
真面目が故に逃げを許してくれずに、無言で追い詰めてくるのだ。
負い目が無くても、この無言の圧力を跳ね返すのは簡単じゃないので、那美ちゃんの焦りはかなり強まっていると思う。
そうしてしばらく東雲先輩問い見つめ合った後で、那美ちゃんは「はぁ」と溜め息を吐き出した。
目を閉じてどこか投げやりな口調で那美ちゃんは「リンちゃんに勝たせてあげたかったのぉ!」と唇を尖らせる。
想定していなかった那美ちゃんの言葉に、私は「えっ!?」と思わず声が出た。
その声に反応して那美ちゃんがこちらに振り返る。
「だって、ただのエアバッグのつもりだったのに、リンちゃんのはさみよりも強いなんて申し訳ないわ!」
那美ちゃんの言葉に、私は思わず噴き出してしまった。
「もぅ! なぁに!」
真剣に言ってくれていたのに対して笑ってしまったのは申し訳ないけど、私は敢えて考えらままを言葉にする。
「だって、直前まで勝負って言っていたのは那美ちゃんだったのに、私に勝ったことを気にするなんて……」
ぷくっと頬を膨らませた那美ちゃんが続きを求めるように「するなんて、何?」と聞いてきた。
いろいろ後方は浮かんだものの、私は一番良いかなって言う理由で「優しいなって思いました」と答える。
すると、那美ちゃんは大きな溜め息を吐き出した。
「え、何故溜め息?」
私がそう疑問を声に出すと、那美ちゃんは苦笑して見せてからいつも通りの口調で話し出す。
「これでもぉ、気を遣ったのよぉ」
「それは、わかります」
那美ちゃんの言葉に同意するために頷くと、またも溜め息を吐き出されてしまった。
「リンちゃんのようなイメージの影響を受ける能力はぁ、メンタルの影響を受けるからぁ、常に勝っていてほしかったのよぉ」
「ああ、なるほど、メンタル!」
ポンと手を叩くと、私を見る那美ちゃんには「底は気付いていないのねぇ……鋭いんだかぁ、にぶいんだかぁ」と呆れられてしまう。
なんだか、申し訳ないような気持ちになりながら、私も苦笑で答えた。
「和これが私なので、申し訳ないです……その、心配を無駄にしてしまって……」




