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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第拾弐章 構築新生
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拾弐之弐拾玖 矛盾

「このエアバッグを切れる刃物ですか……」

 花ちゃんに言われたままを返すと、その提案者本人から「ちょっと待って」とストップを掛けられた。

 そこから少し考えた花ちゃんは「はさみ、はさみにしましょう」と具体的な名称を出す。

 花ちゃんの辿った思考の流れを想定出来ず、首を傾げながら「いいですけど」と返した私に、那美ちゃんが『はさみ』に限定した理由を教えてくれた。

「花ちゃんはぁ、ただはものって言っただけだと、リンちゃんが、とんでもない危険物を生み出すんじゃ無いかとぉ、考えたのよぉ」

 なんとなく思考の流れはそれでわかったんだけど、途中で出てきたワードが気になって、私は「とんでもない危険物?」と聞き返す。

 そんな私に答えたのは那美ちゃんでは無く、花ちゃん本人だった。

「リンちゃんが、このエアバッグを切れる刃物を出現させるとした場合に、多分ですが、私のこのナイフよりも更に切れ味の鋭いものを具現化しようとしますよね?」

 花ちゃんは先ほどから実験に使っているナイフを掌の上に乗せて、軽く首を傾げる。

 確かに、具現化するとしたらそう考えるだろうなと、私は頷きながら「そうですね」と答えた。

 すると花ちゃんは「そうですよね」と頷いてから、くるりと手の上でナイフを回転させる。

「実際にどうなるかはわかりませんけど、私のもつナイフ以上の切れ味のものというと、石や金属すらバターのように斬り裂く次元の物体になる可能性があります」

「えっ!?」

 思わず驚きで声が飛び出した。

 そんな私に、落ち着いた声で、東雲先輩が「凛花は刃物に詳しくないかもしれないが……さっきの木の板を簡単に貫通する時点で、花子さんのナイフは異常と言って良いレベルの切れ味なんだ」と言う。

 そう言われて、確かに片手で握れるナイフで、かなり花ちゃんが力を込めていたとしても、それなりの厚みのある板を貫通してしまうこと自体が普通じゃ無いことに、私はようやく気が付いた。

「異常というのは少し頷きがたいですけど、確かにこれ以上となると、石でも金属でも軽く切れてしまうでしょうね」

 少し不服そうに言う花ちゃんだが、東雲先輩の言葉を否定する気配は全くない。

 つまり、二人の見解としては、私がエアバッグを切れる刃物を想像すると、それはまさに岩や金属すら簡単に切断出来る超次元の物体になると想定しているのだ。

 いくら何でも大袈裟すぎないだろうかと、少し冷静になった私は考えたのだが、ここで那美ちゃんが「矛盾という事ねぇ」と突如言い出す。

 多少大袈裟かなとは思ったものの、話の流れにはおかしな所は無かった気がしたので、戸惑いの気持ちで「矛盾ですか?」と那美ちゃんに聞き返した。

 すると、那美ちゃんは「私のぉ、生み出した最強の盾にぃ、リンちゃんが最強の鉾を生み出してぇ、挑むってワケよぉ」と言う。

「あ、なるほど、故事の方に当てはめたんですか」

 ポンと手を叩くと、那美ちゃんは満足そうに頷いてくれた。


「これが最強のはさみ……ですか……」

 私の出現させた大きな裁ちばさみを手にして、花ちゃんはその歯の部分を真剣に見詰めていた。

 東雲先輩が「具現化出来るもんなんだなぁ」としみじみと言うので、私は軽く首を振る。

「一応、出現させることには成功しましたけど、本当にエアバッグを切れるかは試さないとわかりませんよ」

 私の発言に対して、那美ちゃんが「リンちゃんと私のぉ、ほこたて対決ねぇ」と嬉しそうに笑みを浮かべた。

 もの凄くやる気を出している那美ちゃんに乗ることにして、私も「負けませんよ」と返す。

 そうして、二人で視線を交わした合った私たちは、度力とも無く噴き出した。


 私がエアバッグに対抗するために選んだのは、布を切るのに使う裁ちばさみという、はさみに分類されるものの中では比較的大きいものだ。

 一応、エアバッグに挑むものを具現化する前に、一般的な文具のはさみを試したのだけど、切ることが出来なかっただけでなく、力任せに使ったらエアバッグの生地を噛んで、はさみの刃が少し歪んでしまったのである。

 花ちゃんから『はさみ』で具現化するようにと言われていたのだけど、それを見た時に普通の文房具サイズのはさみではダメだと私は思った。

 では、どんなはさみなら良いだろうかと、周囲を見渡した私の目に、窓から覗く緑が目に入って、最初は木の剪定に使う園芸や剪定用のはさみが浮かぶ。

 とはいえ、植物用のはさみでは難しいんじゃ無いかという考えも浮かんできて、私は他を当たることにした。

 その時、エアバッグに使われた素材が、未知のものだとしても、生地を組み合わせて作り出されているのには変わらないと閃く。

 そこからは早かった。

 生地を切るものと言えば『裁ちばさみ』だと、連想したのである。

 家庭科の裁縫で用いられる布の裁断に使われる『裁ちばさみ』ならば、エアバッグに挑めるんじゃないかと考えた私は、すぐにその事を花ちゃん達に伝えた。

 皆の承諾を受けて、すぐに具現化に挑んだ結果、思いの外スムーズに具現化に成功したのが、今花ちゃんの手に握られている品である。

「それじゃあ、試してみますね?」

 確認を終えた花ちゃんがそう口にして、広げたはさみの刃の間に、エアバッグを入れた。

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