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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第拾弐章 構築新生
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拾弐之弐拾捌 断言

「改めて思いましたが、凛花ちゃんの出現させるものは、本当にとんでもないですね」

 花ちゃんはそう言いながら、何度もエアバッグにナイフを振り下ろすが、その切っ先は刺さるどころか、傷を残すことすら出来なかった。

 そんなことするわけないだろうけど、おもちゃを使って揶揄っているんじゃ無いかと思う程、完璧に傷を残すこと無くエアバッグは銀に鈍く輝く刃を受け止め続けている。

 私のそんな些細な疑いに気が付いたのか、花ちゃんは「見ていてください」と口にすると、厚い木の板をこれまたどこかから取り出して、そこへ手にしたナイフを振り下ろした。

 トンという小さな接触音だけ残して、刺さったとは思えない程滑らかな動きで、スルリとナイフは板に突き刺さる。 

 いや、単純に表現するとそれは、突き刺さるでは無く水か何か抵抗のないものに入り込むように私には見えた。

 信じられない光景に言葉を失っていると、花ちゃんは「切れ味が落ちているとかではないようですね」と言いながら、ナイフが貫通したままの板を持ち上げて、表、裏、側面とクルクルと回転させながら呟く。

 しばらく確認をした後で、手を止めた花ちゃんは、板に刺さったナイフの柄を握って板から引き抜いた。

 ナイフが刺さっていた板を「ちゃんと貫通していますよね?」と言いながら、花ちゃんは私に差し出す。

 おっかなびっくりナイフの刺さっていた辺りを見てみると、ナイフの後は細長いものの、貫通したことを示すように向こう側から光が漏れていた。

 私が見た感想として「確かに、貫通してるみたいですね」と口にすると、花ちゃんは頷いてから今は黒いクッションのようになったエアバッグに視線を向ける。

「つまり、ナイフでも傷が付かないとんでもない素材tyてことです、凛花ちゃんと那美ちゃんが出現させたものは……」

 溜め息交じりに花ちゃんにそう言われた私は、思わず那美ちゃんに視線を向けた。

 私の視線に気が付いた那美ちゃんは平然と「この素材でぇ、防具を作ったらぁ、防御力が爆上がりねぇ」と言い放つ。

 まったく、想定していなかった考えに、最初こそ驚いたが、時間がたつうちにその考えの素晴らしさに気が付いた。

「そっか、そうだね。派が通らないんだもんね、スゴイ素材って事だよね!」

 那美ちゃんに同意する声は、自分でもわかる程弾んでいて、その手を取って、今にでも小躍りかジャンプでもしてしまいそうなほど、興奮してしまっている。

 自分一人では生み出せなかったものが、こんな簡単に生み出せてしまったことへの驚きもさることながら、協力して生み出せたことが何より嬉しかった。

 皆に遊んで貰っている『アイガル』のゲームが、神世界から力を引き出して弱めているという考察は、正直、実感に乏しかったので、この目に見える形で、しかも将来像も容易に描ける品物というのは、自分の能力を誇れると思うには十分な成果だと思う。

 皆オシャレとか興味があるみたいだから不評だろうけど、全身をエアバッグの素材で包む全身タイ……ウェットスーツのようなものが生み出せれば、確実に神世界での案脆性は高まるに違いないのだ。

 私のやる気もうなぎ登りである。

 そんなかなりの興奮状態になった私を見て、那美ちゃんがクスリと笑った。

 いつもなら気恥ずかしくなってしまうだろうけど、やる気に満たされた私は臆すること無く「どうしたの、那美ちゃん?」と理由を直接聞ける程の心の余裕がある。

「正直ぃ、機械に詳しい分けでもぉ、あっちの世界をたくさん知っているわけでもぉ、発想が豊かなわけでもぉ、リンちゃんみたいに何かを生み出せるわけでもない私がぁ、リンちゃんのやる気を引き出せたことが少しおかしくってぇ」

 那美ちゃんはそう言いながらニッと口角を上げた。

 それなのに、那美ちゃんの笑顔は輝きを増したはずなのに、私には、どこか泣き顔を見せられているような心を締め付ける表情に見える。

 気のせいと呼ぶには大きく引っかかる印象に、私はまず花観ちゃんの言葉を否定する事から始めることにした。

「那美ちゃんが何にも出来ないわけ無いよ! 確かに、それぞれの分野では那美ちゃんよりスゴイ人がこの学校に入るけど、でも、那美ちゃんにしか出来ない凄いことがあるじゃ無い!」

 そう言いながら思い浮かべるのは、那美ちゃんの人の気持ちを察する能力である。

 私自身言葉に詰まったり、表現力に難があるので、正直かな林頼ることになってしまっているので、この一点だけでも那美ちゃんは特別だし凄いと思っていた。

 でも、私はそれだけじゃダメなんだろうとも思う。

 人の気持ちを察するのはとても便利で有能な能力だけど、きっと私の数々の能力と同じで、生まれつき持っていたか、神世界に入ることで手にしたモノで、那美ちゃんの中では、自分が行動を起こして獲得した能力だと思っていないから、誇れないのだ。

 那美ちゃんが私の想像通りの思考をしている保証は無いけど、そうだとしたら、私の言うべきことは決まってくる。

「那美ちゃんの想像力が、刃物も通さないスゴイ素材を生み出したんだよ!」

 真っ直ぐと那美ちゃんの目を見て私ははっきりと断言した。

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