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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第拾弐章 構築新生
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拾弐之弐拾伍 検査

 リンク用のヘルメットを外したところで、東雲先輩に「お疲れ様」と声を掛けられた。

「少し緊張しました。飛び降りるの」

 私が少し冗談ぽくそう言ってみると、東雲先輩は軽く笑みを浮かべて「頑張ったな」と労ってくれる。

 それだけのことなのに、頬が急に熱くなった。

 私はそれを東雲先輩に見られるのがなんだか恥ずかしくて、慌てて話題を探すために周囲を見渡す。

 そこで、この場にいるはずの花ちゃんがいないことに気が付いた。

「あれ? 花ちゃんは?」

「ん? 花子さんなら、那美の方に」

 東雲先輩はそう言いながら視線を那美ちゃんがいる実験場の方へ向けると、確かに花ちゃんがそこにいるのが見える。

 二人で何をしているんだろと思いながら立ち上がった私は、早速歩み寄ることにした。


「どう? どうなの、那美ちゃん?」

「見た限りではぁ、おかしいところはなさそうだよぉ」

 ワイワイと盛り上がる二人に歩み寄りながら、何をしているのかを目にした私は言葉を失った。

 那美ちゃんの手に乗った『ウーノ』を、二人でいろんなアングルからのぞき込んでいるのである。

 水着が乾いたことと怪我をしてもすぐわかるようにと『ウーノ』が身に付けているのは水着なのだ。

 二人にいろんな角度からチェックされているのが、私ではないとわかっていても、日が出る程恥ずかしい。

 とはいえ、掌の上に乗った『ウーノ』を360度の各方向から見回すところまではどうにか我慢出来た。

 羞恥の限界を突破したのは、突然頷き合った二人が『ウーノ』の体を掌の上で倒した後のことである。

 正座の状態から足先だけを開きお尻を落とした状態で座っていたということは、背中を下にして横に寝かせられると、お尻というかまたが丸見えになってしまうのだ。

 それに気が付いた瞬間、頭が真っ白になって、何をどう動いたのかの記憶が底からしばらく飛び去る。

 気がついた時には、私は『ウーノ』を二人の手から強奪した後だった。


「なぁにぃ、リンちゃん?」

「どうしましたか、凛花ちゃん?」

 我に返った私の耳に那美ちゃんと花ちゃんの質問が飛んできた。

 手の中の『ウーノ』を見ながら、私は二人を見ずに「『ウーノ』に異常が無いかは、私が確認します!」と断言する。

「リンちゃんはリンクして大ジャンプして疲れているだろうからぁ、私たちに任せてぇ」

 そう言いながら那美ちゃんは私に向かって両手を伸ばした。

「そうそう、私たち、検証は得意だから! 人形の取り扱いにも慣れているしね!」

 花ちゃんもそう言いながら、私の手を差し出す。

 二人から伸ばされた手を前に、私はどう対応するのが正解かわからず、困っていると、東雲先輩が近づいてきて声を掛けてくれた。

「『ウーノ』は凛花が確認するといっているんだから、二人はエアバッグの方を調べたら良い」

「東雲先輩!」

 スパッと言い切った東雲先輩の頼もしさに胸が弾む。

「二人とも、わかっていてやってるとは思うが『ウーノ』は、凛花を元にした人形だ。他人が確認作業をするよりも、本人が確認した方が良いだろう」

 東雲先輩のわかってくれている発言に、私は思わず何度も頷いてしまった。


「別にぃ、リンちゃんを苛めたいわけじゃないしぃ。もちろん譲るわぁ」

「そうねぇ」

 那美ちゃんの意見にすぐに同意した花ちゃんは、あっさりと踵を返して羽毛布団の上に広がったままのエアバッグを見に行ってしまった。

 取り残された私に、東雲先輩が視線を向けてくる。

 それだけで、心臓が強く鼓動した。

「凛花」

「はっはいっ」

 意図せず声が上擦ってしまった事が恥ずかしい。

 とはいえ、どうにか目を逸らさずに、東雲先輩を見続けることは出来た。

 そんな私に東雲先輩は「二人は凛花の反応を見て遊んでるんだ。嫌なら嫌でちゃんと言った方が良いぞ」と苦笑する。

 私はそんな東雲先輩の言葉にどう返そうかと迷ってしまった。

 恥ずかしい……けど、嫌かというと、そうでもない。

 はっきりしない感情に、頷いて良いのか、それとも大丈夫だと言った方が良いのか、結論を上手く選ぶことが出来なかった。

 すると東雲先輩は「別に、凛花が嫌じゃ無いなら、拒否する必要は無い……ともかく、凛華が嫌だなって思わなければそれでいい」と口にしながら背を向ける。

 私は自然と、そんな東雲先輩の背中に「ありがとうございます」と感謝の言葉を掛けていた。

 東雲先輩は私に背を向けたままで、元のパソコンのある席に戻ろうと歩きながら「じゃあ、担当は交代になったので、傷や損傷が無いか確認してくれ」と口にする。

 私は振り向いてくれないことがもどかしいような、顔を見ずに済んでいることにホッとしたような、なんとも言いがたい気持ちで「任せてください」と胸を叩いた。

 そんな私を、手にした水着姿の『ウーノ』が笑ってる気がして、頬が火照ってくる。

 気を紛らわせるためにも、甲大雨になった役割をマットするためにも、私は『ウーノ』の各部を調べることにした。

 が、開始数秒で、後悔に出くわす。

 いくら検証のためとはいえ、水着姿の人形、それも『ウーノ』という自分そっくりの人形を、自分で調べるのは、もの凄く羞恥心をかきたてるものだったのだ。

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