拾弐之弐拾参 真相と次策
「うん。大丈夫そうねぇ。必要なエネルギーはちょっとは増えたかもしれないけどぉ、具現化出来なくなったわけじゃ無いみたいねぇ」
柔らかな口調で、那美ちゃんはそう言うと笑った。
それだけで、私の中に生まれた不安な気持ちが解けていくのがわかる。
なんだかとってもくすぐったい気持ちが湧いてきたので、それを誤魔化すためにも、少し大袈裟に胸を撫で下ろすジェスチャーをしてみせた。
「安心しました。確かに、具現化出来れば、大丈夫ですよね?」
私の質問に、那美ちゃんはうんうんと頷きながら「そういうことねぇ」と言ってくれる。
それだけで安心感が増してきたのだけど、そのタイミングで那美ちゃんは口を私の耳に寄せて「ちなみにぃ、私もぉ、よくわかってないんだけどぉ、校舎からこの校庭の端までぇ、結構距離があるのにぃ、電波が届いてるしぃ、反応が早いことが吃驚みたいよぉ」と花ちゃんと東雲先輩の話の内容まで教えてくれた。
「なるほど……電波の届く距離が長いんですね」
二人がその事を私に伏せたのは、きっと、私が真実というか、実際の電波の届く距離を把握すると、届く距離が短くなるからだと思う。
本当は『これくらい』しか届かないというのを聞いてしまったら、確実に私の中の常識が上書きされて、それまでの長い距離を出すのが難しくなるに違いないと、自分でも同意出来る内容だった。
「それで、さっきの話なんですけど……」
私がそう切り出すと、那美ちゃんは「次のステップの話ねぇ」と頷いた。
那美ちゃんに頷きつつ、私は「やっぱり、現状のコンクリートと金属で出来た体験施設の形から、とりあえず、何も無い開けたところに変えたいと思うんですよ」と伝える。
そんな私の考えに対して、那美ちゃんでは無く、体験施設の確認を終えて、東雲先輩とこちらに戻ってきた花ちゃんが「何も無い平原のフィールドは、あまり記録が無いですよ?」と教えてくれた。
私は花ちゃんに視線を向けて「まずは、何も無いところで試してから、木々だったり、建物だったりを追加していった方が良いかなと思って」と構想を伝える。
「なるほど、順序立てて少しずつ進めるんですね」
花ちゃんは柔らかな笑みを浮かべて「慎重なのはとてもいいと思います」と頷いてくれた。
そんな花ちゃんの反応から感じる後押ししてくれてるという心強さで、私は更に自分の考えを口にしていく。
「人形とはいえ、安全策は必要だと思うんですよ」
私はそこまで口にしてから視線を那美ちゃんに向けた。
「那美ちゃんの生み出してくれた、吸い付ける気体とエアバッグがあれば、そこは解決するんじゃ無いかなって思って」
「確かにな」
私の意見に同調してくれた東雲先輩は、更に「ただ、エアバッグの方はテスト出来てないから、そっちを一度試してからの方が良いかもな」と助言してくれる。
そんな東雲先輩の発言に、頬に人差し指を当てた那美ちゃんが「そうねぇ、『ウーノ』ちゃん、バランス崩さなかったしぃ、実験出来てないわねぇ」と頷いた。
「じゃあ、エアバック実験用の施設を具現化しますか?」
ゴーサインが出たらすぐにでも具現化してみるつもりで話を振ると、花ちゃんが「待って、リンちゃん」とストップを掛けてくる。
私が視線を向けると、花ちゃんは「エアバッグを試すだけなら、普通に高いところから落としてみればどうかしら」と言い放った。
私は花ちゃんの発言から、校舎の屋上から突き落とされるイメージを浮かべてしまい、すぐに「高い所から……ですか?」と聞き返す。
花ちゃんは頷きながら「人形の体なら、柔らかなお布団をクッションにすれば、エアバッグのテストは問題なく出来るんじゃないかしら?」と返してきた。
私はそこで浮かべていたイメージの差に気が付いて、声が震えないように気をつけながら「たしかに、施設を作る必要は無いかも知れませんね」と頷く。
平然を装っているものの、心中は今にも逃げ出したい程恥ずかくて、助けを求めてチラリと那美ちゃんを見た。
が、恐らく私の心中がダダ漏れであろう那美ちゃんは、花ちゃんの後ろで俯いたまま小刻みに肩を震わせている。
助け船を求めようと視線を向けた那美ちゃんに、声を殺して笑われているという事実が、より一層私の羞恥心を膨れ上がらせた。
羞恥心に飲まれて、次の行動も思い付かない程、追い詰められてしまったところで、東雲先輩が「施設を作り出せるかを試す価値はあると思うが、乱立した場合、凛花にかかる負担が、やはり気にかかるからな。オレは花子さんの言うとおり、布団で試してみるのが良いと思う」と意見を口にしてくれる。
東雲先輩が私の様子を見て助け船を出してくれたのか、それともたまたまかはわからないけど、まともでしっかりとした意見を口にしてくれたことで、花ちゃんが「凛花さんの能力には、未知の部分の方が多いですから、無闇に施設を乱立するのは避けた方が良いと思います」と答える形で、会話が再開した。
「確かに、凛花が試したいって言う気持ちを優先しましたけど、ブレーキは周りが踏んだ方が良いですね」
東雲先輩の聞き捨てならない発言に対して、花ちゃんは「その通りね」とあっさり同意する。
私が信用の無さに呆然としていると、口元を抑えた那美ちゃんが、優しく私の肩を叩いた。




