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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第壱章 教師赴任
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壱之参 花子の案内

「この学舎の中は土足禁止なので、こちらの下駄箱で靴を履き替えてくださいね」

 花子さんはそう言うと、玄関の壁の下駄箱を指し示した後で、来客用のスリッパを並べて僕の前に置いてくれた。

 僕は下駄箱に靴を収め、スリッパを履きながら、事前に貰っていた資料にあった『上履き』で問題ないか確認する。

「上履きで、いいですかね?」

「ええ、土足でなければ大丈夫です」

「わかりました」

 室内履きとして使える靴とあったので、体育館履きを想定した靴を用意していたが、室内履き用にスリッパに近い楽な物も必要かなと、頭にメモをするついでに、花子さんに尋ねた。

「寮があるって聞いたんですけど……」

「ええ、この建物が職員寮を兼ねています」

「そうなんですね」

 ここに来る前に寮があることは確認していたとはいえ、関係者の人から直接面と向かって聞くと安心感がまるで違う。

 別段、寮の用意がされていないんじゃないかと疑ったわけでは無いが、小市民の僕としては保証されると、やっぱり安堵してしまうのだ。

 僕がそんなことを考えていると、先を歩く花子さんがピタリと足を止めて、窓の方を指さす。

「この建物には食堂や寮、応接室などが入っていて、先生が教鞭を執られる学校の方が、渡り廊下で繋がっていて、別棟にあたるんですよ」

「なるほど」

 花子さんが指した先には、僕らのいる建物よりも高い場所に、一般的な和風の木造校舎が建っていて、言葉通り、渡り廊下が繋がっていた。

 山奥だからか、洋風の建物と和風の校舎を繋ぐ渡り廊下は、しっかりと木の壁や窓が備え付けられている。

 当然、その渡り廊下に興味を惹かれはしたものの、今の僕の一番の注目点は、洋風と和風の建物が混在しているチグハグさと、その理由についてだ。

 好奇心を抑えきれず、その事について聞いてみようと、花子さんに声を掛けようとしたところで、逆に声を掛けられてしまった。

「最初に校長先生にお会いください」

「え、あ、はい」

 僕が返事をした直後には、花子さんは振り返って、スタスタと歩き出してしまう。

 切り出すタイミングを逃してしまった僕だが、好奇心はうずくものの、早急に知らないといけない内容でも無いので、先の楽しみにした。

 それよりも、校長先生が、どんな人かという方に意識が向く。

 と、同時に初対面であることを思いだして、僕は妙に緊張し始めてしまった。


 花子さんは明らかに作りの違う重厚な扉の前で足を止めると、振り返って「林田先生、こちらです」と扉を手で指し示した。

 頷きつつ、扉の上に掲示された黒い長方形の板に、白い文字で書かれた『学校長室』の4文字を確認した僕は、目を閉じて気持ちを整える。

 すると、花子さんのクスリという笑い声が聞こえてきた。

 正直気恥ずかしかったので、僕は反射的に、花子さんに恨みがましい視線を向けてしまう。

「ごめんなさい、林田先生、でも、そんなに心配されなくても大丈夫だと思いますよ」

 眉を寄せて申し訳なさそうに言う花子さんに、僕は別に怒ってないですよと苦笑を浮かべて左右に首を振って見せてから「大丈夫……ですか?」と言葉の真意を問うた。

 花子さんは「はい」と大きく頷いたものの、意図はまったくわからない。

 どうしたものかと、僕が考え始めたところで、花子さんは叉クスリと笑ってから、今度はしっかりと答えてくれた。

「学校長は私の姉ですから、そんなに怖くは無いですよ」

 僕はそう言われても、最初、上手く理解出来ずに、瞬きを繰り返してしまう。

 何しろ、花子さんは装いこそ少し前の時代の人だが、見た目は僕と変わらない二十代前半くらいに見えるのだ。

 その姉となれば、三十代か、年が離れていても、四十代……一般的な姉妹なら、二十代後半でもおかしくない。

 法律上は最短でも五年以上教育に関わる職に就いているのが条件だ。

 取得した教員免許によっては十年以上必要になるし、法律で定められているので公立だろうが私立だろうが、この条件を見たなさいといけない。

 と、すれば、ギリギリあり得るワケだけど、一般的にそんな若くして校長の職に就くケースはとてつもなく希だ。

 まあ、この山奥の学校なら、あり得るのかも知れない。

 教授も教師のなり手がいないと言っていたし、ここまでの道中に、コンビニやスーパーはもちろん、小売商店すらほぼ無いという事実、村が経費の多くを負担するという優遇振りを重ね合わせると、急にあり得そうな気がしてきた。

 どちらにしても、花子さんは可愛らしい感じの人だし、そのお姉さんなのだから、同じような雰囲気かも知れない。

 初めての教職なら、やはり優しい上司がありがたいので、僕は素直に受け止めることにしようと心に決めた。

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