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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第拾弐章 構築新生
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拾弐之拾伍 暴風体験

 最初は試験運転もあるから大したことは無いだろうと思っていたのだが、体を落として頭を風の拭いてくる方、送風機側に突き出さないと耐えられそうに無い状態に陥っていた。

 ちょっとでも頭を上げると、レインコートのフードが吹き飛びそうになるので、顔を上げることも難しい。

 それでもどうにか腰を落として重心を下げながら耐えているのだが、レインコートが風圧をもろに受けて各所に影響が出てしまっていた。

 まず、腕はバタバタと音を立てながら袖口が暴れ回り、徐々に徐々にめくり上がってきて、制服のブレザーとブラウスが露出してしまう。

 幸いにも、未だ水と言うか、雨の方は体験している状態ではないのだが、びしょびしょになる未来が見えるので、更に服装は改める必要がありそうだ。

 一方、足下の方は腕周りに比べるとそれほど大きな問題は無い様に思える。

 とはいえ、風圧を受け止めているのがレインコートとスカートなので、びっちりと脚に纏わり付く形で固定されてしまっていて、真空パックされた食品を思い出す様な状況だ。

 それだけなら良いのだが、レインコートとスカートの組み合わせだからか、凧のように風を受けて、時折、体が浮きそうになっている。

 これもズボンに改めた方が良いかもしれないと単純に思った。

 まあ、それらよりも厄介かも知れないのは、無駄に大きい胸である。

 これ自体は『コリンちゃん』では無く『ウーノ』で体験すれば済む話だが、感じた問題点はちゃんと報告した方が良いはずだ。

 感じた中でも一番問題だと思うのは、腕を真っ直ぐに伸ばして手すりを掴む障害になるという点である。

 胸が邪魔なせいで手すりを腕を伸ばして掴もうとすると、手と手の間隔が開くことになり、手と手の間隔を狭めようとすると肘を曲げるせいで、肘に負荷が掛かるのだ。

 流石にこれをこのまま東雲先輩に記録して貰うのは、ちょっと申し訳ないので、自分で記録しようと思う。

 そんなことを考えてるうちに、徐々に風が弱まり始めた。

 風がほぼ収まると、インカムを通して東雲先輩の声が聞こえてくる。

『風の体験は以上だ、感想を聞かせて欲しい』

 インカムのマイクに向かって「了解です。一旦リンクを解除しますね」と返した私は、そのままリンクを解除した。


「ええ~~『ウーノ』ちゃんに交代しちゃうのぉ?」

 もの凄く残念そうに言う那美ちゃんに、私は素直に大きすぎる胸に問題があると伝えた。

「おっぱいじゃおもりになら無いのね」

 肩を落とす那美ちゃんに、私は「胸の重さで体が浮くのを阻止出来ていた部分もあったかも知れないですけど、しっかりと手すりを握れない方が不安です」と返す。

 実際の所、おもりとしての役目はあるかも知れないけど、何かの暴走でより風が吹いた時に、手すりにしがみつくのに確実にあの体積は邪魔になるのだ。

 そんな事態が起こる可能性はほぼないので、考えすぎかも知れないけど、それでもいざという時にしがみつく選択肢をとるのに問題が起きそうな部位は極力遠ざけたいのが、人間の心理というモノだと思う。

 まあ、そもそも『ウーノ』は私のコピーと言っても良いので、リンクしても違和感が無く、実験に集中出来る点も精神的には有利なのだ。

 そんなことをつらつら考えていると、那美ちゃんは「リンちゃんの安全とかぁ、気持ちの負担が減るならぁ、仕方ないわねぇ」と溜め息を零す。

 心の中を覗かれるのも慣れてくると、いちいち説明しなくても伝わるのが便利かなと思えてきた。

 実際、説明の難しい状況はあり得るし、那美ちゃんに何度も助け船を出して貰ってもいるので、その有用性が身に染みてきたんだと思う。

 とはいえ、辿りすぎると私の表現力とかがポンコツになりかねないので、諸刃の剣かも知れないとも思った。

 そんな私の考えに対する那美ちゃんの答えは「ポンコツリンちゃんになってもぉ、ちゃぁんと、支えてあげるわよぉ」である。

 これは気持ちを引き締めて、なるべく頼れないようにしなければと、決意するには十分な怖さがあった。


「えぇ~~~ズボンにしちゃうのぉ~~」

 教室から改めて連れてきた『ウーノ』に、ズボンタイプの雨具を着せると告げたところで、那美ちゃんが不満の声を上げた。

「風を体験してわかったんですけど、スカートだと風を受けて、凧みたいになっちゃって、足を掬われそうになったんですよ」

 私がそう言うと、東雲先輩が「極力危険は排除すべきだな」とすぐに同意してくれる。

 すると、那美ちゃんは少し考えてから、ポンと手をたたき合わせて「そぉだぁ」と晴れやかな笑顔を見せた。

 普通に可愛らしい表情なのに、私はもの凄く嫌な予感をその顔に感じる。

 だが、満面の笑顔を浮かべて目をキラキラと輝かせる那美ちゃんに触れずにいることも出来ず、私はその嫌な予感を押し込めながら「何か思い付いたんですか?」と尋ねた。

「実験施設内はぁ、壊れた傘とかぁ、看板とかぁ、とにかく危ないモノは飛んでこないわよねぇ?」

 質問の意図がわからなくて少し不気味だったものの、私は「そう言ったものまでは具現化していませんね」と返す。

 すると那美ちゃんは満足そうに頷いてから「我に秘策有りだわぁ」と胸を張って見せた。

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