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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第拾弐章 構築新生
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拾弐之漆 着地

 ガラッと音を立てて開かれた窓を使って、私は廊下から外へと移されることになった。

 座った状態のまま、那美ちゃんに運ばれて、窓の外へと体が移動する。

 水平移動から下向きに移動が変わったすぐ後に、目の前に東雲先輩の掌が見えた。

 那美ちゃん、東雲先輩と、順番に顔を見て頷いてから、ゆっくりと立ち上がる。

「リンちゃん、気をつけてぇ」

 心配そうに声を掛けてくれた那美ちゃんに振り返って、頷きで応えた。

 それから、ピタリとくっ付けてくれた手を、那美ちゃんの親指に捕まりながら、脚を東雲先輩の掌の方に伸ばして渡る。

 乗り移るタイミングでも落下しないように那美ちゃんの親指を両腕で掴んでいたかったけど、無駄に大きい胸が邪魔をして、片手は離すしかなかった。

 改めて那美ちゃんを振り返って『胸が邪魔なんですけど』と抗議の言葉を強く念じておく。

 那美ちゃんはすぐに「あらぁ」と口にしたので、伝わったと判断して、視線を戻した。

 が、ちゃんと足下を確認しようとしたら今度は、胸が邪魔で足の先が見えない。

 改めて那美ちゃんに心の中で苦情を申し立ててから、横を向いて前では無く横に足を出した。

 足の先が東雲先輩の掌の上まで伸びたことを確認してから、那美ちゃんの指にかかったままの腕に力を込めて、大きく突き放した。

 東雲先輩の掌から飛び出さないように、脚の着地に合わせて膝から着地するように体を丸める。

 前傾姿勢になることで、前方の視界を確保した私は、両手をしっかりと伸ばして、多少勢いの付いた体を受け止めた。

 そのまま腕の力を抜いて、東雲先輩の掌の上で四つん這いになる。

「大丈夫か、凛花!」

 心配そうな東雲先輩の声に顔を上げると、壁になるように添えてくれたもう一つの手が見えた。

「大丈夫です。ただ『コリンちゃん』より『ウーノ』が向いていたかも知れません」

 私はそう言いながら、添えてくれた方の手を支えに立ち上がる。

 東雲先輩は私が手に捕まって立ち上がったのを確認すると、ゆっくりとした動きで下向きに両手を動かし始めた。


 お腹の辺りまで手を下ろしたところで、東雲先輩が「このまま下まで降ろして大丈夫か?」と尋ねてきたので、私は「はい」と頷いた。

 東雲先輩は返事をする代わりに、再びゆっくりとした動きで、しゃがみ始める。

 ややあって、地面に手が触れる距離まで来ると、添えていた手を離し始めた。

 私は離れた東雲先輩の手に、手を掛けたままで一歩足を踏み出して、そのまま手の上から飛び降りる。

 手の厚み程度しか地面からは離れていなかったモノの、人形にとってはそれなりの距離なので、着地に瞬間、少しフラついてしまった。

 だが、それでも東雲先輩が添えてくれた手のお陰で転はずに着地する。

 私が両足でしっかりと地面に立ったところで、東雲先輩は「大丈夫か?」と聞いてきた。

 体の調子を確認するために、腕や足を動かしたり、その場で回転したりしてバランスを確認するが、無駄に大きい胸のせいでバランスが崩れてしまう。

「凛花!」

 東雲先輩の慌てた声に、私は「だ、大丈夫です!」とすぐに問題が無い旨を伝えた。

「この体がその……普段と違うので、慣れてなくてですね」

 無駄に大きな胸に手を当てながらそう告げると、東雲先輩は何故か食い気味に「わかった。大丈夫ならそれでいい」といって立ち上がってしまう。

 同じ地面に立った状態だが、人形と人間ではかなりのサイズ差があるので、もの凄く遠ざかってしまった。

「あっ……」

 自分でも何故そんな声が出たのかわからない。

 けど、出てしまった声がなんだか情けない響きに聞こえて、私は慌てて口を押さえた。

 そんな私に東雲先輩は「どうした、凛花」としゃがみ込んで尋ねてくれる。

 わざわざ膝をついいてくれたことを申し訳なく思いながらも、すぐに反応してくれたことが嬉しかった。

 ただ、嬉しいが最初に来てしまったせいで、返す言葉が思い浮かばない。

 黙っていると、東雲先輩が気を遣って「何か思い付いたことでもあったのか?」と聞いてきてくれた。

 私の漏らした声が、何かに気付いたからだと捉えてくれているらしい。

 ただ、実際は自分でも訳がわからず発してしまった声なので、そんな意図は無かった。

 誤解を解く意味でもそれをそのまま言えば良いのに、私は何故か「もう、ドアを開閉試してみても良いですか?」と次のステップに進むことを確認しようとしたことにしてしまう。

 誤魔化すような行動をとってしまった事に罪悪感があったが、東雲先輩はそこに気付くこと無く「少し待ってくれ、撮影機材を調整する」と真面目に答えを返してくれた。

「那美、映像の確認を頼む」

「はぁい~」

 パソコン自体は私の体などと一緒に廊下に設置してあるので、那美ちゃんの担当である。

 言葉を交わし合いながら準備を進める二人を見ながら、私は胸の中に湧いてきたモヤッとする感情を唇を噛んで胸の内に押し込めた。

 だというのに、噛んだはずの唇の感触はあるのに、痛みが無い奇妙な感触では、気持ちを立て直すことが出来ない。

 不安定な自分の心に対して、新たな対策も考えられず、私はなさけないものをかんじながら、体験施設の入口である隔壁へと歩み寄った。

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