拾壱之伍拾壱 三人目
東雲先輩の検証を終えた結果、神格姿の人形は本来よりも大分力が弱まっていることがわかった。
となると、現状では訓練になら無いので、当然微調整ということになる。
私としては流れでアップデートをするのだと思ったのだけど、東雲先輩が「先に那美の人形を出した方が良いんじゃ無いか?」と提案してきた。
「那美ちゃんの人形ですか?」
そう聞き返すと、東雲先輩は「確か、那美の人形は『アイガル』用にも作るって言っていただろう?」と尋ねてくる。
私が「はい」と頷くと、東雲先輩も自分の情報に間違いが無いことを確認するように軽く頷いた。
「オレの神格姿の人形の調整よりも、この仕組みが他のヤツでも動くか試して置いた方が良いと思うんだ」
「確かにそうですね」
東雲先輩に同意してから視線を那美ちゃんに向ける。
すると那美ちゃんは「私は構わないわよぉ」と頷いてくれた。
その後で「リンちゃんのぉ、負担になら無いならぁ」と笑む。
那美ちゃんが私の負担を気にしてくれたからか、慌てた様子で東雲先輩が私を見た。
真剣な目に心臓がドキッと鳴ったけども、すぐに冷静さを取り戻した私は、適当なことは出来ないと思い目を閉じる。
既に何体も『アイガル』用の人形を出現させているし、東雲先輩の神格姿の人形を出現させているので、那美ちゃんの人形を出現させるのはそれほど難しくないはずだ。
というわけで軽くエネルギーを集めてみると、その流れはスムーズで問題ないとすぐに確信する。
目を開けた私が「特に問題はなさそうです」と伝えると、東雲先輩は「そうか」と頷いてくれた。
私は東雲先輩に軽く頷きを返してから、那美ちゃんに「早速やりますか」と声を掛ける。
「はぁい」
那美ちゃんの返事に頷いた私は、机の上に何も置かれていない椅子に移動した。
「それじゃあ、まず、私が那美ちゃんの人形を出現させてから、アップデートで微調整する形で息ますね」
私がそう伝えると、那美ちゃんは「任せるわぁ」と頷いてくれた。
那美ちゃんの承諾を得たので、私は目を閉じていつも通り両手の間にエネルギーを集中させる。
予測通り抵抗なくスムーズに掌の間にエネルギーが集まり高級へと変わっていった。
この感触なら腕を経由させずに一気に集めても問題なく進められそうだなとは思うのだが、余計なことはしない方が良いのは間違いないので、その好奇心は押し込める。
そこから具現化までそれほど時間はかからなかった。
ゆっくりと目を開くと、視界の中心で、制服姿の那美ちゃんの人形が、大人とも子供とも思える笑みを浮かべて私を見上げている。
那美ちゃんは熱の籠もった溜め息を吐き出しながら「なるほどぉ、これがぁ、リンちゃんの中の私のイメージなのねぇ~~」と呟いた。
「私の中のって……」
決して間違いでは無いのだけど、なんだかもの凄く恥ずかしくて頬が熱い。
「ぜひぃ、リンちゃんのイメージを堪能したいのでぇ~まずはアップデートなしでいくわぁ」
「えっ!?」
那美ちゃんは私が驚きの声を上げている間に、スタスタと三つ並べられた机の真ん中に座り、その上に置かれていたヘルメットを被ってしまった。
「ちょ、ちょっと、那美ちゃん!?」
慌てて声を掛けたのだが、那美ちゃんは「リンちゃん、こっちは準備OKよぉ~」と手を振ってくる。
何を言っても駄目そうな那美ちゃんの様子に、どう対処したモノかと思っていると、東雲先輩が「凛花」と私の名前を呼んだ。
振り返ると東雲先輩が「体に異変や疲れとかは無いか?」と心配そうに尋ねてくる。
東雲先輩の表情に胸が締め付けられるような感覚を覚えた私は、安心して欲しくてすぐに「大丈夫そうです」と答えた。
すると、東雲先輩はホッとした表情で息を吐き出してから、柔らかな笑みを見せる。
その後で「大丈夫なら席に着こう、ああなった那美は止まらない」と断言して、那美ちゃんの横の席に座ってしまった。
こうなると私の選択肢は定まったも当然である。
東雲先輩はパソコンを前に記録係を務めるつもりのようなので、那美ちゃんがリンクした後、無防備になった体をサポートするために、横の席に着いた。
私の時も、東雲先輩の時も那美ちゃんが座っていた席で、私的には初挑戦のポジションである。
那美ちゃんの体がぐらついたら、すぐにでも支えられるように、椅子に座りながらも前と右に足を開いて、肩を掴みにいけるような位置に手を構えた状態で「準備完了」と宣言した。
「準備は良いか?」
東雲先輩の質問に対して、那美ちゃんは「大丈夫よぉ」と返事をした。
その後で、パソコンモニターをチェックしてから、東雲先輩は「花子さんも大丈夫みたいだ……始めよう」と口にする。
花子さんと東雲先輩はパソコンで連絡をしているんだなぁと思っている間に、那美ちゃんが右の耳の位置にある電源のスイッチを入れるのが見えた。
「電源が入ったわぁ」
那美ちゃんの言葉をそのまま入力しながら、東雲先輩は「そのまま状況を報告してくれ」と伝える。
東雲先輩の言葉には直接返事はせずに、那美ちゃんは「今光る線が入ってぇ、二つに割れてぇ、二人と同じみたいにメッセージが表示されたわぁ」と淡々と状況を口にしていった。




