拾壱之伍拾 交代
「それじゃあ、やってみる」
今回私と那美ちゃんに挟まれて席に座ったのは東雲先輩だ。
私に代わって、次の検証は東雲先輩が担当する。
東雲先輩が私の次に検証に挑むのは、単純に人形の問題だ。
私を元に作った『ウーノ』『コリンちゃん』以外で、今リンク出来るのは『東雲先輩の神格姿』しかない。
一応、胸のサイズが違うとはいえ、元は私なので『コリンちゃん』のテストまでは私が引き受けたのだけど、三体目である『東雲先輩の神格姿』の番になったところで、ストップがかかった。
止めたのは東雲先輩で、要するに私より自分の方が『東雲先輩の神格姿』には慣れているという主張である。
厳密には、私も、那美ちゃんも、東雲先輩も、女性の姿である『東雲先輩の神格姿』とは体格が異なっているので、元の体との違いで何らかの障害が出る可能性が考えられた。
その際が少ない、もしくは影響が少ないのは誰かとなると、神世界限定とはいえ、その体を動かしている自分だという東雲先輩に押し切られてしまった形である。
加えて、このシステムは東雲先輩の希望で構築することになっているので、自分も早くシステムに触れてみたいと言われたのも大きかった。
半分はその通りだろうけど、もう半分は私が実験台になり続けることを危惧してくれたんだろうと思う。
そう考えてしまうと断るにも断れず、結局交代することになってしまった。
「おかしいなと思ったら、すぐストップしてくださいね!」
私がそう声を掛けると、ヘルメットを被った東雲先輩は軽く手を振りながら「わかった、心掛ける」と言い放った。
迷いのない答えに、私は「う、うん」としか返せない。
東雲先輩はそれで話が済んだと判断したみたいで、椅子に深く座り直した。
右の耳付近にあるスイッチに触れた東雲先輩は「電源を入れる」と宣言して押し込む。
「凛花が見ていたのと同じ感じだな……線が出てきて二つに分かれてメッセージが表示されている」
淡々と報告をしてくる東雲先輩に、私は「ちょっと待ってくださいね」と伝えてから、今発言したら内容をそのままパソコンに打ち込んだ。
役割を交代した形なので、記録係は私になっている。
サポートの那美ちゃんが交代になら無かったのは、単純に生身では私の方が力が弱いからだ。
力で負けたというのは少し情けないとは思う。
けどそれを引き摺っても仕方が無いので、私は自分の役目を全うしようと思っていた。
にも拘わらず、キーボードに慣れていないのもあって、東雲先輩の様に上手く粉査定無い。
挙げ句、その東雲先輩に「ゆっくりでいいぞ」と気を遣って貰う始末だ。
情けなさを痛感しながらも、私は記録を付け終えて、東雲先輩に「進めてください」と伝える。
「キャラクターセレクトに切り替わったな。候補は凛花と同じ三体だ」
東雲先輩の報告に「はい」と答えつつ手を動かして内容を打ち込んだ。
「早速、オレの神格姿を選んでみる」
東雲先輩の宣言に、何かあった時に支えることになる那美ちゃんと視線を交わして頷き合った。
私が「わかりました」と告げると、ヘルメットの駆動音が少し大きくなった感じがする。
ヘルメットを被っている時は気付かなかったけど、リンクを開始すると内蔵されているモーターか何かの動きが強まるのかも知れないと思いながら、東雲先輩本体とすぐ近くの机に移動させて置いた神格姿の人形の間で視線を行き来させた。
そこからややあって「視界が切り替わった」と実体の方の東雲先輩が口にした。
「感覚的には立っている感じがするので、神格姿の方が感覚的にはメインになってるみたいだ」
東雲先輩から上がってくる報告を打ち込み、その後で「動けますか?」と尋ねると、神格姿の人形が動き出す。
視線を神格姿の人形の方に向けて「感覚的にはどうですか?」と尋ねると、感覚を掴むように腕を振ったりしゃがんだりと体を動かし始めた。
軽く確認を終えた東雲先輩は左の腰に下げられた二本の太刀の内の一振りに触れる。
「はっ」
短く気合の声が放たれたのは実体の方の東雲先輩で、実際に動きを見せたのは神格姿の人形の方だった。
一瞬で抜き放たれた太刀が金属独特の鈍い光を放つ。
軽々と振られる刀は光の軌跡を残し、気が付くとその刀身は元の鞘に納められていた。
その動きの素早さに呆気にとられていたというのに、東雲先輩の感想は「少し重く感じるな」というモノで、自然と目が丸くなる。
「重いんですか?」
驚きが強いせいで、疑うような聞き方になってしまったが、東雲先輩は気にした素振りを見せずに「アチラで使ってる体より、力が出ていない感じだな」と答えてくれた。
「体への負荷をあまり感じないのは、この人形もアチラの体も近しい気がする」
感想を口にするのは東雲先輩自身の体で、それに合わせて動くのは神格姿の人形なので、混乱しそうになるモノの、感想を記録する役目が自分にあることを思いだして、私は慌ててキーボードを叩く。
すると、東雲先輩は私を待ってくれるつもりのようで、発言と動きを止めてくれた。
話に夢中で、役目を忘れかけた自分が恥ずかしい。
失敗を取り返すというわけでは無いけど、私は会話内容の打ち込みに集中した。




