拾壱之肆拾伍 セレクト
「他に選べるキャラクターはいるか?」
東雲先輩にそう尋ねられて、反射的に『次』と思った直後、表示が『ノーラ』から『コリンちゃん』に変わった。
やはり考えたことに反応して切り替わる仕組みらしい。
「キャラクターが『ノーラ』から『コリンちゃん』に切り替わりました」
「他はいけそうか?」
東雲先輩からのオーダーに、私は「待ってください」と返してから『次』と念じた。
すると画面は切り替わり『東雲先輩(神格姿)』と表示され、神格姿の方の東雲先輩のバストアップが映し出される。
「あーえっと……」
思わずどう伝えようかと思ってしまったせいで、言葉に詰まってしまった。
「どうした、凛花?」
心配そうな声で東雲先輩にそう声を掛けられた私は、変に言葉を組み立てるよりもそのまま伝えることに決める。
「えっと、キャラクターの名前が、その東雲先輩ってなってて、かっこで神格姿ってなってます」
私の言葉から少し時間が過ぎてから、咳払いをした東雲先輩が「それは……東雲だけとか、東雲雅人じゃ無く、本当にそのまま東雲先輩と表示されてるのか?」と質問してきた。
実際その通りなので、私はヘルメットに気をつけながら「はい、そうです」と頷く。
「那美、どう思う?」
東雲先輩が意見を求めると、那美ちゃんは「単純にぃ、名前を付けてあげないとぉ、リンちゃんのイメージの名前になるんじゃ無いかしらぁ」と自分の考えを示してくれた。
私がその意見になるほどと納得していたのに、東雲先輩は「もしくは……」と違う意見がある素振りを見せる。
追記が逸って「もしくは?」と先を促してしまった。
東雲先輩はそんな私の行動を咎めるでも無く考えていたことを教えてくれる。
「その『ガイド・ギア』を被る人間によって表記が変わる可能性だな」
可能性の高さに私は、思わず「なるほど」と口にしてしまった。
「東雲先輩の言う通り、ヘルメットを付ける人によって表示が変わるなら、視覚情報の記録は重要ですね」
「違いがあるなら把握して置いた方が良いからな」
東雲先輩と頷き合った後で、私は「じゃあ、次のキャラクターを見てみますね」と告げた。
「頼む」
私は頷きつつ頭の中で『次』へと念じる。
すると、東雲先輩の神格姿から『ウーノ』に表示が切り替わった。
更に『次』と念じると『コリンちゃん』、再び東雲先輩の神格姿と切り替わっていく。
「えーと、まず東雲先輩の神格姿から『ウーノ』に戻って、その後、『コリンちゃん』、次に元の東雲先輩の神格姿に戻りました」
「ループしてるってことか」
東雲先輩に「はい」と返すと、すぐに「逆回りは出来そうか?」と尋ねてきた。
「やってみます」
そう答えてから、逆回りで次と意識すると『ウーノ』『コリンちゃん』『東雲先輩の神格姿』が順番に巡る。
一旦止めて、元通り次にと念じれば、元通りの周り方、逆回りと念じれば逆にキャラクターが入れ替わった。
「なるほど、その三キャラは、順番の向きを意識するだけで、変わっていく順番を変えることが出来るということだな?」
「はい」
私が頷くと、東雲先輩は「次に考えて置いた方が良いのは、何故、その三キャラが選べるの勝手ことだな」と言いながら、カタカタとキーボードを叩いた。
「やっぱり、距離ですかねぇ?」
私の呟きに、東雲先輩は「可能性が高そうだな」と肯定した上で、それもメモしてくれているのだろうキーボードを叩いている音が響く。
それが止まった後で、東雲先輩から「まあ、検証は後にして、先に進めてみよう」という提案がされた。
「先に進むってことは……」
私の発言に、那美ちゃんが「そうねぇ、キャラを選んでみようってことねぇ!」とすぐさま食いついてくる。
「私のおすすめはぁ、当然『コリンちゃん』よぉ」
胸が大きい方が好きだと明言している那美ちゃんはどうしても私に『コリンちゃん』を体感させたいのか動かせたいのかしたいらしかった。
けど、勢いに飲まれるわけにはいかないので、努めて冷静に返す。
「那美ちゃん、最初に自分の体と大きく違う子にリンクしたら、正しく感覚の確認が出来ないでしょう?」
私が発言だけで無く、心の中でも最初は絶対『ウーノ』と念じていたのも功を奏して、那美ちゃんは渋々だが「わかったわよぉ、最初は『ウーノ』でいいわぁ」と同意してくれた。
が、ホッと息を吐き出す前に「二番目は『コリンちゃん』ねぇ!」と言い放つ。
これは折れないだろうと察した私は、すぐに東雲先輩に助けを求めることにした。
「し、東雲先輩!」
だが、東雲先輩の返しは、私の求めるモノとは違ったのである。
「二体目をどうするかと言うことで、選択肢がその三体なら『コリン』になるんじゃ無いか?」
「えっ……」
「一応、神格姿とはいえ、オレの体と、その……い、一部違いがあるとは言え、凛花の体を元にしている人形なら、どっちが向いているかは……なぁ?」
私は正論と言っても良い東雲先輩の意見に、異を唱えることは出来なかった。
確かに、違う人の体と私を元にした体を比べれば、どちらが問題が起きにくいかと言えば、確実に後者である。
胸の大きさが違うから嫌だというのも、私のわがままだ。
もう逃げ道が無いことを悟った私は、溜め息交じりに「二番目ですからね?」と那美ちゃんに言う。
「もちろん!」
私の言葉に、嬉しそうに声を弾ませて微笑む那美ちゃんはとっても嬉しそうだった。




