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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第拾壱章 想定離脱
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拾壱之肆拾参 不安

 東雲先輩の助けを借りて、二度目のチャレンジとなった『ガイド・ギア』の具現化は終わりを迎えつつあった。

 私のイメージだけでは、途中で流れがか細くなり途絶えてしまったエネルギーの流れが、今回はとてもスムーズで淀まない。

 間違いなく、東雲先輩のイメージがしっかりしていることの証明だ。

 私に負担を掛けないようにと言ってくれていたのを思い出すと、口元がニヤつきそうになる。

 折角東雲先輩が頑張ってくれているのに、私がだらしない表情を見せるワケにはいかないので、口元に力を入れて表情が崩れないように力を込めて踏み止まった。

 私がそんな馬鹿なことをしている間にもエネルギーは送り込まれ続けている。

 そして、ついに完成の時が来た。


 全てのエネルギーを送り込み終え、球体がヘルメットへと姿を変えたのを感じ取った私は「ふぅ」と息を吐き出した。

 ゆっくりと目を開け、机の上には具現化させたヘルメットを視界に収める。

 そのタイミングで、東雲先輩が「上手くいったのか?」と尋ねてきた。

 私はその質問に対して「できあがった感覚はありますけど、動くかは試してみないとわかりません」と答える。

 東雲先輩は確かにと言わんばかりに頷き、那美ちゃんは「じゃあ、早速試しましょ~!」と『コリンちゃん』を手に笑みを浮かべた。

 そんな那美ちゃんに「感覚を共有するのに、大きく体格が違う体を使うわけにはいかないんですけど?」とジト目を向ける。

 対して、那美ちゃんは「リンちゃん、将来巨乳になった時の練習だと思ってぇ、チャレンジしよぉ

!」と真面目な顔で返してきた。

 軽い頭痛を覚えながら「私の体に近くないと感覚の違いとか比較できないでしょう!」と告げて『ウーノ』を呼ぶ。

 すると那美ちゃんは悲しそうな顔で「だって『ウーノ』ちゃんばっかりでぇ~『コリンちゃん』がかわいそぉ」と肩を落としてしまった。

 それを目にした私の中に、申し訳ないような、なんとかしてあげたいような感情が生まれる。

 不本意な決断ので、大きく溜め息を吐き出してから、私は那美ちゃんに「じゃあ、最初に『ウーノ』で試した後に『コリンちゃん』でもいいですか?」と尋ねた。

「もぅ! だから、リンちゃん、大好きよぉ」

 明るい声で抱き付いてきた那美ちゃんを支えながら、完全にコントロールされてる自分に苦笑してしまう。

 問題は、悪感情は無く、仕方ないかと許容できてしまう私の心情かも知れないと思った。


「それじゃあ、被せるぞ」

「はい、お願いします」

 出現した『ガイド・ギア』を模したヘルメットは、それなりに大きいので、東雲先輩が支えて装着してくれることになった。

 椅子に座り直して、背後に立った東雲先輩の気配を感じながら目を閉じて待っていると、ゆっくり丁寧にヘルメットがおりてくる。

 あまり密着しないように東雲先輩が配慮してくれているのか、肌から感じる情報よりも、閉じた目が感じる光を遮られた気配や、機械製品独特の匂いの方が、ヘルメットの装着を感じさせた。

 ややあって頭のてっぺんに重みが乗ると、すぐに東雲先輩が「手を離すぞ」と声を掛けてくれる。

 頷こうとした瞬間、東雲先輩の手がヘルメットから離されていないので、位置がずれそうになり動きを止めた私は「離してください」と口頭で伝えることに切り替えた。


「リンちゃん、どんな感じぃ?」

 那美ちゃんの質問に、まずは顎の下の固定用の留め具をしてから、少し頭を動かしてみた。

「多少、重みは感じますけど、首を動かすのが大変って程じゃ無いですね」

 私がそう答えると、那美ちゃんが顔の前で手を振り始める。

「見えてるぅ?」

 目を隠すようにおりるバイザーは、装着前は真っ黒でのぞき込んだ人間の顔が写る程だったけど、実際に装着してみると、透明なガラスとまではいかなくとも、ちゃんと那美ちゃんがのぞき込んで手を振っているのがわかる程度の透明度は確保されていた。

「大丈夫です。那美ちゃんが手を振ってるのもちゃんと見えます」

 私がそう返事を返すと、頭の上から「じゃあ、次は電源だな」という東雲先輩の声が届く。

 起動スイッチは、設定画通り右の耳付近にあるので、早速手を伸ばした。

 すると、その手を包み込むようにして、私ではない別の手がそれを止める。

「大丈夫か、凛花? やっぱりオレが……」

 手の主である東雲先輩が、優しい声で尋ねてきた。

 私は「大丈夫です」と伝える。

 だが、東雲先輩はそれだけでは納得出来ないようで、手を離してはくれなかった。

「分身に意識を飛ばす経験があるのは私だけですし、一番最初に試すのには、私が向いてるってさっき離したじゃ無いですか」

「……それは、そうなんだが……」

 東雲先輩の心配を嬉しく思いながら、私は説得のための言葉を続ける。

「私の能力と、東雲先輩のイメージで造り上げたモノですから、失敗はあるかも知れませんけど、害になるようなことは絶対ありません」

「……凛花」

「それとも、東雲先輩は私と先輩の合作を信じてないんですか?」

 そこまで言うと、私の手を捕まえていた東雲先輩の手は、ゆっくりと開かれた。

「無茶はするなよ」

 東雲先輩の言葉に「はい」と答える。

 その後で思い付いた言葉を口にしてみた。

「東雲先輩。そんなに心配なら、私が無茶しないようにしっかりと見張っててくださいよ」

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