拾壱之参拾壱 分類
キャラクターの選択を終えると、選んだ『ウーノ』がくるりと回転してポーズを決めた。
衣装は制服に戻っているので、自分が同じポーズを取っているような気分になって、なんだか落ち着かない。
とはいえ、録画も始まっているので、無様な姿を撮影されないように、頭の中で『アレはウーノであって私じゃない』と繰り返し念じた。
「じゃあ、読み込んでみてくれるかしら?」
急に結花ちゃんに話しかけられて、ビクッとしてしまったが、変な声を出すことは、どうにか堪える。
声が裏返らないように気をつけながら、さっき受け取ったばかりのカードから、トップスをまずは読み込ませてみた。
透明なアクリルの向こうに黒い機械が見える読み取り口に、QRコードをかざすと『トップスが読み込まれました』というメッセージが表示される。
「あ、無事、リンちゃんの『アイガル』同士ならカードは共通で使えそうだね」
後ろでメッセージを確認した志緒ちゃんが、そう言って手を合わせた。
「まあ、こっちで排出したカードがあっちで使えるか試さないとだけど、問題ない可能性が高いわね」
二台目のカードが、一台目でも有効なのかについては、私も抜けていたので、結花ちゃんの抜かりの無さに驚きと尊敬を感じる。
そんな私の視線に何かを感じ取ったらしい結花ちゃんが「な、なに?」と身構えた。
「結花ちゃんは凄いなって思ったんだよ。二台目のカードが一台目で動くか確認するなんて、すっかり抜けてたからね」
熱意を込めて、結花ちゃんに感動したことを訴えるが、当の本人からは「わかったから、次も読み込んで!」と言われてしまう。
無駄口を叩いていると判断されたのかなと思いつつ、ボトムス、スカートのカードを読み込ませてみた。
無事、読み込み成功をメッセージが表示される。
その後ろで、舞花ちゃんが結花ちゃんに「お姉ちゃん、照れてるの?」と揶揄っていた。
とはいえ、結花ちゃんの行動が、照れ故だったとわかったのは大きい。
つい微笑ましくて笑い出しそうになるのを堪えながら、読み込み作業に集中した。
三枚目の『グローブとブーツ』のカード、四枚目の『帽子とアクセサリー』のカードを読み込ませたことで、画面上の『ウーノ』のコーデは『ミル・セレニィ』となっている。
違和感と言えば、卯木凛花としての私がモデルである『ウーノ』は、髪の毛が黒髪なので、コスプレ感が増して、なんだか恥ずかしかった。
「セレニィのコーデは『クール』カテゴリーですね」
画面を確認しながら、志緒ちゃんが指さしながら説明をしてくれる。
「えっと、四つのカテゴリーがあるんだっけ」
「そう。キュート、ポップ、セクシー、クールの四つ。それぞれのカードに属性が決まっていて、選ばれた衣装の属性が一番多いコーデの属性になるんだよ」
「なるほど」
志緒ちゃんの説明に頷いてから、気になった部分を質問してみることにした。
「ちなみに、2つのカテゴリーが2個ずつの場合はどうなるの?」
「えーと」
説明をしてくれようとした志緒ちゃんに変わって、じゃれついている舞花ちゃんを引き離しながら、結花ちゃんが「2個と2個の場合と、全部1個の場合みたいに、どれか一つが一番じゃ無い場合は、カテゴリー属性は『フリー』になるわ」と教えてくれる。
「なるほど」
私は一度頷いてから、更なる質問を投げ掛けてみた。
「ちなみに、コーデのカテゴリーで何か変化があるんですか?」
「まず、ステージとの相性があって、ボーナスポイントが貰えるかな」
志緒ちゃんの説明に頷きで応えると、結花ちゃんが「後は、ゲームスタート前のコーデ変更演出が変わるわ」と追加情報をくれた。
「コーデ変更演出?」
聞き返した私に、真っ先に舞花ちゃんが「あ! アレだよね。新体操のヤツ!」と手を叩く。
舞花ちゃんに言われて、新体操のリボンを使って『ウーノ』が、制服からアイドル衣装に着替えたのを思い出した。
「そう言えば、リボンの演技をしながら衣装が替わっていきましたよね?」
私の言葉に対して、志緒ちゃんが「キュートだからね」と口にしながら頷く。
志緒ちゃん、そして結花ちゃん、舞花ちゃんから伝わってきた情報で、私は一つの仮説を思い付いた。
「もしかして、コーデのカテゴリー毎に、新体操の手具が変わるんですか?」
「しゅぐ?」
「あ、道具のことです」
つい大学の講義で習ったまま『手具』と口にしてから、一般的で無いことに気が付く。
それだけだったのだが、舞花ちゃんの想像力はたくましかった。
「あ! ひょっとして、リンちゃん新体操やってたの?」
想定していなかった質問に反応できない間に、結花ちゃんが「待って、マイ。リンちゃんならバレエじゃないかしら?」と言う。
この流れに志緒ちゃんが「ピアノとかは?」とワクワクしながら私を見た。
次いで那美ちゃんが「華道かも知れないわよぉ」と口にする。
が、那美ちゃんの『考えが読める能力』は皆の知るところなので、発言の重さが違い、皆の目は事実を確認しようと言わんばかりに、一瞬で私に向けられた。




