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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第弐章 変化変容
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弐之拾壱 新人教師の選択

「まあ、授業はしばらくは作ってくれた問題集を中心にやっていくとして、当面は脚を骨折して入院したことにでもするのが、まあ妥当な線じゃないかね」

「そうですね、下手な病気よりも怪我とかの方が、戻れなくても動画で授業が出来る事態の説得力が出ますね」

 僕は雪子学校長のシナリオに乗るつもりで頷いた。

 一応選択肢としては、この狐少女の姿が僕の『神格姿』だとカミングアウトして、これからはこの姿で『ホウカゴ』に参加するし、授業を受け持つと宣言する手段もある。

 が、結局雪子学校長が言うところの『変身ヒーローは正体を明かさないという浪漫』に乗ったのは、単純に僕が羞恥心で死にそうだったからだ。

 頭の中では隠すことはないし、ちゃんと正体を明かした方が連携もしっかり取れるのでは無いかと思ってはいる。

 思ってはいるんだけど、僕のこの姿と『林田京一』をイコールで結ばれるのを想像した結果、それだけで身悶える程恥ずかしく、受け入れることが出来なかった。

 また『ホウカゴ』で足を踏み入れることになる『神世界』は精神力が重要になる世界なので、羞恥で心を乱すようでは危ないということで、狐少女は正体不明の助っ人ということにして、僕がこの姿になったことで消えることになってしまった『林田京一』は、外出時に不慮の事故に遭遇したことになったのである。

 子供達を騙し続けるのは心苦しいのもあって、いずれはカミングアウトするつもりではあるけど、今のところは僕は一人二役を演じることになった。


「それでは、方針が決まったところで、次は人間の女の子に化けてください」

 花子さんは僕の手を取って、ニコニコと笑みを浮かべながら、そう口にした。

「え? なんでですか?」

「簡単に言うと、生活の為です」

 答えは即座に返ってきたけど、意味がまったくわからない。

 意味もわからず、目を瞬かせていると、花子さんは「良いですね、その表情可愛いです」と微笑んだ。

 何故かはわからないけど、背中が急に冷えた気がして、僕は慌てて視線を雪子学校長に向ける。

 すると、雪子学校長は苦笑気味に頷くと、説明を始めてくれた。

「子供達と大人の『神格姿』の違いは覚えているかな?」

「違い……」

 雪子学校長の問い掛けに、僕は記憶を遡る。

 そして、関係ありそうな事に思い当たった。

「大人の『神格姿』は体ごと変わる……ですか?」

「そう。そして子供達は、体から『神格姿』を切り離せる」

 雪子学校長の返しで、僕はこの学校に来た時の違和感を思い出す。

「ひょっとして『ホウカゴ』に挑む時じゃなくても、体から『神格姿』を切り離せるんですか?」

「そういうことだね」

 僕は素直になるほどと納得した。

 時折、廊下で視線や人のいる気配を感じても、その姿を確認出来なかったのは、子供達が『神格姿』で覗いていたということなんだろう。

 僕や雪子学校長、花子さんは肉体が直接変化しているので見えているが、思い返してみると、あの地下の『黒境』の前で子供達が体に戻ってきた時、僕の目には何も見えなかった。

 今の『神格姿』となった僕なら違うのかも知れないけど、少なくとも当時普通の人間だった僕に子供達の『神格姿』を見ることが出来なかったのは間違いない。

 となると、花子さんの言葉の意味も理解出来るモノに変わった。

「つまり……この姿を覗き見られる……かも知れない?」

「はい。狐耳の女の子が生活していれば、それは少なくとも『神格姿』だと、想像がつきますよね?」

 花子さんの言葉に頷かざるを得ない。

 肉体そのものが『神格姿』と化すのは、大人だけで子供達の体は変化しないのだから、その時点で僕が見られれば、大人だと認識されてしまうのだ。

 そこから『林田京一』だと推測される可能性だってある。

 自分でカミングアウトするよりも、バレる方が、何十、いや、何百倍も恥ずかしく思えて体が震えた。

「というわけで、人間の姿になっておくべきだと思いませんか?」

「そ、それは、そうかも知れませんけど、別に人間の女の子じゃなくても……」

 僕の言葉を遮るように、花子さんは頭を左右に振る。

「確かに『林田先生』の姿に変化出来ましたけど、身長は今の貴女と同じになって、縮尺が縮んでしまいましたよね?」

「は、はい」

「つまり貴女の変化で無理なく変化出来るのは貴女の身長までということになりますね」

「……はい」

 花子さんの言葉に僕は頷くしか無かった。

 確かに花子さんの言うとおりで、だからこそ動画で授業なんて苦肉の策を取ったのである。

「もちろん誰かイメージしやすい人に変化するというのもあるとは思いますが、尻尾と狐耳の無い普通の女の子に化ける方が負担が少ないと思うんです」

 最早、僕の中には『確かに』という思いしか無かった。

 それに未だ尻尾が操りきれていないこともあって、日常生活を送るという意味でも人間への変化は試す価値が十分にある。

 僕は意を決すると、雪子学校長と花子さんに向けて宣言した。

「それじゃあ、この姿のまま、人間に変化してみます」

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