拾壱之弐拾肆 宣言
「凛花から見て、オレ達は頼りないかも知れない」
「そんなことはないよっ!」
東雲先輩の言葉に、私は反射的に大きく首を振って否定していた。
皆を護りたい、安全を確保したいっていう思いで一杯だったけど、皆が物足りないなんて勘得たことは一度も無い。
それは間違いなく言えることだった。
特に東雲先輩にはそこを勘違いして欲しくない。
その思いが伝わったのかどうかはわからないけど、東雲先輩は「そうだな」といって表情を崩した。
「凛花は純粋にオレ達を護ることだけを考えてくれていたんだよな?」
東雲先輩の言葉に、私は何度も頷く。
わかってくれたことが嬉しかった。
一方東雲先輩は複雑な表情を浮かべて頬を掻きながら「じゃあ、少し的外れになるかも知れないけど、聞いてくれ」と言う。
東雲先輩はいろいろ察してくれるけど、那美さんと違って気持ちが読めるわけじゃないんだなと思うと、なんだかホッとして笑ってしまった。
「ん? おかしかったか?」
どこか不機嫌そうに聞こえた東雲先輩の言葉に、首を振って否定してから「東雲先輩も、完璧じゃないんだなと思って」と思ったままを言葉にする。
対して東雲先輩は苦笑を浮かべて「それは俺たちが凛花に思ってることだ」と言い放った。
「要するに、オレ達の思いは、だ」
東雲先輩はそこで一度皆の意思を確認するように視線を巡らせてから、改めて私を見た。
「凛花から見たら頼りないかも知れないけど、オレ達も凛花を護りたいと思ってて、だから、凛花一人で抱えずに、オレ達にも協力させて欲しいし、もっと相談して欲しい……要するに! もっと頼って欲しいって事だ」
もの凄く気恥ずかしそうに言ってくれた東雲先輩の発言がジンと胸に響く。
素直に嬉しかった。
だけど、私なりには相談してきたし、協力して貰っているので、東雲先輩達が望んでいる『もっと』がイメージできない。
どうしたらいいんだろうという思いだけが、私の中で大きくなっていた。
「本当に、真面目ねぇ」
飽き得てくれたように言う那美さんだが、助け船を出してくれているのがわかるせいで、口を突いて出た声は少し弾んでしまう。
「那美さん」
が、名前を呼んだ瞬間、那美さんの目がスッと細まり冷たい気配が漂い出す。
おかしいと思う間もなく、グイッと体を寄せてきた那美さんに「ちゃ・ん・で・しょ?」と言われてしまった。
「ご、ゴメン、な、那美ちゃん」
「よろしぃ」
頷く姿に、ホッとした私は、そのまま那美ちゃんを見詰める。
那美ちゃんなら見詰めるだけで伝わりそうだけど、念には念を入れて頭の中で『何を言おうとしてくれてたのかなぁ』と強く念じてみた。
すると那美ちゃんは少し呆れた表情を見せてからわかりやすく溜め息をつく。
予想としては『私の能力を便利に使わないで』と思っているのでは感じたのだが、そのタイミングで那美ちゃんが大きく頷いたので、正解したようだ。
那美ちゃんはそこでコホンと咳払いをしてから口を開く。
「リンちゃんはもう少し気をつけてくれれば、今まで通りで良いと思うわぁ」
そういわれて、今よりももっと何かしなくちゃと考えていたことを真面目と言われたのだと理解した。
東雲先輩が静かな口調で「那美が言った通り、凛花は今まで通り……いや、今までよりも自分の身の安全に気を遣って行動してくれるだけで良い」と言う。
何もしなくて良いと言ってるように聞こえる言葉に、戸惑っていると東雲先輩は「後はオレ達がそれぞれ凛花が頼れる存在だって証明するから、待ってろ!と言い切った。
自信を伴った快活な表情の断言は、素直にカッコ良くて、そんな表情を見せられる東雲先輩が羨ましくて眩しい。
「わかりました」
私はそう答えてから、胸の内で『ちゃんと信頼しているんだけどなぁ』とぼやいた。
そんな私に、那美ちゃんが「無意識の部分はぁ、なかなか改められないのよぉ」と肩を叩きながら言う。
「まぁ、大人が子供を見る感覚からぁ、寺ぶんっも同じ子供だって意識を切り替えるのは大変ダカールあぁ、仕方ないところもわるわよぉ」
私の耳元でそう囁いた那美ちゃんは大人びた笑みを浮かべながら、柔らかく首を傾げた。
「さて、招集の理由を聞いてもいいかね?」
教室にあった机と椅子を正方形に並べ替えて、それぞれが席に着いた。
教室の入り口付近に設置された黒板を背に、廊下側から、花子さん雪子学校長、月子先生と座っている。
その正方形の対面に座るのは私一人で、右手の廊下側に那美ちゃんと東雲先輩、反対の左手に志緒ちゃん、結花ちゃん、舞花ちゃんと並んで座ることとなった。
正方形を構成する各辺に机を三つずつ並べているのに、私だけが一人という状況は、話の中心が自分なんだなということを意識せずにはいられない。
そんな中で花子さんが「凛花さんが先ほどとんでもないことを提案してきました」と言い放った。
「「またかね!!」」
雪子学校長と月子先生の声が被る。
ただ、呆れたような表情で額に手を当てた雪子学校長と、にまにまと笑いながら表情を輝かせる月子先生と、表情はまるで正反対だった。




