拾壱之弐拾弐 招集
「皆が『球魂』を、凛花さんが分身を応用して出現させた無機物……例えば、人形のようなモノに宿らせる事が出来るようになれば、安全性が格段に上がるというわけですね」
花ちゃんのまとめに対して、私は「はい!」と力強く頷いた。
そんな私の反応を見た花ちゃんは、長く息を吐き出してから苦笑する。
苦笑とはいえようやく緩んだ表情に、私は思わずホッとしてしまった。
「それで、凛華さんのことですから、何か考えがあるんでしょう?」
花ちゃんにそう尋ねられて、私は「そこがさっきの実験が必要な部分になりますけど」と返す。
私の返答を聞いた花ちゃんは「これは緊急会議ですね」と口にした。
「なんだね? また何かやらかしたのかね、卯木くん?」
花ちゃんからの連絡で教室にやってくるなり、雪子学校長は私を見てそう言い放った。
流石にピンポイントで私を名指ししてきたことに思うところはあるものの、指摘自体は間違っていないので反論も出来ない。
そんな私を見て雪子学校長は「……本当に君なのかね」と呆れた表情を見せた。
「まあまあ、雪姉。一番能力が解明されていない凛花さんが起点となるのは必然ですよ」
月子先生がそう言って雪子学校長の肩を叩く。
微妙にフォローされてる気がしないので、一応不満を視線に込めて月子先生に向けた。
すると、私の視線に気が付いたのか、月子先生がこちらに振り返る。
その上でニヤリと笑った。
嫌な予感が脳裏を走ると同時に月子先生は「何やら、能力の制御に失敗して気絶したらしいね」と言い放つ。
直後、先ほどの花子さんを上回る肌寒い圧が解き放たれた。
「卯木くん、どういうことかね?」
一見するまでもなく、怒っているのがわかる雪子学校長の問い掛けに、私は抵抗する気も起きずすぐに白旗を揚げる。
「すみませんでした」
だが、私の謝罪に対して雪子学校長は「謝罪は後で良いから、まずは状況の説明をしたまえ!」と言い放った。
「なるほど……腕を通すのではなく、全身から放つ方式を試したら気を失ったと?」
怒気に満ちた雪子学校長の圧に晒されながら、私はどうにか「はい」と頷いた。
私に向けられた雪子学校長の目は、続き……というよりはその行動理由を言うように催促しているように見える。
実感が正しいかはわからないものの、沈黙したまま見つめ合うのは気まずいし、この圧を間接的に浴びている皆も居心地が悪いと思うので、ともかく口を開くことにした。
「その、腕を通すと、追加するイメージの難易度や内容によって、集めたエネルギーの伝達に大きな負荷が掛かってしまって、具現化までに時間がかかるんです。今後を考えてより早く具現化するために、どうしたら良いかと考えた時に、腕を通すことでエネルギーの流量が制限されているんだと思ってですね」
そこで一旦発言を止めて、雪子学校長の様子を窺う。
私が様子を覗っていることを察した雪子学校長は、背筋の冷える迫力ある笑顔で「それで?」と続きを促してきた。
拒否も逃亡も選択肢に無い以上、私は覚悟を決めて話を再開する。
「それで全身からエネルギーを放出して集めれば、より早く集められるかなと思って試してみたんですが……今思うと、安全装置の役割があったかも知れないです」
一応、私の言うべきことは言い切ったと判断して、雪子学校長の様子を見た。
私の視線の動きに反応した雪子学校長は、笑顔のままで「それで?」と口にする。
「迂闊でした。本当にごめんなさい」
勢いよく頭を下げると、雪子学校長から大きな溜め息が放たれた。
「君は散々やらかさないようにって言っているのに、好奇心に勝てないのだねぇ」
「か、返す言葉もありません」
頭を下げたままでそう言うと、肩に誰かの手が触れる。
下げた視界に映る姿から判断して、手の主は雪子学校長だ。
「君が皆を思っているのはここにいる皆がわかっている」
そこで間を開けてから、雪子学校長は「だが、同じように皆も君を思っている。わかるね?」と尋ねてくる。
雪子学校長にそう告げられた時、私は真っ先に、そうだったら嬉しいと感じてしまった。
直後、那美ちゃんが突然声を上げる。
「雪ちゃん! リンちゃんは私たちがリンちゃんを大切に思っているのを理解してません!」
「えっ!」
那美ちゃんの言葉に私はパニックに突入してしまった。
「お、思ってないわけじゃないよ! 皆優しくしてくれるし、私のこと気遣ってくれてるのは感じてるし!」
思っているままを言葉にして訴えると、那美ちゃんは「それはリンちゃんが私たちにしてくれてることと一緒だよねぇ?」と切り返してくる。
那美ちゃんに、どう返そうかと考えてる隙に「つまり、お互いに同じ事を考えてると思わない?」と問われてしまった。
そう言われると『確かに那美ちゃんの言うとおりかも』と思ってしまう。
「ねぇ?」
急な那美ちゃんの呼びかけに、私は「え?」と声を漏らした。
「同じ様に考えているなら、私たちのことを思っているように、私たちがリンちゃんを思っているって納得出来るんじゃないかしらぁ」
笑顔と共に那美ちゃんにそう言われて、私は目からうろこが落ちる思いをする。
それから照れくささで苦笑気味になりながら、私は「確かに」と同意の言葉を伝えた。




