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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第拾壱章 想定離脱
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拾壱之弐拾 再び

「「リンちゃん、大丈夫!?」」

 教室に戻った私を出迎えてくれたのは、舞花さんと結花さんの双子らしいピッタリと重なり合った心配の言葉だった。

 まずは「大丈夫ですよ!」と返す。

 二人がホッとした表情を見せたので、私は教室の中心まで移動して、皆を順番に見て名前を呼びながら、謝罪の言葉を口にした。

「舞花さん、結花さん、那美さん、東雲先輩、志緒ちゃん、花ちゃん、私が迂闊でした。心配をおかけして本当にごめんなさい」

 私自身が納得出来るまで、眺めに頭を下げてから頭を上げると、舞花さん、結花さん、那美さんの三人の顔が待ち構えていて、背中に冷たいモノが走る。

「リンちゃん?」

 もの凄く不満そうな顔で、舞花さんが私の名前を呼んだ。

「な、ん……ですか?」

 舞花さんの迫力に気圧されて、発した言葉に不自然な間が空いてしまう。

 次いで結花さんが目を細めて、不機嫌そうな表情で「なんですか? じゃ、ないわよねぇ?」と言い放った。

 二人の不機嫌な理由に考えが及ばず、ますます背中が冷える。

 そこに、那美さんが「どうして、花ちゃんとしーちゃんだけちゃん付けなのか知りたいわぁ」と普段よりも明らかに低い声で尋ねてきた。

 けど、その那美さんの言葉のお陰で、私も三人が不機嫌な理由に辿り着く。

「もしかして……三人も『ちゃん』付けの方が、いい……ですか?」

 私の問いに「もちろんだよ!」と舞花さんが大きく頷いて顔を近づけてきた。

「そうね」

 どこか澄ました感じで言う結花さんは直前とはまるで違う少し照れたような表情を浮かべている。

 那美さんは小刻みに頭を上下させて、頷いていた。

 私は呼び方を改めようと心に決めて口に出そうとしたところで、もの凄い緊張で上手く声が出なくなってしまう。

 気持ちを落ち着けるために深く息を吸い込んでから吐き出した。

 心を決めて、一気に順番に視線を移しながら「舞花ちゃん、結花ちゃん、那美ちゃん」と、三人の名前を呼ぶ。

「はい!」

 最初に嬉しそうに返事をくれた舞花ちゃん、結花ちゃんは「うん」と笑顔で頷いてくれた。

 那美さんは「なっちゃんでも良いのよぉ」とにまにま笑う。

「流石に、一気にそこまでは行けません」

 素直にそう言うと、那美ちゃんが「え~、勢いで言っちゃった方が良いと思うけどなぁ」と切り返してきた。

 皆の表情が明るくなって、私の気持ちにも少し余裕が出来たので、私はちょっとした意趣返しをしてみる。

「私思うんですけど、那美ちゃんは私より学年が上なワケなので、先輩後輩那美さんのままがいいんじゃないかな~」

 割と本気でそう思いながら、行ってみると、途端に那美さんが慌てだした。

 那美さんは他の人の考えがわかるので、私の本気度もわかるんだろうと思う。

「ちょっと、待って、何で私だけなの、リンちゃん!」

「那美さんだけじゃないよ? 雪子学校長や月子先生も呼び方変えないし」

 真顔で返すと、那美さんは「その二人は先生だよねぇ!」と目を大きく見開いて顔を近づけてきた。

「学年が上の東雲先輩も呼び方変えてないよ」

 まあ、東雲先輩は現状維持を選んだだけだけどと、変えなかった理由を思い浮かべていると、那美さんはきっちりそこも読み取って「まーちゃんは、まーちゃんが、先輩呼びされたかっただけだよね、希望に従っただけだよねぇ!」と迫ってくる。

 あんまり続けても可哀想になってきたので「じゃあ、那美ちゃん」と呼んでみた。

 那美ちゃんはホッとした表情を浮かべる。

 少し意地悪しすぎたかなと思っていると、那美ちゃんはジト目を向けながら「まったく、リンちゃんは案外意地悪だわぁ」と唇を尖らせた。


 教室に戻ってきて状況を確認した所、私が意識を飛ばしてしまったせいで『アイガル』の筐体は具現化せず、集めたエネルギーは霧散してしまっていた。

 近くにいた東雲先輩の人形や机などには、影響は出ていない。

 那美ちゃんからの報告によると、一旦球体になったエネルギーはそのまま空中に溶けるようにして消えたそうだ。

 やらかしたとは言え、実験の結果、エネルギーは物体を擦り抜ける筈だけど、爆発して皆が傷つくことがなくて本当に良かったと思う。

 思いつきと好奇心に押されてとった行動で、とんでもない事故を引き起こした可能性があったことに思い至った私は、苦い思いで胸が一杯になった。

 そんな私に花ちゃんが「それで、凛花さん」と声を掛けてくる。

「な、なんですか?」

 思わず動揺してしまったせいで返事がつっかえてしまった。

 花ちゃんはつっかえたことには触れずに、真面目な顔で「何で気を失うような事になったの?」と尋ねてくる。

 那美ちゃんも居るので、私は包み隠さず「単純に、その、具現化の速度を上げられるかも知れないって思ったんです」と理由を告げた。

 対して花ちゃんは「それは何故?」と切り返してくる。

「何故?」

 何を聞きたがっているのかわからずに、つい言葉を繰り返してしまった。

 戸惑う私に、花ちゃんは、言葉を足した上で、ゆっくりとした口調で問うてくる。

「何故、具現化の速度を上げる必要があったの?」

 花ちゃんにそう問われた私は、どう答えるべきか、正直迷ってしまった。

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