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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第拾壱章 想定離脱
336/814

拾壱之拾漆 呼び方

 頭の上から全身を包み込むように流れ落ちた炎の滝が(じめん)に着く寸前、黄色く輝く光の帯が東雲先輩の人形のグローブとブーツから飛び出した。

 光の帯に触れると、炎はそれを避けるように消えていき、やがて無数の帯に遮られることで、肩にかけられたマントから下の炎は全て消え去ってしまう。

 炎を分散し消し去った光の帯は、ブーツに、グローブに、マントに、スカートにと分かれて巻き付き、その多くの部分が消えた。

 残った光は魔法文字へと変わり、黄色がかったオレンジいろの紋様として、ブーツ、グローブ、マント、スカートにそれぞれ刻み込まれる。

 それとほぼ同じタイミングで頭に残っていたの炎は燃えさかる姿のまま光を失い、オレンジの髪へと変化を遂げた。

 消えきらなかった炎は円錐状に変化して真っ赤な三角帽子へと変わる。

 その仕上げに魔法文字が浮き上がり、変身は終わりを迎えた。

『滅びと新生をになう炎の魔力を放つ魔女ミル・フレイリィ』

 凜と力強く東雲先輩の『神格姿』の声が響く。

 バシッと決まった変身の決めポーズに対して、私は思わず全力の拍手を贈っていた。


「すごいわ、本当にアニメを再現してしまったのね!」

 興奮気味に花子さんに絶賛されて、志緒さんはくすぐったそうにして照れていた。

「リンちゃんが私の頭の中のイメージをそのまま再現してくれただけなんで……」

 花子さんに答えつつ、志緒さんは私に視線を向けてくる。

 私の方がスゴイと思ってくれているのはなんとなくわかったものの、個人的には志緒さんのイメージ力あってこそだと思うので、ここはちゃんと感じていることを言葉にすることにした。

「志緒さんは私の事を評価してくれているようですが、変身の順番や変化の仕方、発生するエフェクトに至るまで、それこそ子細に頭に入ってないとこんなに上手くはいかなかったと思います……もちろん私が支えた部分はあると思いますけど、やっぱり、志緒さんがいてこその再現だと思います。そもそも私には変身なんて思い付かなかったですし、鉄壁スカートも謎の光も考えつかなかったです」

 私は一旦そこで斬ってから志緒さんを見詰める。

「私の力を引き出してくれたのは志緒さんの想像力には感謝しないとですね!」

「り、リンちゃん!」

 志緒さんが私の名前を呼んで大いに慌てだした。

 私は本当のことを言っただけなので、笑顔で頷くに行動を留める。

 それ以上、私がアクションを起こさないと察したのか、志緒さんは「もぉ~」と頬を膨らませた。

 そのつもりはなくても、志緒さんを追い込んでしまった気がするので、私は言葉を足すことにする。

「もちろん志緒さんだけじゃなくて、那美さんの猫の再現や舞花さんのステラ、結花さんのトレーニングウェアと、どれも私の頭になかったことなので、皆本当に凄いなって感心してます」

 私の言葉に花子さんは「ふふふ」と柔らかく笑った。

 それから、私を柔らかな表情で見ながら「皆と仲良くなれているようで、安心しました」と言う。

 咄嗟に顔を動かした先で志緒さんと視線が重なって、お互い気恥ずかしさで噴き出してしまった。

 志緒さんから、東雲先輩、舞花さん、結花さん、那美さんと皆を見渡して、自分の気持ちを確かめた私は、子供達を見守る視点になら無いよう気をつけながら「私も仲良くなれているなと思います」とだけ口にする。

 すると志緒さんが「確かに私も仲良くなれてると思うよ」と同意してくれた。

 その後で「でも、もっと仲良くなれると思う!」と力強く断言してくれる。

「志緒さん!」

 感激のあまり、名前を呼ぶと志緒さんに「それだよ!」と指さされてしまった。

 思わず「え!?」と声を上げてしまった私に向けて、志緒さんは静かに話し出す。

「リンちゃんがさん付けなのは嫌じゃないんだけど、名前そのままだと距離があるように聞こえちゃうんだよね」

 そこで一拍置いてから、志緒さんは自分の髪をいじりながら「私の気持ちの問題だし、わがままだけど」と気持ちを伝えてくれた。

 視線を下げつつも、時折上目遣いでこちらを見る志緒さんの覗う姿勢に、私の気持ちは揺れ動く。

 正直、ちゃん付けで呼ぶのには、少なくない抵抗はあるものの、志緒さんにあだ名を付けるよりかは、はるかにハードルは低いなと私は判断を下した。

 大きく息をスコンで長く細く吐き出す。

 それを数回繰り返して気持ちを整えた私は意を決して、呼び方を改めた。

「し、志緒……ちゃん」

 声が少し震えてしまったけど、どうにか名前を呼ぶことには思考したはずだと思い、恐る恐る志緒さんの表情を見る。

 志緒さんは私を見詰めたまま目を丸くして固まっていた。

 驚いているだけで、嫌がっていることはない……と思う……いや、思いたい。

 そんなこと思いながらやきもきしつつ、志緒さんの反応を待っていると、ついにジャッジが下った。

「いい! 良いよ、なんかすっごくリンちゃんが近づいた気がする!」

 興奮して抱き付いてきた志緒さんに、私は慌てて「志緒さん!?」と制止を掛ける。

 志緒さんは不満そうな顔で「さん?」と目を細めて私を見てきた。

 観念した私は「恥ずかしいので離れてください。志緒ちゃん」と告げる。

 すると、志緒さんは「@もう仕方ないですねぇ」とどこか花子さんを彷彿とさせる動きで私から体を離した。

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