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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第拾壱章 想定離脱
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拾壱之拾参 神格姿人形

 早速、東雲先輩用の人形を作ることになったのだが、そこでどうするのかが問題になった。

 要は東雲先輩そのままの人形にするのか、それとも『神世界』での姿である『神格姿』に合わせて女の子の姿にするかである。

 私としては、自分のためにも男のサンプルが増えた方が良いという思いもあったので、普段の東雲先輩で良かったのだけど、志緒さんが私の新しいシステムの構想を聞いた後で、訓練するなら『神格姿』じゃないと意味が無いのではと主張したのだ。

 まあ、志緒さんなので主張の背景には、『アイガル』で遊ぶ時に、原作であるゲームにはいない男性キャラは困るということが含まれているのかも知れない。

 とはいえ、こちらの世界と有田の世界どちらの世界の体で経験を積むのが良いのかは明白であった。

「そっか、女の姿の方が良いのか……」

 東雲先輩のその産屋気を持って方針は定まる。

 定まってしまえば、後は人形を生み出すだけ……ということで、私は『アイガル』に関わる一連の流れに参加していなかった東雲先輩に人形作りの流れを伝えた。


「それじゃあ、私がだいたいの形を造り上げるので……」

 前提を口にしている途中で、東雲先輩は「いや、そのまま出現させてくれ」と言って遮った。

「え?」

 思わず聞き返す私に「さっきの話だと微調整できるって言ってただろう? 意識を移す仕組みが出来てから調整した方がいいと思うんだ」と東雲先輩は理由を説明してくれる。

「なるほど」

 確かに『アイガル』のアバターではなく、自分と感覚を合わせて、特訓をするための仕組みに使う人形なので、微調整のポイントが違うのは当たり前だ。

 私が納得出来る答えに頷いていると、東雲先輩が急に顔を寄せてくる。

 完全な不意打ちに思わず背筋が真っ直ぐに伸びた。

 直後、僅かに熱気を帯びた東雲先輩の声が私の耳を震わせる。

「一応、オレも男だからな……その、自分が元とは言え、女の人形を調整するのはな……その恥ずかしいんだよ」

 声が周りに漏れないようにという意識のせいか、声が深く耳に入り込んで来る気がして、一音毎にゾクリと背筋に刺激が走った。

 正直、東雲先輩の言葉をしっかりと受け止められなかったモノの、全容はわかったし、何よりこれ以上囁かれると体が持たなそうだったので「わかります」と、東雲先輩の耳に囁き返す。

「そ、そっか……そのありがとう」

 私が囁いた左耳を軽く手で触れながら、東雲先輩は少し苦笑しているようにも見える曖昧な笑みを浮かべた。

 焦っていたから、耳に唾でもかかってしまったんじゃないかという考えがよぎり、思わず視線が耳を押さえる東雲先輩の手を見詰めてしまう。

 私の覗うような視線に気付いた東雲先輩は、サッと耳から手を離して「どうした?」と聞いてきた。

「その……もしかして、つ、唾でもかかったんじゃないかと……思って……」

 一瞬、誤魔化そうかとも思ったものの、やらかしていたら失礼どころの話ではないので、やらかしていないことを祈りながら思っていたことを口にする。

 東雲先輩はそんな私の発言に驚いた表情を見せてから、すぐに「手を当てたのは……そのくすぐったかったからだ」と説明してくれた。

 実際はどうなのかわからないけど、東雲先輩は私のことを思って、そういうことにしてくれたんだろう。

 東雲先輩の優しさがジンと胸に響いた。

「と、ともかくだ。人形作り、頼んでも良いか?」

 どこか慌てた様子で急かしてくる東雲先輩の態度が面白くて、つい噴き出してしまいながらも「もちろんです」と頷く。

 その後で、こちらを見てニヤニヤしている那美さんの顔が見え、東雲先輩の態度が急変した理由をサッした私は、気付かなかった振りをして人形を出現させる準備に入った。


 東雲先輩の『神格姿(かみかくし)』を目にしたのは僅か二回しかなかった。

 回数の少なさ故に、多少不安はあるものの、これまで何体も分身や人形を作ってきた経験がある。

 多少頼りない根拠だけど、東雲先輩の前で失敗するわけにも行かないので、そこは気合でフォローすることにした。

 まずはいつも通り集めたエネルギーを人の姿ヘと変換していく。

 ぼんやりとしたイメージに詳細を思い出すことで肉付けしていった。

 巫女装束を思わせる衣装や五振りの日本刀『天下五剣』を左右の腰に背中に背負わせていく。

 私的にはそれなりのものになった自身があるので、ここで一旦完成とした。

 目を開くと、私の両掌の間に東雲先輩の『神格姿』を模した人形が立って私を見詰めている。

 人形なので東雲先輩本人では当然無いのだけど、真っ直ぐ私に向けられた眼差しが少し気恥ずかしくて、すぐに視線を背後に向けた。

 視界の中に本物の東雲先輩を捉えつつ「どうですか?」と出来栄えを尋ねてみる。

 東雲先輩は少し唖然とした表情を見せてから「正直、凄いとしか言えないわ」と苦笑いを浮かべた。

「じゃあ、出来栄えも確認してください」

「い、いや……だからな、その……」

 私の降りに対して、東雲先輩は明らかな動揺を見せるが、それが可愛くて噴き出しそうになってしまう。

 そんな困り顔の東雲先輩に代わって『アイガル』を結花さんと舞花さんの姉妹に預けてきた志緒さんが立候補の手を挙げた。

「それじゃあ、私が監修しても良いよねっ?」

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