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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第拾壱章 想定離脱
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拾壱之玖 教室へ

 廊下に出たところで、私の分身体である銀狐を抱いた舞花さんが首を傾げながら「リンちゃんどうしたの?」と声を掛けてきた。

「何というか、雪子学校長にお願いされた……のかな?」

 腑に落ちていないというか、わかるのだけどわからないという複雑な感覚な制で、舞花さんへの返事は曖昧になってしまう。

 当然、舞花さんも「どういうこと?」と首を傾げたままだ。

「簡単に言うと……もっと、皆で『アイガル』を遊んでみなさい……ってこと……なのかな?」

 これまで観測できた『種』は、どれほど弱い個体であっても、今回出現したモノより数倍は強かったらしい。

 弱体化しているのは間違いないが、今回の個体限定という可能性があるのを前提として、では何故弱体化したのかと考えを巡らせた時、雪子学校長が濃厚と判断したのが私の具現化する能力だった。

 可能性は高いものの確証はなく、次に出現する『種』が影響を受けて弱体化するかは不明である。

 であるので、雪子学校長からのオーダーは『卯木くんに負担のかからない範囲で遊び倒したまえ』だった。

 そんな雪子学校長とのやりとりを思い出していると、舞花さんが表情を輝かせて「えっ!? 雪ちゃんがもっと遊べって言ったの?」と興奮気味に尋ねてくる。

 事前の首を傾げてたのは違う輝きに満ちた表情に、噴き出しそうになりながらも「うん」と肯定した。

「そっか、じゃあ、先に行って、皆に知らせてくるね!」

 舞花さんはそう言うと、私に抱きかかえていた狐姿の分身を手渡してくる。

「わ、わかりました」

 勢いに圧倒されつつ狐の分身を受け取ると、舞花さんは踵を返して駆けだした。

 太ももが見えるくらい捲れたスカートは、どれだけ舞花さんが急いでいるのかと、どれだけ気持ちが弾んでいるのかを示すようで、つい微笑ましい気持ちで見送る。

 少しの間そうした後で、私ははっと我に返った。

 微笑ましい気持ちで舞花さんを見送ったのは良いのだが、気付けば自分の腕の中の狐姿の分身を撫でていたのである。

 何をしているんだろうという残念な気持ちになりながら狐の分身を消し去った。

 腕の中と指先に残る余韻を感じながら、私は苦笑気味に「暖かいし毛並みも悪くないかも……」と呟く。

「舞花さんがしばらく抱いていたかったのもわかるかなぁ……でも『アイガル』の魅力には勝てないのねー」

 私はそんな独り言をつい口に出してから、自分の分身の人気の無さを嘆いている可能性に気付いて、自嘲した。


「あ、リンちゃん! 待ってたよ!」

 教室に戻ってくると舞花さんが明るい笑顔で迎えてくれた。

 結花さんと志緒さんは既に『アイガル』をプレイしていて、那美さんはその姿を観戦しつつ、私に手を振っている。

 那美さんに軽く手を振り替えしたところで、急に「凛花」と声を掛けられた。

「あ、れ……東雲先輩?」

 教室の入り口横にいたために見えなかったのだが、今回は東雲先輩も同席するらしい。

 まるで想定してなかった成果、何故か頬が熱くなってきた。

「少し相談があるんだが、いいか?」

「え、い、いいです……けど?」

 変な緊張感で声が上擦って震えるが、どうにかそう返すことには成功する。

 あまりにもおかしな反応をしている時間があるせいか、心臓が動悸を速くしてジットリと全身に汗ばむ感覚が生まれ始めた。

 東雲先輩に変なリアクションをしてしまっていることで、頭は『ヤバイ』の参文字が無数に溢れ、目が回りそうな心情になってくる。

 が、幸いと言うべきか、()()()()()()と言うべきか、東雲先輩は大きく長く息を吐き出して「はぁ~~良かった、断られたらどうしようかと思ってた」と口にした。

 その後で、白い歯を見せながら「ありがとう、凛花」と笑う。

 一瞬、私の全ての時間が止まった。

 それは心臓の鼓動もで、私自身が我に返ると共に、心臓は止まった分を取り戻すかのようにもの凄い勢いで動き出す。

 瞬間、私の精神が慌てだした。

 なぜなら、忙しない状態になっているのは私の内面の話で、外面はまったく動いていないのである。

 東雲先輩を前に固まっているというのは、()()()()()()()に対して失礼だ。

 そう思った私は暴走気味で動かしづらくなった体を無理矢理動かして「どういう相談ですか?」と尋ねる。

 可能な限り不自然な部分を排除したので声が上擦ったりつっかえることはなかったと思うけど、トーンは少し低くなって抑揚は無くなってしまった。

 私なりには努力したものの、努力が及ばなかったらしく、東雲先輩は渋い顔になってしまう。

 その表情の変化に、どうフォローしようかと慌てた結果、より思考がまとまらず、結局棒立ちすることになってしまった。

 そんな私の態度に不信感というか、拒否感を抱いたのであろう東雲先輩は、困り顔のままで「月子先生に言われたんだけど」とチラチラと私を見ながら、話を切り出してくれる。

 心優しい東雲先輩に感謝すると共に『月子先生』の名前が出た影響か、私の中からスゥッと動揺というか、体の不調が消え去っていった。

「月子先生?」

 名前を口に出すとより冷静さは増してきて、案外、精神安定剤になっているのかと、複雑な気持ちになりながら、私は東雲先輩を真っ直ぐ見る。

 私の変化に東雲先輩はちゃんと気付いてくれたらしく、ピシッと綺麗な直立姿勢をとって「あ、ああ」と頷いた。

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