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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第拾壱章 想定離脱
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拾壱之漆 飛翔

 グニョンと視界が歪み、景色が黒一色に塗りつぶされた。

 何も見えない時間はほんの僅かだったが、見えない恐怖で体が震える。

 とはいえ、視界が黒一色だったのはほんの一瞬で、あっという間に視界に光が溢れ出した。

 最初は強烈な白、次いで目の前の風景を形作る輪郭が現れ、無数の色が出現する。

「ここは……森?」

 視界の大部分を締めるのは木々、疑似『黒境』に突入する前に『火炎蜥蜴』創作で見た森の光景ほぼそのままだった。

 もしかして『神世界』の別の場所に繋がってしまって、元の世界に戻って来れてないんじゃないかという考えが不安となって脳裏を過る。

 私自身の体は元の世界にあるので、このタイミングで意識を遮断すれば、問題なく戻れるはずだ。

 そう考えることで、不安が大きくなるのを抑えた私は、意識を遮断して緊急脱出(ベイルアウト)するにしても、もう少しちゃんと観察をしてからにしようという気持ちのゆとりを獲得する。

 方針が決まったので、背中に生やした翼を使って上へと向かうことに決めた。

 狐の体は人型よりも小さいので、それほど苦労せずに葉の隙間を通り抜けていく。

 飛翔開始から僅か、葉の隙間に空が見え、間もなく翼を得た狐の体が、完全に空中に飛び出した。


 勢いよく飛び出してしまったことと感覚の共有を弱めていることが禍して、自分がどの方向を向いているのかがわからなかった。

 それでも翼をはためかせると、空気を上手く掴み、体の向きが安定する。

 体が安定したことで、ようやく周囲を観察する余裕が出来た。

 現在地は学校の校門付近の森の上空、その場で回転して周囲の景色を視界に収めていく。

 私の視界は『異世界netTV』で記録されているので、今回の疑似『黒境』の出現地点はすぐに特定されるはずだ。

 そんなことを考えつつ、ぼんやりと校舎を見詰めていると、本体の方の肩が叩かれる。

 事前に決めた合図なのを確認するために、学生寮の方へと視線を向けると、窓から顔を出した舞花さんが大きな丸を作って合図をしてくれていた。

 私は翼を動かして、空気を掴むと、舞花さんに向かって翔ぶ。

 翼を動かすことで景色を置き去りにして突き進ませた。

 あと一回羽ばたかせれば舞花さんに届く距離まで迫ったところで、このままだと体当たりになるなと考えた私は、翼を羽ばたかせるのではなく大きく広げて空気を掴む。

 物理法則が役に立つのかどうか、はたまた、本当に空気抵抗の効果なのかはわからないが、それでも、想定通りに原則に成功した。

 一気に速度が落ちた狐の体は、狙い澄ましたように舞花さんの腕の中に着地を決める。

「えへへ、リンちゃんお帰り~」

 舞花さんの笑顔に頷いて、翼を消失させた。

 続けて分身も解除しようとしたところで、舞花さんが「リンちゃん、待って!」とストップをかける。

 頭を上げて首を傾げると、舞花さんは「このまま狐のリンちゃんを抱っこしていたいんだけど、ダメかな?」と上目遣いで質問されてしまった。

 分身を出現させたままでも特に問題はないので、了解した旨を伝えるために右前足を上げて答える。

 それから、舞花さんの腕の中で丸まってから、目を閉じて狐ノからだから意識を本体に戻した。


「凛花さん、お疲れ様」

 私に花子さんはそう言って微笑みかけながら、湿り気と温もりが心地よい蒸しタオルを差し出してくれた。

 遠慮なくタオルを受け取った私は、両掌に載せて広げると、顔を押し付ける。

 じんわりと伝わってくる温もりが心地よかった。

「卯木くん、そのままで良いから聞いてくれ」

「は、はい」

 雪子学校長の声に慌てて顔を上げると「そのままで良いと言ったのだがなぁ」と苦笑されてしまう。

「う~~~」

 逃げ出したいくらい恥ずかしいが、雪子学校長からの言葉を聞いたわけじゃないので、この場から離れるわけにもいかなかった。

 私が羞恥心に耐えながら、雪子学校長に話をして欲しいという念を込めながら視線を送る。

 すると、雪子学校長は軽く両肩を上げてから話し始めてくれた。

 どうやら念は伝わったらしい。

「まず、疑似『黒境』のこちら側の出口には月子が向かっている」

「はい」

「さて、ここからが本題だが……今日の『放禍護(ほうかご)』活動の結果、ある一つの仮説が濃厚となった」

 低めの声で放たれた雪子学校長の言葉に、自然と背筋が伸びた。

「仮説……ですか?」

 雪子学校長は「そうだ」と口にしつつ大きく深く頷く。

「正式な君の参戦は今回が初めてだから、ピンとこないかも知れないが、先ほどの『禍の種』はかなり弱かった」

 アチラでも何度かおかしいという評価を聞いているので、疑問もなく頷けた。

 そんな私に雪子学校長は「その原因は君にあると、私は考えている」と断言する。

「へ!? 私……ですかっ!?」

 驚きのあまり声が裏返ってしまった私を真っ直ぐ見詰めた雪子学校長は、深く「そうだ」と言いつつ頷いた。

「み、身に覚えがありません!!」

 事実私はその仮説が生まれた理由がまったくわからない。

 加えて、何か行動を起こしたつもりもないので、私自身にはまったく心当たりがなかった。

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