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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第拾壱章 想定離脱
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拾壱之陸 離脱

「よし、では手早く撤収しよう」

 雪子学校長の言葉に、討伐成功で気を抜いていた私たちは気持ちを引き締め直した。

「既に『種』の討滅は伝わっているだろうから、花子が『黒境』を抜けて、こちらに来ているはずだが……」

 私に向けられた雪子学校長の視線が『MAPで確認』の指示だと察して、すぐに確認する。

 東雲先輩の意図に気づけなかったばかりなので、すぐに視線の意図に気づくことが出来たのは幸いだった。

 MAP上に新たに表示された花子さんの名前を確認して「確認しました」と報告する。

「では、先導を頼む」

 元来た道を引き返すだけとはいえ、森の中で視界が悪いので、道案内がいた方が良いという雪子学校長の判断なのだろうと考えた私は「わかりました」と返してから皆を見渡した。

「それじゃあ、ついてきてください」


「皆、無事だったみたいだね」

 花子さんは私たちが全員揃っていることを確認した上で胸に手を置いて大きく息を吐き出した。

 そんな花子さんに向けて、舞花さんが「『火炎蜥蜴』だったんだけど、まーちゃん一人で倒しちゃった」と刀を横に振り抜く仕草を見せながら報告する。

「大活躍だったんですね、雅人さん」

 自分に向けられた花子さんの拍手に、東雲先輩は渋い顔で頭を左右に振った。

「いえ、想定以上に弱い個体だっただけです」

 東雲先輩そこでほんの少し間を開けてから「謙遜とかではなく、事実としてです」と続ける。

 花子さんはそんな東雲先輩の言葉と態度を受けて、雪子学校長に緯線を向ける。

「……本人の実感だ。東雲くんの言うとおりなんだろう……それに、私は観察に徹していたのでそれほど近づけたわけではないが、内包するエネルギーはかなり少なかったとは思う」

「そうですか……」

 雪子学校長の言葉に、花子さんは頷いた格好のままで何事か考え始めた。

 が、すぐに我に返ると「と……考察は後にしないといけませんね」と苦笑を浮かべる。

 花子さんは雪子学校長に向けて「既に簡易結界の準備は出来ています」と以前も『黒境』ではない入り口を作るために用いた空中に浮かぶ四本のかんざしのような黒い棒を指さした。

 状況から察するに、既に門は開いているようで、空中に浮かんだ杭の描く長方形の内側は黒一色で塗りつぶされている。

「想定以上に弱い個体だったということは『黒境』を維持できる時間が少ない可能性もある。疑似『黒境』の準備は終わっているようだが、どこに飛ばされるかわからない以上、正規のルートで撤退したい。話し合いたいこともあるが、先に帰還しよう」

 雪子学校長の言葉に頷くと、早速、舞花さんと結花さんの二人が黒境をくぐっていった。

 次いで、那美さんと志緒さん、その後に東雲先輩がくぐる。

 三人になったところで、雪子学校長が私に視線を向けた。

「では、危険を押し付けるようですまないが……」

 私は左右に首を振って「私だからこそ出来ることがあって嬉しいです」と胸を叩いてみせる。

「凛花さん」

 やる気を見せつけたつもりが、少し悲しげにも見える苦笑を花子さんに向けられてしまった。

 想定外だったけど、こちらも釣られて表情を暗くするわけには行かないので「分身ですから、安心してください! 痛みとか感覚を切り離して状態でドローンを操るみたいに操作できますから!」と伝えながら、狐の姿に変身する。

 これは研究の成果だが、人型よりも狐のような獣型にすると、感覚を切り離しやすくなるのだ。

 現時点では、戦闘機における緊急脱出に近い感覚で、機体……つまりは私の分身を放棄する形で、意識を切り離す。

 将来的には意識の切り離しではなく、分身体を消滅させたいが、現在の習熟度ではそこまでは至っていなかった。

 とはいえ『神格姿』が生身である雪子学校長や花子さんや『球魂』である皆に比べれば、はっきりと私の方が向いている役目だといえる。

「本当に気をつけてくださいね」

 花子さんの心配そうな顔に頷きつつ「月子先生もバックアップしてくれますから、多分大丈夫です」と宣言しておいた。

 精神系の能力に長けている月子先生は私本体と分身とのリンクを、気絶させるという荒技で断つことが出来る。

 私には予想外の事態に遭遇すると、つい固まってしまう悪癖があるので、別の人の意思で接続を途絶させられるのは心強いのだ。

 それが月子先生ならばなおさらである。

「それじゃあ、翼を出現させます!」

 宣言と共に背中に翼が広がる光景をイメージした。

 直後、狐となった体の背にむずむずとした感覚が走り、バッと何かが広がる感覚が走る。

 新たに背に生まれた感覚に従って、動けという意識を向けると、上から下に向けて強い空気の流れが生じた。

 それが浮力へと変わり私の体が浮き上がる。

 繰り返し羽ばたきを続けることで、花子さんと雪子学校長の頭の中間くらいまで浮き上がると「息ますね」と二人に向かって告げた。

「無茶はしないでくださいね」

「はい」

 花子さんと会話を交わしたところで、雪子学校長が「頼む」とだけ口にする。

「了解です!」

 頷きで応えた後で、私は勢いを付けて、疑似『黒境』の黒塗りの長方形へと向けて突撃を開始した。

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